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閑話 テヘロンの侍女 その2
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なぜ、ティーナ夫人が、なぜ、なんで。
私の声に誰も答えてくれなかった。
皆そう思っていたからだ。
詳しい事情を知るセーレ商会の人間が来て、やっと真相が明らかになった。
ティーナ夫人は、もう一人の孫娘キャサリンの『魅了』の被害者だった。
あまりにも無惨な死だ。
いつも誉めてくれたティーナ夫人がいなくなり、私は投げやりになっていた頃に、一通の手紙が届いた。
両親からだ。
なんと、ルルディから、私宛の手紙だ。
ティーナ夫人からだった。
私の手紙はティーナ夫人に届いていた。ティーナ夫人は返事を書いたが、結局投函前に毒殺された。遺品を整理していた、メイドが見つけて、わざわざ自腹で送ってくれたのだ。
貴女は私の自慢の生徒。
いつか、孫娘、ウィンティアを連れて、ウィンター・ローズ村に行きます。
その時は、
で、終わっていた。
字は、苦しかったのか、最後の方は歪んでいた。
私は再び泣いた。苦しい中でも、手紙を書こうとしてくれた事に。
私は決意した、私はティーナ・ローザ夫人の自慢の生徒なのだ、胸を張ろう。恥ずかしくない人間であろう。
そして、いつの間にか、スティーシュルラ殿下の留学に伴い随行メンバーに選ばれた。
私はフア語を完全にマスターしていたし、戦闘訓練を積んでいたので、護衛としての役割があった。
本来ならユミル学園でもお側にいなくてはならないのだが、学園から許可が出なかった。緊急で入学試験に挑んだ子息や令嬢で突破出来たのは、テヘロン王国でも有力貴族の三男坊のソードだけ。
正直、ルルディへのスティーシュルラ殿下の留学は、異議を唱えるものがいたのは事実だ。
ルルディには、テヘロン人を見下すモニカ妃殿下がいるからだ。『テヘロンの至宝』と呼ばれるスティーシュルラ殿下は、穏やかで王女としての役割を十分に理解されている。学園でも陰口を言われているのに、おおらかに対応していた。
齢十二の王女殿下が、責務を全うしているならと、私達は大使館職員一丸となりお守りしなくては、と思っていた矢先。
あるルルディ人の少女を、テヘロン大使館で保護されることになった。
世話役を仰せつかったのは、私だ。
保護された少女を見て、私は息が詰まった。
確かに、少女だ、少女だが。
ティーナ・ローザ夫人の血筋だと、一目見てわかった。
かつて聞いた、ティーナ・ローザ夫人の娘が、ティーナ夫人と瓜二つだと。幼くして亡くなった娘は、ティアラ・ローザ。まさか、と思ったが、年齢的に少女はティーナ夫人の孫娘。ティーナ夫人が命がけで守ろうとした孫娘だ。
私は震えた。
なんという運命なのだろう、と。
少女は、ウィンティア・ローザは熱を出していたが、あちこちあるみみず腫れのような傷を見て、思わない事はなかったが、私は責務を全うした。
接しながら、ウィンティア・ローザはティーナ夫人とは全う別の人間だと認識したが、彼女は私が守るべきなのだと思うようになった。
私の半分も生きていない彼女の人生は、波乱万丈だ。
せっせと世話しながら、時に思う。
彼女はテヘロン人の心を鷲掴みにするような事を、するり、と放つ。
敬遠されていたテヘロン料理を疑いもなく食べた。理由は『テヘロンの至宝』であるスティーシュルラ殿下が口にしているからだ、と。それは、何よりテヘロン料理を、作っているシェフを信頼していることだ。
そして何より、スティーシュルラ殿下の美しさを素直に美しいと言う姿だ。
ぎこちなくても、必死にテヘロン語を使う姿も可愛らしい。
これでテヘロン大使館職員は、ウィンティア・ローザの賓客扱いするのに、抵抗はなくなった。
一番ウィンティア嬢の才能に惚れ込んだのはシェフだった。
僅かな香辛料の変化もウィンティア嬢はわかっていた。
シェフ達にしたら、素直にテヘロン料理を食べてくれるウィンティア嬢の要望に答えたかっただけで、作ったラップサンド。あれがきっかけでルルディ王国で、避けられていたテヘロン料理に意識を向けてもらえた。
「彼女の舌とアイデアは素晴らしいな。なあ、ソード、お前、婚約者いなかったな?」
アサーヴ殿下が本気なのかよく分からない事を言って、ソードが困った顔をしていた。
