ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

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キャサリンの裁判⑩

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 キャサリンからでている黒いもやは、いびつな形をしながら、歪んだ笑みを浮かべている。
 気持ち悪いが、それどころではない。
 胸の内側を抉られるような感覚。
 たまらず胸をおさえる。

「ううっ」

 ナタリアまで胸をおさえている。隣にいたレオナルド・キーファーとセシリア女公爵まで。

「皆様っ、私を信じてくださいませっ、あの子は望まれて生まれたわけではないのですっ」

 好き勝手言いやがってっ。
 私は怒りがまさり、胸の苦しさが軽くなる。
 キャサリンから出る黒いもやが、ケタケタ笑っているようだ。

「そうだっ、その女は生まれてはいけないものだっ」

「そうだ、そうだっ」

「消せっ、消せっ」

 一斉に周囲の傍聴席の人達、一部だが叫びだす。
 え? 何?
 見渡すと、数人がこちらに向かって来た。
 その顔は、正気を失っている。
 全身にはしるのは、恐怖。

 ガツンッ

 と、全く躊躇いもなくカウンターパンチを繰り出したのは、なんとレオナルド・キーファー。
 認識してからはまさに乱闘だ。
 セシリア女公爵が扇を、目を血走らせた女性の鳩尾を一撃。バトレルさんは肘鉄を食らわせて、中年男性を沈める。

「きゃあっ」

 私は怖くてナタリアとしっかり抱き合っていたが、頭に激痛が走る。
 誰かが、乱暴に髪を掴みあげたのだ。

 痛いっ、痛いっ、痛いっ。

「生まれた罪だっ」

 血走らせた目の若い貴族男性だ。

「お嬢様っ」

 ナタリアが若い貴族男性の腕に飛びかかるが。

 バチンッ

 容赦なくナタリアの顔を払うように殴打。ナタリアは床に倒れ込む。

「ナタリアッ」

 必死に起き上がろうともがいているが、さらに髪を掴んだ手に力が入るのを感じる。痛いっ、痛い。
 がっ、と喉を掴まれる。
 
 殺される。

「ティアラッ」

 恐怖に凍りついた瞬間、高齢男性が、喉を掴んだ若い貴族男性の腕に飛びかかる。

「ティアラッ、ティアラッ、私のティアラッ」

「うるさいっ」

 高齢男性は痩せていて、若い貴族男性の力に勝てず、よろめいているが、それでもしがみつき、とうとう殴られている。私はその瞬間自由になり、床を張って逃げる。

「皆様、うれしいっ。私の事を信じてくれてっ」

 キャサリンのとんちんかんな発言に、振り返り余裕はない。

「お嬢様っ」

 ナタリアが必死に私を抱き締めて覆い被さるように庇ってくれる。この体制まずくない? ナタリア、蹴られたりしない?
 すると、やはり先ほどの若い貴族男性が、狂喜を宿した顔で向かって来た。その足にすがりつくのは高齢男性。

「ティアラッ、逃げなさいっ」

 高齢男性を足げにしようとした若い貴族男性を、中年の黒髪男性が殴り付けている。軽く、ぶっ飛んでいるけど、誰、あの人?

「ウィンティア嬢、こちらにっ、バトレルッ」

 レオナルド・キーファーが、私を抱き上げる。
 バトレルさんがナタリアをたたせる。
 セシリア女公爵の側で、容赦なく殴り倒しているのはなんとグレン伯爵。流れるように殴っている。

「きゃーっ」

 耳障りな悲鳴。
 キャサリンだ。
 乱闘の最中、白い、白髪を翻しているのは、記者に扮装した、あの無愛想なナットウ神官だった。
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