ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
上 下
291 / 338

待つ間⑬

しおりを挟む
 キャサリンが使用人達を振り切り、私に突進してくる。

 パシンッ

「きゃあっ、痛いですわっ」

 アンジェリカ様が扇でキャサリンの腕を強かに打ったのだ。

「な、何をなさいますのっ。私、私っ、指輪を盗られて…………」

「お黙りなさい」

 うっわ、アンジェリカ様、怖かっ。

「私の連れに手を出そうとして、私が見逃すとでも思って? それにこの指輪は、彼女が婚約者から贈られたもの、貴女のものではないわ」

「そんなのその子の嘘ですわっ、騙されていらっしゃるのですっ」

「この指輪の作製には、私も関わっています。工房の橋渡しをしましたのよ」

「それでも私の為に作られたはずですわっ」

 ざわざわと、キャサリンを見る目に、戸惑い以上に、呆れ返るものが混じる。あの天下のウーヴァ公爵家跡取り娘のアンジェリカ様に口答えしているからね。恐れ知らずか、バカか。

「そのドレスだって、本来なら私のもののはずっ。お父様にわがまま言って、作らせたんですわっ。どこまで意地汚い子っ」

「これは、私のドレスを彼女の為にリメイクしたもの。貴女ような人の為にリメイクしませんわ」

「私はローザ伯爵家の跡取りですのよっ、そのような中古品を身につけるようは恥ずかしい真似はできませんわっ」

 一斉に、キャサリンを見る目が厳しいものに。
 ルルディにはお下がり文化がある。いい例がドレスだ。丈夫に品よく作り、次に繋げていく。アンジェリカ様の場合、公爵令嬢の衣装だから、基本的に品質は最高によく作ってある。私がいるから、最近せっせとリメイクしてくれてる。ドレス以外でもお下がりは見ている。ウーヴァ公爵家のいぶし銀の執事さんは、古い懐中時計を大事にしている。公爵家執事に代々継承されるものだからって。生物学上の父親も、古い万年筆を修理しながら使っているのは、ローザ伯爵が以前子爵だった時、伯爵に繰り上げした時の祝いの品を、曾祖父、祖父、父から受け継いだものだからだ。
 つまり、ものを大事にと同時に、大切な思いを繋げていくのだ。
 それを、キャサリンが全面否定。キャサリンが言ったのは、品格の欠片もない、成金の発言だ。

「貴女の言葉は気分を害するわ。連れていきなさい」

 エヴァエニエス侯爵夫人の指示で、みっともなく騒ぐキャサリンは退場。はあ、なんだか疲れた。何もしてないけどね。
 それから、私は別のお茶会参加者にねぎらいの言葉をいくつもかけられた。

「大丈夫? いつもあんな感じなの?」

「精神的に来たんじゃない? お菓子食べる?」

「噂に聞いたのとずいぶん違うからびっくりしたよ。君、苦労していないかい? なんならローザ伯爵に注意するよ」

 等々。
 キャサリンはあの見た目なので、ローザ伯爵家の妖精だとか、お人形姫とか呼ばれている。
 実はそのお茶会は、エヴァエニエス侯爵夫人とアンジェリカ様が画策したもの。キャサリンの回復し始めた評判を落とすために、ね。なので、侯爵家のお茶会会場にもすんなり入れたわけだ。もちろん招待状がなく、入り口でひと悶着起こしていたキャサリンを、誘導する親切を皮に被った貴族紳士もダミーだ。
 結果、エヴァエニエス侯爵夫人とアンジェリカ様の思惑通りに。
 どうせいつか自爆するだろうけで、どうしても、キャサリンの評判を早急に落としたい理由ができたからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...