仮、とは言え、婚約者がいるウィンティア嬢。
そう簡単に行くわけないと思っていた。
私の声に誰も答えてくれなかった。
皆そう思っていたからだ。
詳しい事情を知るセーレ商会の人間が来て、やっと真相が明らかになった。
ティーナ夫人は、もう一人の孫娘キャサリンの『魅了』の被害者だった。
あまりにも無惨な死だ。
いつも誉めてくれたティーナ夫人がいなくなり、私は投げやりになっていた頃に、一通の手紙が届いた。
両親からだ。
なんと、ルルディから、私宛の手紙だ。
ティーナ夫人からだった。
私の手紙はティーナ夫人に届いていた。ティーナ夫人は返事を書いたが、結局投函前に毒殺された。遺品を整理していた、メイドが見つけて、わざわざ自腹で送ってくれたのだ。
貴女は私の自慢の生徒。
いつか、孫娘、ウィンティアを連れて、ウィンター・ローズ村に行きます。
その時は、
で、終わっていた。
字は、苦しかったのか、最後の方は歪んでいた。
私は再び泣いた。苦しい中でも、手紙を書こうとしてくれた事に。
私は決意した、私はティーナ・ローザ夫人の自慢の生徒なのだ、胸を張ろう。恥ずかしくない人間であろう。
そして、いつの間にか、スティーシュルラ殿下の留学に伴い随行メンバーに選ばれた。
私はフア語を完全にマスターしていたし、戦闘訓練を積んでいたので、護衛としての役割があった。
本来ならユミル学園でもお側にいなくてはならないのだが、学園から許可が出なかった。緊急で入学試験に挑んだ子息や令嬢で突破出来たのは、テヘロン王国でも有力貴族の三男坊のソードだけ。
正直、ルルディへのスティーシュルラ殿下の留学は、異議を唱えるものがいたのは事実だ。
ルルディには、テヘロン人を見下すモニカ妃殿下がいるからだ。『テヘロンの至宝』と呼ばれるスティーシュルラ殿下は、穏やかで王女としての役割を十分に理解されている。学園でも陰口を言われているのに、おおらかに対応していた。
齢十二の王女殿下が、責務を全うしているならと、私達は大使館職員一丸となりお守りしなくては、と思っていた矢先。
あるルルディ人の少女を、テヘロン大使館で保護されることになった。
世話役を仰せつかったのは、私だ。
保護された少女を見て、私は息が詰まった。
確かに、少女だ、少女だが。
ティーナ・ローザ夫人の血筋だと、一目見てわかった。
かつて聞いた、ティーナ・ローザ夫人の娘が、ティーナ夫人と瓜二つだと。幼くして亡くなった娘は、ティアラ・ローザ。まさか、と思ったが、年齢的に少女はティーナ夫人の孫娘。ティーナ夫人が命がけで守ろうとした孫娘だ。
私は震えた。
なんという運命なのだろう、と。
少女は、ウィンティア・ローザは熱を出していたが、あちこちあるみみず腫れのような傷を見て、思わない事はなかったが、私は責務を全うした。
接しながら、ウィンティア・ローザはティーナ夫人とは全う別の人間だと認識したが、彼女は私が守るべきなのだと思うようになった。
私の半分も生きていない彼女の人生は、波乱万丈だ。
せっせと世話しながら、時に思う。
彼女はテヘロン人の心を鷲掴みにするような事を、するり、と放つ。
敬遠されていたテヘロン料理を疑いもなく食べた。理由は『テヘロンの至宝』であるスティーシュルラ殿下が口にしているからだ、と。それは、何よりテヘロン料理を、作っているシェフを信頼していることだ。
そして何より、スティーシュルラ殿下の美しさを素直に美しいと言う姿だ。
ぎこちなくても、必死にテヘロン語を使う姿も可愛らしい。
これでテヘロン大使館職員は、ウィンティア・ローザの賓客扱いするのに、抵抗はなくなった。
一番ウィンティア嬢の才能に惚れ込んだのはシェフだった。
僅かな香辛料の変化もウィンティア嬢はわかっていた。
シェフ達にしたら、素直にテヘロン料理を食べてくれるウィンティア嬢の要望に答えたかっただけで、作ったラップサンド。あれがきっかけでルルディ王国で、避けられていたテヘロン料理に意識を向けてもらえた。
「彼女の舌とアイデアは素晴らしいな。なあ、ソード、お前、婚約者いなかったな?」
アサーヴ殿下が本気なのかよく分からない事を言って、ソードが困った顔をしていた。
仮、とは言え、婚約者がいるウィンティア嬢。
そう簡単に行くわけないと思っていた。
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