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キャサリンの裁判⑪

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 ナットウ神官が何かを叫びながら、キャサリンに向かって腕を突きだす。
 すると、キャサリンからでている黒いもやは、ぐねぐねと動き回る。あれ、もしかして、いや、ちがう、あれがきっと、『魔了』の魔女だ。
 黒いもやは、ぐねぐねしたが、ふいに、笑みを浮かべる。はっきり顔だと分からないが、それらしい目と口のところだけ、空洞になってる。歪みながら、笑っている。
 ナットウ神官に絡んでいく傍聴席の人達、大半は踞っているから、数人だけど。詳しく見えない、私はレオナルド・キーファーに抱えられて、向こうにしがみつくのが精一杯だからだ。こちらに向かって来る、混乱と狂喜を灯した若い男性、多分、学生くらいの男性を、レオナルド・キーファーは容赦なく蹴り倒す。
 バトレルさんは、ナタリアを庇いながら情け容赦なく倒している。

「きゃーっ、アサーヴ様ぁーっ」

 キャサリンの黄色の甲高い悲鳴。
 なんとナットウ神官に纏わりついていた傍聴人を数人のテヘロン人がおさえている。あ、大変お世話になった侍女さんだ。うわあ、首に腕を回して、大の男を気絶させてる。
 そしてアサーヴ殿下、多分記者に扮装していたのかな、銀色の髪を隠していた帽子が吹き飛しながら、ナットウ神官と並んでキャサリンに腕を突きだす。
 途端に、黒いもやの動きがおかしくなる。苦し気に、うねりだした。
 と、言うか、あの黒いもやは、誰も見えないの?
 私はレオナルド・キーファーにしがみつき、出口に向かうが当然邪魔される。
 バトレルさんがナタリアとセシリア女公爵を守り、グレン伯爵と、謎の黒髪男性で迎え撃っている。
 法廷内は武装なんて当然禁止、なので、殴り合いだ。
 だけど、何度殴れば拳だってもたない。グレン伯爵と、謎の黒髪男性の拳の皮膚が裂けて血が滲む。
 
 私は、なんて、無力なんだろう。せめて。

「降ります、レオナルド様、降ろしてっ」

 私は邪魔な荷物だ。せめて、それくらいしないと。

「嫌です」

 すっぱり、断られてしまった。
 いや、あの、私、お邪魔よね?

「きゃーっ」

 今度は本当に苦しそうな悲鳴。キャサリンだ。連動して、黒いもやの動きが激しくなる。苦しそうに、形容しがたい形になりながら、ぐねぐね。
 ずるずると、キャサリンから引きずりだそうな黒いもや。

 あら、なんかおかしい。

 いきなりの静寂が法廷内を包んだ。
 ちがう、止まっている。
  
 なんでっ?

「まどかさん」

 その名で呼ぶのは、こちらではただ一人。

「神様」

 白いドレスの神様は、ふわ、と私を見て、空中移動する。
 そして、黒いもやを無造作に掴み、キャサリンから引き剥がす。
 いつも穏やかな顔していた神様の顔から、一切の感情が消える。
 黒いもやは、キャサリンから引き剥がされると、首辺りを神様に掴まれる、もがいている。

「よくも私の世界で好き勝手してくれましたね。条約で向こうに返さなくてはなりませんが、向こうで相応の罰が待っていますよ」

 すう、神様が手を放す。

「死ぬことさえ許されない、煉獄の地獄に逝きなさい」

 黒いもやが、すーっと消える。
 それを見送って、神様はこちらを振り返る。いつもの神様だ。

「ありがとうまどかさん。予想以上の結果です」

 すーっ、と空中移動する神様。

「貴女の望みは叶います。すぐに分かりますよ」

 優しく微笑んで、神様は消える。
 消えた途端に、時間が動き出した。
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