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キャサリンの最後⑨

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 その女性はまさかたばこがキャサリンに引火するとは思っていなかったが、混乱したまま川に身を投げた。近くの警らの人達が慌てて救助してくれたから、大怪我とかはなかった。
 女性はキャサリンに対しての物を投げつけた事と、突き飛ばした事だけのおとがめになった。たばこを吹かしていた人はもともと喫煙所だったからと、罪には問われなかった。必死にキャサリンについた火を消そうとして、逆に火傷したことも考慮されたしね。
 その香水が、女性が愛した元婚約者から贈られた、ウィンター・ローズだというのは皮肉かな、と思ったが。
 キャサリンの火傷の被害は、あの金髪だ。あたまの三分の一ほど火傷、当然右の額からまぶたにかけての火傷だ。それから火を消そうてした両手。

「それで、どうなるんですか?」

 静かに優雅に私の前に座るのは、セシリア女公爵だ。

「キャサリンは身寄りのいない平民よ。今は治療院にいるけど、てを焼いているわ」

 だろうね。

「ある程度したら、精神を病んだ犯罪者が収容される場所に行くことになるでしょう。貴女がいたコクーン修道院のようは場所ではありませんが。キャサリンの治療は、アパートメントにある私物を処理、そこにはその資金を持って入ります。資金がある間は治療や痛み止が処方されるでしょう」

 それがいつ尽きるかだ。
 セシリア女公爵が、優雅に紅茶を傾ける。

「気になる?」

「ええ、キャサリンがそこから出てこないかって。そうしたら、また突っかかって来ないかって」

「それは心配ないわ。キャサリンはそこから一生出られないから」

 あ、何かしたな。

「ふふ、私が何もしなくても、あの妄想癖を世に出すような判断はされないでしょうし、ウーヴァの情報網を侮らないで」

「はい」

 逆らわないでおこう。

「貴女はレオナルドの大事な婚約者。そしてアンジェリカにアナスタシアを授けてくれたわ。必ず守り抜いて見せるわ」

 怖いが、これ程心強い人はいないな。

 キャサリンはそこから出ることはなかった。
 収容されて二年になる前に、ガラスに写る自分の姿に発狂し、頭から突っ込んだ。割れたガラスが首に刺さり、出血死。遺体は無縁墓地に入れられた。
 キャサリンの死は、私がユミル学園高等部を卒業してすぐだった。
 一応、元姉ということで、二年喪に伏して、私はレオナルド・キーファーと結婚した。
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