256 / 338
閑話 テヘロンの侍女 その2
しおりを挟む
なぜ、ティーナ夫人が、なぜ、なんで。
私の声に誰も答えてくれなかった。
皆そう思っていたからだ。
詳しい事情を知るセーレ商会の人間が来て、やっと真相が明らかになった。
ティーナ夫人は、もう一人の孫娘キャサリンの『魅了』の被害者だった。
あまりにも無惨な死だ。
いつも誉めてくれたティーナ夫人がいなくなり、私は投げやりになっていた頃に、一通の手紙が届いた。
両親からだ。
なんと、ルルディから、私宛の手紙だ。
ティーナ夫人からだった。
私の手紙はティーナ夫人に届いていた。ティーナ夫人は返事を書いたが、結局投函前に毒殺された。遺品を整理していた、メイドが見つけて、わざわざ自腹で送ってくれたのだ。
貴女は私の自慢の生徒。
いつか、孫娘、ウィンティアを連れて、ウィンター・ローズ村に行きます。
その時は、
で、終わっていた。
字は、苦しかったのか、最後の方は歪んでいた。
私は再び泣いた。苦しい中でも、手紙を書こうとしてくれた事に。
私は決意した、私はティーナ・ローザ夫人の自慢の生徒なのだ、胸を張ろう。恥ずかしくない人間であろう。
そして、いつの間にか、スティーシュルラ殿下の留学に伴い随行メンバーに選ばれた。
私はフア語を完全にマスターしていたし、戦闘訓練を積んでいたので、護衛としての役割があった。
本来ならユミル学園でもお側にいなくてはならないのだが、学園から許可が出なかった。緊急で入学試験に挑んだ子息や令嬢で突破出来たのは、テヘロン王国でも有力貴族の三男坊のソードだけ。
正直、ルルディへのスティーシュルラ殿下の留学は、異議を唱えるものがいたのは事実だ。
ルルディには、テヘロン人を見下すモニカ妃殿下がいるからだ。『テヘロンの至宝』と呼ばれるスティーシュルラ殿下は、穏やかで王女としての役割を十分に理解されている。学園でも陰口を言われているのに、おおらかに対応していた。
齢十二の王女殿下が、責務を全うしているならと、私達は大使館職員一丸となりお守りしなくては、と思っていた矢先。
あるルルディ人の少女を、テヘロン大使館で保護されることになった。
世話役を仰せつかったのは、私だ。
保護された少女を見て、私は息が詰まった。
確かに、少女だ、少女だが。
ティーナ・ローザ夫人の血筋だと、一目見てわかった。
かつて聞いた、ティーナ・ローザ夫人の娘が、ティーナ夫人と瓜二つだと。幼くして亡くなった娘は、ティアラ・ローザ。まさか、と思ったが、年齢的に少女はティーナ夫人の孫娘。ティーナ夫人が命がけで守ろうとした孫娘だ。
私は震えた。
なんという運命なのだろう、と。
少女は、ウィンティア・ローザは熱を出していたが、あちこちあるみみず腫れのような傷を見て、思わない事はなかったが、私は責務を全うした。
接しながら、ウィンティア・ローザはティーナ夫人とは全う別の人間だと認識したが、彼女は私が守るべきなのだと思うようになった。
私の半分も生きていない彼女の人生は、波乱万丈だ。
せっせと世話しながら、時に思う。
彼女はテヘロン人の心を鷲掴みにするような事を、するり、と放つ。
敬遠されていたテヘロン料理を疑いもなく食べた。理由は『テヘロンの至宝』であるスティーシュルラ殿下が口にしているからだ、と。それは、何よりテヘロン料理を、作っているシェフを信頼していることだ。
そして何より、スティーシュルラ殿下の美しさを素直に美しいと言う姿だ。
ぎこちなくても、必死にテヘロン語を使う姿も可愛らしい。
これでテヘロン大使館職員は、ウィンティア・ローザの賓客扱いするのに、抵抗はなくなった。
一番ウィンティア嬢の才能に惚れ込んだのはシェフだった。
僅かな香辛料の変化もウィンティア嬢はわかっていた。
シェフ達にしたら、素直にテヘロン料理を食べてくれるウィンティア嬢の要望に答えたかっただけで、作ったラップサンド。あれがきっかけでルルディ王国で、避けられていたテヘロン料理に意識を向けてもらえた。
「彼女の舌とアイデアは素晴らしいな。なあ、ソード、お前、婚約者いなかったな?」
アサーヴ殿下が本気なのかよく分からない事を言って、ソードが困った顔をしていた。
仮、とは言え、婚約者がいるウィンティア嬢。
そう簡単に行くわけないと思っていた。
私の声に誰も答えてくれなかった。
皆そう思っていたからだ。
詳しい事情を知るセーレ商会の人間が来て、やっと真相が明らかになった。
ティーナ夫人は、もう一人の孫娘キャサリンの『魅了』の被害者だった。
あまりにも無惨な死だ。
いつも誉めてくれたティーナ夫人がいなくなり、私は投げやりになっていた頃に、一通の手紙が届いた。
両親からだ。
なんと、ルルディから、私宛の手紙だ。
ティーナ夫人からだった。
