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事例八の末路⑨ ※注意

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 ティーシモン・バズルの意識の奥底で抵抗感があった。
 実はバズル伯爵家は長年警らの仕事を勤めあげて、侯爵への格上げの話があった。それを知ったアデレーナが欲をかいたのだ。伯爵令嬢から侯爵令嬢になりたいと。
 だが、妊娠中毒で奥さんが亡くなって間がなかった、それなのに、直ぐに再婚、しかも長年不倫していた相手と、だ。
 殺人だって簡単に済むわけない。殺人教唆をした二名にいつ脅迫されるか分からないし、昔馴染みの貴族からしたら、ゾーヤ・グラーフとの関係もばれる。そうなれば侯爵へ、なんてどころではない、下手したら罪人まっしぐらだ。
 そんなためらいを捩じ伏せたのがアデレーナの『魅了』だ。

 アデレーナが、言うなら、アデレーナが、望むなら。

 こそこそ会うのも飽きてきた、だって隠したい相手の一人、つまり、ティーシモン・バズルの奥さんは死んでしまったし。

 それからの話はテヘロンの『影』が調べあげてくれた内容だ。
 まず、ゾーヤ・グラーフとティーシモン・バズルの再婚で、最大の障壁であるキリール・ザーデクを殺害計画。
 ゾーヤ・グラーフはアデレーナに言われるがまま、ザーデク子爵家の家をタイミングよく売り払い、財産を根こそぎ奪った。キリール・ザーデクの生命保険的なものもすべてね。ゾーヤ・グラーフは始めは、ザーデク子爵家はナタリア達に残すつもりでいた、そしてキリール・ザーデクの死亡による遺族年金があれば、ギリギリでもナタリア達三人の生活はできる。特にナタリアは準特進クラスに在籍して、成績がよく、奨学金の許可だって出るだろう、と。
 それもアデレーナの『魅了』で粉微塵だ。
 
 アデレーナが、望むなら、アデレーナが、言うなら。

 で、そのアデレーナの『魅了封じ』が行われた事で、この二人の末路が決まった。
『魅了』されていたからと、決して許されるわけではない。
 最終的な判決は先だが、厳罰が下るだろう。

「アデレーナは最後まで自分にが『魅了』があるとは認知出来なかったわ。だけど、十二歳とは言え、分別が無さすぎるわ。自分の欲望を通すとはいえね。ただ、キリール・ザーデクの殺害に関してはアデレーナは関与してないと判断された。『魅了』されたゾーヤ・グラーフとティーシモン・バズルが画策したことだし」

 結局、アデレーナの処遇はどうなるのだろう。

「コーン子爵令嬢を覚えている?」

「はい。確か鉱山を管理する厳しい修道院に行ったと」

「それより厳しい所があるのよ。高原植物の管理する修道院があって、そこに十年よ」

「高原植物?」

「薬の原料になるのよ。当然高地だし、気軽に行ける場所ではなし、安全な花畑ではないわ。むき出しの岩肌に生える植物を採取、必要時の管理ね、落石、転倒で切り傷がたえない場所よ」

 住居は掘っ立て小屋。食べ物は麓からの支給。もし天候次第で支給がなければ何日も朝露で凌ぐだそうだ。その修道院まで、数日かかる。そんな高地だ。しっかりした装備品があって数日だ。

「恩赦はないわ。アデレーナは自分の容姿に自信があるんでしょうが、あそこの看守は定期的に変わるのよ。それに『魅了』持ちだとわかっているわ。だから、看守は『魅了』されるほど長くいない。十年もあそこにいれば、その容姿も無惨にも崩れるでしょうし、もし無事にあそこから帰れても、グラーフ伯爵から除籍されているから、後ろ楯一つない平民となるわ」

 録に手入れもしなければ日焼けによるシワや染みがすごいことになる。
 それに、とセシリア女公爵は続ける。

「あそこは模範囚でもなければ、十年も生きられないわ。五年で落石や滑落でも死亡するのが三割を越すし、脱走すれば、確実に命取りよ」

「そうですか」

 あのアデレーナが大人しく作業するとは思えない。
 私の予感は的中した。

 アデレーナはその修道院に搬送されて、数日もしない内に脱走。滑落して、谷底で四肢がおかしな方向に曲がっているのが発見された。滑落の際に出来た傷で、皮膚へズタズタ、顔面は当然潰れ、修道院に入る際に入れられた新しい刺青で本人確認されたそうだ。

 これが事例八、アデレーナ・グラーフの末路だ。
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