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キャサリンの裁判⑨

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「今法廷は、その話をする場ではない。次の最終弁論で双方の意見を聞くとする」

 裁判長が見た目だけが、キャサリンの魂の叫びを全否定する。冷静だなあ。ざわめいた法廷が、静まり返る。

「これをもち、今法廷を閉廷するっ」

 裁判長の宣言。

「どうしてですのっ、私はっ、私はっ、ローザ伯爵家と、騙されているウーヴァ公爵家の為にっ、おばあさまの為にっ」

 そのおばあさま、ティーナ・ローザの毒殺はあんたのせいでしょうが。
 ひっぱたいてやりたい。
 ウィンティアの祖母ティーナ・ローザだって、死にたくて死んだわけではない。必死にウィンティアの為に、セーレ商会の為に、テヘロンのウィンター・ローズ村のために、必死に生きていたのに。
 生物学上の両親、母親は今にも崩れ落ちそうだ。だが、父親は無感情でキャサリンを見ている。まるで、興味を持てない置物を見ているみたい。娘を見るものじゃないな。

「付き合っていられないわ。レオナルド、ウィンティア嬢、帰りますよ」

 セシリア女公爵が立ち上がる。
 確かに、付き合ってらんない。私はしっかりレオナルド・キーファーに引率される。ナタリアもぴったり張り付いてくれる。
 キャサリンはみっともなく、泣き叫んでいる。

「どうしてですのっ? どうして私の言うことを信じてくれないのですっ、私は、私は、キャサリン・ローザなんですのよっ」

 ワケわからん。
 キャサリンの立場は、ローザ伯爵家の長女というだけ。外に社会的地位が、上の人はごまんといる。代表は私の前を歩く、セシリア女公爵だけどね。
 さっき、ウーヴァ公爵の名前が出たけど、どうするつもりなんだろう? きっと考えてないはず。
 ああ、疲れた、帰ってマルティンに癒されよ、アンジェリカ様のお腹も心配だし。

「皆様っ、私を信じてくださいませっ、私の言葉は全てが真実なのですっ。ウィンティアは、叔母、ティアラが不義を働いて生んだ娘っ、育てられないから、ローザ伯爵家に捨てていったんですっ」

 かちん、と来た。
 ティアラ・ローザは、ミッドナイト貧血でわずか十四でこの世を去った。好きで死んだわけではない。反論できない、ティアラ・ローザをキャサリンは侮辱している。
 キャサリンが言うのは、所詮ゲームの設定。現実ではない。どうしてここまでゲームと違うのに、その設定を信じているんだろう? ティアラ・ローザが亡くなっているのは、両親から聞いているはずなのに。
 やはり、ショック療法で、一発ぶん殴ったほうがいいかも。
 喚くキャサリンを振り返る。

 え? あれなに?

 キャサリンの頭の上に、真っ暗なもやみないのが浮かぶ。いびつな形は人のようだけど、あれ、何?

 ぞわわわわわっ

 全身の鳥肌が立つ。なにっ、からだの内側がぞわぞわして気持ち悪いっ。
 これ、あれだ、アンジーで感じたやつ。アデレーナから一瞬感じたやつの、もっと強化バージョンだっ。

「私をっ、私の言葉を信じてくださいっ」

 黒いもやが、一気に大きくなる。
 すると、法廷内の人達が胸を押さえて倒れこんだ。
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