ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

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キャサリンの裁判⑫

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 突然、正気に戻った。
 だが、バトレルさんやグレン伯爵と殴り合いをしていた人達は、きょとんとしてから、ガツンとされて、方法の体で逃げていく。多分、グレン伯爵の顔がおっかない程歪んでいたからかな。
 ほとんどの人が胸をおさえたままだが、その場から動かず、辺りを見回し、状況判断しようとしている。

「ああんっ、アサーヴ様ぁっ、私、怖かったですわぁっ」

 と、気色悪い声を出して、膝をついて肩で息をしているアサーヴ殿下に、キャサリンが花を飛ばしながら駆け寄ろうとする。
 そうは問屋が卸さない。
 大変お世話になった侍女さんが躍り出て、キャサリンの腹部に、強烈な膝を撃ち込んだ。
 演技ではない、キャサリンは目を見開き、腹部をおさえて踞る。

「レオナルド、こちらにっ」

 セシリア女公爵が先ほどまで扇で戦っていたとは思えない落ち着きようで呼ぶ。
 最後まで見たかったが、私はそのままレオナルド・キーファーに抱えられて法廷を後にした。

「ナタリア、大丈夫?」

 先ほど休憩した場所で、私達は一旦避難。
 でも、良かった、来る来ると訴えていたアンジェリカ様を公爵家に残してきて。

「私は大丈夫ですっ。申し訳ありませんっ、お守りするといっておきながらっ」

 わなわなと震えるナタリア。

「ちゃんと守ってくれたじゃない。ほら、叩かれて痛いでしょ、冷やさないと」

「ううっ、お嬢様…………」
 
「ナタリアは私が」

 と、バトレルさんが引き受けてくれた。

「ウィンティア嬢、お怪我をなされたのでは? 私が不甲斐ないばかりに」

 レオナルド・キーファーが謝って来るが、これは彼の責任ではない。

「レオナルド様のせいではありませんよ」

「ウィンティア嬢………」

 それから、私はセシリア女公爵の元に。

「公爵閣下、申し訳ございません。このような騒ぎとなってしまい」

「それこそ貴女のせいではないでしょう。まさか、あの瞬間に『魅了』が発動するなんてね。聞いてはいたけど、キャサリン・ローザの『魅了』は、歴代最強ね。ナットウ神官だけでは足りず、まさか、アサーヴ殿下までご助力いただけるなんて」

 やっぱり。アサーヴ殿下のお母様は、優秀な神官だったはず。

「公にしていないなけど、アサーヴ殿下はあの若さで、高位神官並みの力があるの。生まれつきね」

 ちなみにナットウ神官は血の滲むような努力と修練で、神官となっている。

「アサーヴ殿下にもお礼申し上げないと」

「手紙でよろしい。向こうはテヘロン第二王位継承者です、本来なら気軽に会える立場にありません」

 正論。
 テヘロン大使館で気軽に会いすぎて、麻痺してた。
 それから、手当てを受けているグレン伯爵に深々とお礼を伝える。

「なに、気にする事はない。か弱き婦女子を守るのも、我らの騎士の務めよ」

 かっかっかっ、と笑ってくれた。

「えーっと、そちらの方は?」

 謎の黒髪男性は、無表情で答える。

「名乗るほどではありません。公爵閣下、御前を失礼します」

 挨拶する仕草は、なにやら、格好いいけど、誰、本当に。

「……………後日、お礼の品を贈ります」

「そのような過分な」

「私がそう判断したのです、お分かり?」

 つまり、断れると思うなよ、って事。
 黒髪男性は、少し沈黙、そのまま黙って退室した。
 まともにお礼を言えなかった。

「レオナルド様、あの方は?」

「あの人は、その」

 言葉を濁すレオナルド・キーファー。

「ウィンティア嬢がテヘロン大使館に保護される事になったでしょう。あの日、私が遅刻した」

「ああ、ありましたね」

「私に二週間先の書類を出せと、残業させた元上司です」

「あの人が」

 そういえば、挨拶の仕草がグレン伯爵みたいだと思った。

「元、上司?」

「人事の事は外部にはお知らせできん。ウィンティア嬢、これ以上、レオナルドに聞いてくれるな」

 そう言われたら引っ込むしかない。
 それからしばらくその場に留まることになる。
 予想以上の大騒ぎだったからだ。
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