ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
上 下
267 / 338

事例八の末路⑩

しおりを挟む
「ナタリアッ」

「お嬢様っ」

 私はレオナルド・キーファーに連れられて、ナタリア達がいるマレッフィトホテルに。
 昨日、ゾーヤ・グラーフとティーシモン・バズルへの判決が下った。
 無事にキリール・ザーデクの名誉が回復された。
 ゾーヤ・グラーフはコーン子爵令嬢が入った修道院に二十五年。ティーシモン・バズルは場所は違うが山林を管理する厳しい修道院に四十五年だ。これは恩赦や模範囚なら多少変わるが、多少だ。刑期を終えたら、この二人は還暦越えている。ティーシモン・バズルは、刑期内で寿命を迎える可能性がある。ルルディには終身刑はない。死んで楽になるようにしない、という考えだ。それにこういった厳しい刑務所的な修道院では、貴族、元貴族はあまり待遇はよくない。いわゆるいじめの対象になるそうだ。くるくる巻き髪のペルク侯爵の行った修道院は、比較的そういった少ない、少ないだけ。まったくないわけではない。
 この刑期の差には、キリール・ザーデクの殺人計画を立案して実行した主犯がティーシモン・バズルだと言うこと。現在の警らの発起人である賢王フリージア殿下に泥を塗った事。しかも、警らのトップという立場にあることが社会に及ぼす影響が大きいとされているそして二人が深く反省して、どんな罪名でも受け入れる覚悟があることで、これだ。
 この二人にはナタリア達に慰謝料の支払いが命じられた。ま、当然だね。残念ながら、ザーデク子爵家はすでに別の住人がいるため、新しい住居を探す予定だ。
 で、キリール・ザーデク殺害実行犯は、もうじき判決がでる。それが終わり、ナタリア達は新しい住居に移動準備開始だ。

 私は青色のワンピースを着たナタリアと、ひし、と抱きあう。

「お疲れ様ナタリア、頑張ったね」

「すべてお嬢様のおかげですっ、父の名誉が回復出来ました、ありがとうございますありがとうございます」

 私は震えるナタリアの背中を撫でる。

「おじょうちゃまーっ」

 マルティンが走ってきた。かわいいっ。きゅう、と抱き締める。

「カモンヴァレリーッ」

「さすがに無理です」

 恥ずかしがりや屋め。

 私達はホテルのカフェの一室で、テーブルを囲む。

「ねえ、ナタリア、これからの事だけど」

「はい」

 ナタリアはカップを置く。

「私はやっぱりお嬢様の専属メイドを続けたいんです」

「でも、学業と平行は厳しいよ」

「お嬢様がローザ伯爵家から通っていらっしゃったら厳しかったかもしれませんが、お嬢様は寮生ですし、ローザ伯爵家に一時帰宅の時と、学園が休みの時だけでいいとローザ伯爵様に許可を頂きました」

 ヤル気満々ふんす、ナタリア、かわいい。
 ナタリアは無事にユミル学園に復学するが、裁判の関係で今年度の枠に入れなかった。ナタリアは中等部三年の途中で、中退した。成績を加味して、高等部への一年生として編入となる。来年だけどね。今から勉強頑張るって。ナタリア生き生きとしている。

 アパートメントはバズル伯爵からの慰謝料で何とかなるそうだ。治安のいい所にあり、慰謝料はアパートメントの一室購入に当てられる。本来ナタリア達が受けるはずのキリール・ザーデクの遺族年金も、ナタリア達が受け取るように手続きがすんだ。これはまだゾーヤがザーデク子爵家に籍があった時に自分の口座に振り込みするように手配していたので、ナタリア達にびた一文手に出来なかった。

「生活はなんとかなりそうです」

 良かった。
 で、グラーフ伯爵家からの慰謝料は?

「断りました」

「え?」

「マルティンをグラーフ伯爵家の養子にとひつこくて、ダメなら私でもいいって」

 失礼だな。

「ですから、慰謝料の代わりに、私達に手を出さないように制約してもらいました。弁護士の先生に間に入ってもらって正式に決まりました」

 でも、と。

「グラーフ伯爵は、ヴァレリーが大学を出るまでの間、毎月10万ルルは仕送りするって。私、始めは嫌だったんですけど、ヒルダ夫人に言われて受けることにしました。これはグラーフ伯爵のけじめだし、正式に制約もあるから、マルティンにはちょっかいかけられない。おそらくこれからお金はいる、だから、受けなさいって」

「そっか」

 私は手元のカップに視線を落とす。
 視界の中でマルティンがソファーで寝ている。

「ねえナタリア、アデレーナの事なんたけど」

 三日前、アデレーナが滑落死したのは新聞を賑わせていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

window
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...