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浅はかと大人④

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「なんだと」

 二十代半ばの男性の眉が上がる。
 剣呑な雰囲気になる。
 いけない、ここはアンジェリカ様のお店の懇親会なのに。それにそろそろ全体挨拶が始まるのに。私はレオナルド・キーファーのジャケットを軽く引く。引くが全く振り返らないし、向こうから私を見えないように立ち塞がってる。

「ずいぶん偉い口だな? 誰に向かって言ってるか分かっているんだろうな?」

 なにこの人。レオナルド・キーファーを脅してる。
 確かにレオナルド・キーファーは世間一般ではウーヴァ公爵の使用人の遺児で通ってはいるが、護衛騎士としての社会的地位がある。それにこういった場所で、私の事を知りたいのであれば、まずレオナルド・キーファーを介して挨拶をしてからではないとダメなのに。これは爵位云々でない。礼儀として、マナーのある男性はそうしないといけない。しかも、このような大きな懇親会に招待されている自体、私が無職の未成年の一般市民ではない。一応伯爵家の娘だから、あんまりずけずけ聞いたらダメなんだよ。でも、一般市民の女性に対しても、こういった聞き方はマナー違反なんだよ。きちんと礼節を守ってこそ、爵位を持つ人の常識。

「礼節さえ守っていただけないのであれば、私はマナーに則りましょう」

 硬い口調で答えるレオナルド・キーファー。ち、と舌打ちする二十代半ばの男性。この人何? 知り合いだろうけど、柄が悪くない? 着ている服は、そこそこ高級みたいだけど。品が、欠けると言うか、柄が悪いと言うか。

「ふんっ、まあ、いい、そこでちょっと話さないか? 久しぶりの同級生もいるんだし。来るよな? ウーヴァ公爵が主催の懇親会に、変な難癖付けられたくないよな」

 あ、こいつ、嫌なやつだ。
 ウーヴァ公爵家が後見をしているレオナルド・キーファーに、この懇親会で難癖付けようとしている。おそらく、ウーヴァ公爵家にではなく、レオナルド・キーファーの評判とか、後見しているウーヴァ公爵家にレオナルド・キーファーの悪評みたいなのを吹き込むつもりだ。
 小物の悪党みたい。
 でも、ウーヴァ公爵家の皆様が、レオナルド・キーファーの悪評なんて信じないだろうけど。

「どうぞ、お構い無く」

 レオナルド・キーファーは全く動じない。そしてやっとこちらを向く。

「ここから離れましょう」

 そういって、私の手を引き人並みに紛れるように進む。
 そして、ちょうど、アンジェリカ様の全体挨拶が始まった。
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