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事例八の末路⑧

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「そうですか」

 私は静かに報告を受ける。
 年が明け、寒い時期が続いたが、天気のいい日だった。

 マレッフィトホテルに不審者が侵入、ホテルの警備員に捕らわれる。被害は植え込みの花だけ。

 朝刊にそうあったため、やはり来たと思った。
 アデレーナが『魅了』を使い、ナタリア達に害を成さないかと心配していた。アンジーの店内で、あんなに醜く騒ぎ立てた、浅はかな頭なら、簡単にナタリアを傷つけたら訴えを斥けると思わないか、と。
 私が懸念するくらいだ、ウーヴァ公爵や弁護士軍団もわかっていたようで、がっちりガードしてくれていた。
 アデレーナの周辺を警戒していたウーヴァ公爵の『影』が、ナタリア達の襲撃を察知。ホテルの一番外側の外側で簡単に捕まったみたい。

「捕らえられた者たちの聴取で、アデレーナ・グラーフの『魅了』が疑いから確定になった。それで教会に『魅了封じ』の依頼が行われたわ」

 ゆったりと、紅茶のカップを傾けるのは、セシリア女公爵。元々『魅了』の疑いがあったので、この襲撃を機にトントン拍子に話が進んだ。

「母親のゾーヤ・グラーフが激しく抵抗していたけど、アデレーナに『魅了封じ』が行われたとたんに、苦しみだした」

『魅了』された者は、その『魅了』の深さに応じて、解除された時に苦痛が襲う。

「もっとも深く『魅了』されていたのは母親のゾーヤだったようね。次にティーシモン・バズル」

 なんとなく思っていたことだ。
 ゾーヤ・グラーフのナタリア達への待遇があまりにも酷すぎた事が引っ掛かっていた。アデレーナだけを連れて、ナタリア達を捨てた。帰る家を売り払い、根こそぎ財産を奪い、グラーフ伯爵からの毎月の仕送りまでも奪った。いくら、ナタリア達が父親似であるとしても、アデレーナとの待遇が違う。セシリア女公爵からいわせたら、もっと屑な親はいると言うが、引っ掛かっていた。そしてティーシモン・バズルもだ。警らの上層部にいながら、人を使って、殺人教唆なんてリスクの高い事する? しかも不倫相手の旦那で、現役の騎士だし、時期的にまだ妊娠中毒で奥さんが亡くなってからまだ日が浅い時期にって。ウーヴァ公爵家で、ゆっくり考えているとおかしい、おかしい、って思っていた。

「『魅了』が解けたティーシモン・バズルが自白したわ」

 アデレーナは自分がキリール・ザーデクの娘でないことを知っていた。そして、自分が誰の子供であるかもだ。だが、アデレーナはそれを悲観する訳ではない、自分のステータスを上げる為に利用しただけ。
 たった一度だけ、ゾーヤ・グラーフとティーシモン・バズルの秘密の会瀬に乱入。そして、二人を唆した。

 このまま子爵家の次女なんていや、ユミル学園に入学するまでに伯爵家の一人娘になりたい。あんな小さな家なんて嫌、ちゃんと貴族の令嬢になりたい。

 ザーデク子爵だって立派な爵位だ。代々王城に勤めているし、特にキリール・ザーデクは騎士の中でも、指揮官と上級指導員の資格がある。人望もある。

 始めはティーシモン・バズルは渋った。
 当時まだ奥さんが亡くなって間がなかった事もある。体裁的にまだ、早い、そう思ったがアデレーナが納得しない。

 どうしても伯爵令嬢に格上げしたいアデレーナがおそらく初めて強く『魅了』した瞬間だ。そこからの記憶と自身の考えが辻褄が合わなくなってしまった、と。

『魅了』された人間によくある症状だ。
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