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裁判⑩

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 私は水溜まりに倒れ、抱えていた教材や筆記用具をばら蒔く。いきなりの事で、私は混乱するが、アンネが悲鳴を上げる。教室の移動中だ、そう、他にもクラスメート達がいるから、当然悲鳴が上がる。
 私は突き飛ばされたが、起き上がろうともがいた時。

「お前のせいでアディがっ」

「傷女の分際でっ」

 聞きなれない男性の声は、あからさまに怒気を孕んでいた。
 次の瞬間、肩や背中に痛みが走り、再び水溜まりに倒れる。

「きゃーっ、ローザさんっ」

 アンネが悲鳴を上げる。それ以外のクラスメートもだ。

「やめろっ」

 マークが声を張り上げる。

「うるさいっ」

 雨の視界の中で、マークが一人の男子生徒の腕を掴んでいた。
 確か、あれは、あっ、ガーデンパーティーの時に、アデレーナにチョコレートが得られず罵倒されていた男子生徒だ。あれからも、アデレーナに顎で使われていたのを見たことある。それから、もう一人は、アデレーナに学食とは思えないランチをご馳走していた男子学生。
 セシリア・ウーヴァ女公爵の懸念が頭を過る。
 アデレーナの『魅了』に惑わされた男子生徒がとうとうとちくるったんだ。
 かつて虐待を受けてきたウィンティアの身体か、硬直し、動かない。
 チョコレート男子学生は、マークを突飛ばし、ランチ男子学生は止めにはいろとしたスクールを手で払う。
 そして、こちらに振り向いた目。

 正気じゃない。

 ぞく、とした時だ。
 横から割り込んできたのは、なんとテヘロン大使館で大変お世話になった侍女さん。

 バキッ
 バキッ

 容赦がまったくないカウンターパンチがヒット。嘘、学生とは言え、女性のパンチで中学生が沈む。
 それでも起き上がろうとしたランチ男子学生の首筋に手刀を叩き込み、完全にのしまった。
 あまりの展開の速さに着いていけない。

「ローザさんっ」

 アンネが私に駆け寄る。水溜まりなのに、私を助け起こそうと制服を濡らしながら肩を抱こうとする。そこにリーナ嬢まで来た。マークとスクールも泥で、制服を汚す程なのに、私は何も言えない。
 声を出したいのに、声がでない。
 はくはくと、口を動かすだけ。

『ウィンティア嬢、こちらへ』

 侍女さんが私をお姫様だっこ。
 あ、ステラ様がっ。
 見てしまった、美しいステラ様の瞳の奥底に、得たいの知れない怒りが宿っていたのを。
 私は、触れては行けないと思い、大人しく侍女さんに運ばれることにした。
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