私の手紙はティーナ夫人に届いていた。ティーナ夫人は返事を書いたが、結局投函前に毒殺された。遺品を整理していた、メイドが見つけて、わざわざ自腹で送ってくれたのだ。
貴女は私の自慢の生徒。
いつか、孫娘、ウィンティアを連れて、ウィンター・ローズ村に行きます。
その時は、
で、終わっていた。
字は、苦しかったのか、最後の方は歪んでいた。
私は再び泣いた。苦しい中でも、手紙を書こうとしてくれた事に。
私は決意した、私はティーナ・ローザ夫人の自慢の生徒なのだ、胸を張ろう。恥ずかしくない人間であろう。
そして、いつの間にか、スティーシュルラ殿下の留学に伴い随行メンバーに選ばれた。
私はフア語を完全にマスターしていたし、戦闘訓練を積んでいたので、護衛としての役割があった。
本来ならユミル学園でもお側にいなくてはならないのだが、学園から許可が出なかった。緊急で入学試験に挑んだ子息や令嬢で突破出来たのは、テヘロン王国でも有力貴族の三男坊のソードだけ。
正直、ルルディへのスティーシュルラ殿下の留学は、異議を唱えるものがいたのは事実だ。
ルルディには、テヘロン人を見下すモニカ妃殿下がいるからだ。『テヘロンの至宝』と呼ばれるスティーシュルラ殿下は、穏やかで王女としての役割を十分に理解されている。学園でも陰口を言われているのに、おおらかに対応していた。
齢十二の王女殿下が、責務を全うしているならと、私達は大使館職員一丸となりお守りしなくては、と思っていた矢先。
あるルルディ人の少女を、テヘロン大使館で保護されることになった。
世話役を仰せつかったのは、私だ。
保護された少女を見て、私は息が詰まった。
確かに、少女だ、少女だが。
ティーナ・ローザ夫人の血筋だと、一目見てわかった。
かつて聞いた、ティーナ・ローザ夫人の娘が、ティーナ夫人と瓜二つだと。幼くして亡くなった娘は、ティアラ・ローザ。まさか、と思ったが、年齢的に少女はティーナ夫人の孫娘。ティーナ夫人が命がけで守ろうとした孫娘だ。
私は震えた。
なんという運命なのだろう、と。
少女は、ウィンティア・ローザは熱を出していたが、あちこちあるみみず腫れのような傷を見て、思わない事はなかったが、私は責務を全うした。
接しながら、ウィンティア・ローザはティーナ夫人とは全う別の人間だと認識したが、彼女は私が守るべきなのだと思うようになった。
私の半分も生きていない彼女の人生は、波乱万丈だ。
せっせと世話しながら、時に思う。
彼女はテヘロン人の心を鷲掴みにするような事を、するり、と放つ。
敬遠されていたテヘロン料理を疑いもなく食べた。理由は『テヘロンの至宝』であるスティーシュルラ殿下が口にしているからだ、と。それは、何よりテヘロン料理を、作っているシェフを信頼していることだ。
そして何より、スティーシュルラ殿下の美しさを素直に美しいと言う姿だ。
ぎこちなくても、必死にテヘロン語を使う姿も可愛らしい。
これでテヘロン大使館職員は、ウィンティア・ローザの賓客扱いするのに、抵抗はなくなった。
一番ウィンティア嬢の才能に惚れ込んだのはシェフだった。
僅かな香辛料の変化もウィンティア嬢はわかっていた。
シェフ達にしたら、素直にテヘロン料理を食べてくれるウィンティア嬢の要望に答えたかっただけで、作ったラップサンド。あれがきっかけでルルディ王国で、避けられていたテヘロン料理に意識を向けてもらえた。
「彼女の舌とアイデアは素晴らしいな。なあ、ソード、お前、婚約者いなかったな?」
アサーヴ殿下が本気なのかよく分からない事を言って、ソードが困った顔をしていた。
仮、とは言え、婚約者がいるウィンティア嬢。
そう簡単に行くわけないと思っていた。
90
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?
西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね?
7話完結のショートストーリー。
1日1話。1週間で完結する予定です。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜
影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。
けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。
そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。
ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。
※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる