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浅はかと大人⑥

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「いででででっ」

 小物の悪党が悲鳴をあげる。
 振り上げた拳を、テヘロン大使館で大変お世話になった侍女さんが掴み、捻りあげていた。
 どうしたんだろう? レオナルド・キーファーの影に隠れてよく分からない。顔を出したいが、レオナルド・キーファーが前に出させてくれない。
 ざわつく会場。
 せっかくのアンジェリカ様のお店の懇親会なのに。どうしよう、アンジェリカ様の評判にキズがついたら。

「ほう? 我が妹、スティースュルラに害をなそうとしたのはお前か?」

 淡々とした口調のアサーヴ殿下が出てきた。え? スティースュルラ様? そこでやっとレオナルド・キーファーの影から顔を出す。
 小物の悪党の後ろ、ちょうど、振り上げた拳の先にスティースュルラ様がいたみたいで、当たらないように侍女さんが防いだ感じかな。
 だが、相手が悪い、友好関係にある国、テヘロンの王女様で、しかも『テヘロンの至宝』なんて呼ばれているスティースュルラ様だよ。謝ってすむのかな?

「うるさいっ、いででででっ、そんな所に突っ立てるのが悪いんだっ」

 アウトだ。
 侯爵家にいるのに、友好関係にある王族を知らないなんて。侍女さんにソードさん含めた護衛が二人もいて、分からないかね? 確か、モロミ侯爵家は外交官じゃなかった? この前アンジェリカ様の講座で聞いた。

「おや? 我々が分からないのか?」

 呆れているアサーヴ殿下。
 そこにアンジェリカ様が駆け寄ってくる。

「申し訳ないござません。アサーヴ殿下、スティースュルラ殿下、お怪我はございませんかっ」

 深々と謝罪するアンジェリカ様。そして振り返らず低音で、指示を飛ばす。

「レオナルド」

「はっ」

 レオナルド・キーファーの行動は早かった。素早く小物の悪党の腕を侍女さんに変わり拘束する。

「フレーバ子爵、彼女をお願いできますか?」

「ああ、もちろんっ」

「さあ、こちらへ、恐かったでしょう」

 さっききちんと挨拶してくれたフレーバ子爵夫妻が、私に駆け寄ってくれる。
 会場は騒然としたが、レオナルド・キーファーが小物の悪党を引き連れて退室すると、安堵の空気になる。
 それからアンジェリカ様がアサーヴ殿下とスティースュルラ様に対する謝罪が始まったが、すぐに終わった。

「アンジェリカ・ウーヴァ公爵令嬢、これ以上の謝罪は必要ない。貴方には我がテヘロンの民に様々な活躍の場を与えてくれる貴重な女性。これくらいの事で、我々テヘロンの恩義が覆ることもない」

「勿体なきお言葉でございます」

「私も少し浅はかでしたわ。アンジェリカ様のお店の懇親会だからと警戒を緩めてしまいこのような事に。せっかくの場を濁してしまい申し訳ありません」

「とんでもございません」

 良かった、アサーヴ殿下とスティースュルラ様、許してくれてる。あの小物は別だろうけど。

「さあ、この素晴らしい懇親会を楽しみましょう」

 そのアサーヴ殿下のお言葉で、賑やかな懇親会が再開した。
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