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事例八の末路⑩

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「ナタリアッ」

「お嬢様っ」

 私はレオナルド・キーファーに連れられて、ナタリア達がいるマレッフィトホテルに。
 昨日、ゾーヤ・グラーフとティーシモン・バズルへの判決が下った。
 無事にキリール・ザーデクの名誉が回復された。
 ゾーヤ・グラーフはコーン子爵令嬢が入った修道院に二十五年。ティーシモン・バズルは場所は違うが山林を管理する厳しい修道院に四十五年だ。これは恩赦や模範囚なら多少変わるが、多少だ。刑期を終えたら、この二人は還暦越えている。ティーシモン・バズルは、刑期内で寿命を迎える可能性がある。ルルディには終身刑はない。死んで楽になるようにしない、という考えだ。それにこういった厳しい刑務所的な修道院では、貴族、元貴族はあまり待遇はよくない。いわゆるいじめの対象になるそうだ。くるくる巻き髪のペルク侯爵の行った修道院は、比較的そういった少ない、少ないだけ。まったくないわけではない。
 この刑期の差には、キリール・ザーデクの殺人計画を立案して実行した主犯がティーシモン・バズルだと言うこと。現在の警らの発起人である賢王フリージア殿下に泥を塗った事。しかも、警らのトップという立場にあることが社会に及ぼす影響が大きいとされているそして二人が深く反省して、どんな罪名でも受け入れる覚悟があることで、これだ。
 この二人にはナタリア達に慰謝料の支払いが命じられた。ま、当然だね。残念ながら、ザーデク子爵家はすでに別の住人がいるため、新しい住居を探す予定だ。
 で、キリール・ザーデク殺害実行犯は、もうじき判決がでる。それが終わり、ナタリア達は新しい住居に移動準備開始だ。

 私は青色のワンピースを着たナタリアと、ひし、と抱きあう。

「お疲れ様ナタリア、頑張ったね」

「すべてお嬢様のおかげですっ、父の名誉が回復出来ました、ありがとうございますありがとうございます」

 私は震えるナタリアの背中を撫でる。

「おじょうちゃまーっ」

 マルティンが走ってきた。かわいいっ。きゅう、と抱き締める。

「カモンヴァレリーッ」

「さすがに無理です」

 恥ずかしがりや屋め。

 私達はホテルのカフェの一室で、テーブルを囲む。

「ねえ、ナタリア、これからの事だけど」

「はい」

 ナタリアはカップを置く。

「私はやっぱりお嬢様の専属メイドを続けたいんです」

「でも、学業と平行は厳しいよ」

「お嬢様がローザ伯爵家から通っていらっしゃったら厳しかったかもしれませんが、お嬢様は寮生ですし、ローザ伯爵家に一時帰宅の時と、学園が休みの時だけでいいとローザ伯爵様に許可を頂きました」

 ヤル気満々ふんす、ナタリア、かわいい。
 ナタリアは無事にユミル学園に復学するが、裁判の関係で今年度の枠に入れなかった。ナタリアは中等部三年の途中で、中退した。成績を加味して、高等部への一年生として編入となる。来年だけどね。今から勉強頑張るって。ナタリア生き生きとしている。

 アパートメントはバズル伯爵からの慰謝料で何とかなるそうだ。治安のいい所にあり、慰謝料はアパートメントの一室購入に当てられる。本来ナタリア達が受けるはずのキリール・ザーデクの遺族年金も、ナタリア達が受け取るように手続きがすんだ。これはまだゾーヤがザーデク子爵家に籍があった時に自分の口座に振り込みするように手配していたので、ナタリア達にびた一文手に出来なかった。

「生活はなんとかなりそうです」

 良かった。
 で、グラーフ伯爵家からの慰謝料は?

「断りました」

「え?」

「マルティンをグラーフ伯爵家の養子にとひつこくて、ダメなら私でもいいって」

 失礼だな。

「ですから、慰謝料の代わりに、私達に手を出さないように制約してもらいました。弁護士の先生に間に入ってもらって正式に決まりました」

 でも、と。

「グラーフ伯爵は、ヴァレリーが大学を出るまでの間、毎月10万ルルは仕送りするって。私、始めは嫌だったんですけど、ヒルダ夫人に言われて受けることにしました。これはグラーフ伯爵のけじめだし、正式に制約もあるから、マルティンにはちょっかいかけられない。おそらくこれからお金はいる、だから、受けなさいって」

「そっか」

 私は手元のカップに視線を落とす。
 視界の中でマルティンがソファーで寝ている。

「ねえナタリア、アデレーナの事なんたけど」

 三日前、アデレーナが滑落死したのは新聞を賑わせていた。
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