ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
上 下
220 / 338

新学期とまどか①

しおりを挟む
 足のケガから復帰した寮母さんが駆けてきた。

「私がケガをしたばっかりに、ごめんなさいっ」

「寮母さんがそう思われなくても大丈夫ですよ」

 僅かな荷物をナタリアが運んでくれる。
 あの日以来だ。そのまんまなので、布団を干したり、お掃除を手際よく行った。ふう、汗かいた。でも、これでいいなか?

「ナタリア、ありがとう」

「いいえ、お嬢様」

 心配するナタリアを玄関まで送る。
 帰り間際、バトレルさんが私にだけ聞こえるように囁く。

「貴女はまだレオナルド様の婚約者です。そしてナタリア達の後見が誰だかくれぐれもお忘れないように」

 釘を刺してきた。
 分かってますよ。
 シルヴァスタから無事に帰り着くまで、レオナルド・キーファーが好むような婚約者を演じないと。うまく行くかな?
 あんまり、男性にはいい思いではない。
 高校時代に痛い思いをした。
 話のネタにされた、というか、賭けをしていた。
 向こうにしては、ちょっとしたおふざけだったんだろうけど、クラスのほとんどが参加して賭けをした。
 たまたま隣の席で話すきっかけがあった。それで仲良くなって、動物園まで行ったよ、デートよ。だけどそれがその男子のグループの賭け事となり、クラスの生徒を巻き込んだ。そのデートで私とその男子生徒がどこまでの仲になるかってね。賭け、と言っても学食の食券とかだけど。
 知らないのは私とクラスに馴染んでいない数人だけ。
 で、賭けをしていた一人が誤って私にラインのコードを送ってしまい。
 ああ、思い出したくない。
 それがきっかけで、もちろん保護者集めて大騒ぎ。
 そして、最後は私は大暴走した。
 大暴走とは、私は両親のなにげく放った一言に、いろいろ我慢していたものが、大爆発。
 父親のゴルフクラブを振り回したのだ。部屋の中でね。
 割れるガラス窓、食卓のカセットコンロ、すき焼き鍋、飾ってあった写真、置物、食器棚、ありとあらゆる物を叩き壊した。最後はみどりお姉ちゃんの成人の時に撮った家族写真を狂ったように叩いた。
 その理由は、我慢をしてきたから。
 みどりお姉ちゃんは私より六つ年上で、よくある美人の優等生だった。で、私は至って平均的。子供の時はそうでもなかったが、嫌に感じるようになったのは、私が中学生になり、みどりお姉ちゃんが独り暮らしの大学生になった頃から。
 何かにつけて、みどりお姉ちゃんと比べるようになったのが始まりだった。確かに私は飛び抜けて成績もいいわけではなかったが、だからといって不真面目ではなかった。
 年を重ねる事あるごとに比べられた。特に高校に入ってから。みどりお姉ちゃんは公立でも偏差値の高い高校、私は近くの平均的な公立高校。
 比べられるのは嫌だったが、父の伯父さんが何度か注意してくれたので、私はそれで救われていた。
 だけど。
 あの賭けの件で、私は深く傷付いていた。それこそ皆勤賞だったのに、学校に行けない位に。私は、その男子生徒に恋をしていたから。あんな形になってしまい、大騒ぎになる。とりあえずの話が終わったあの日。珍しくすき焼きだったが、私は食欲がなかった。橋が進まない私に、多分両親は発破をかけようとしたんだろう。

 みどりならこんなことで学校に行かないようにはならない

 みどりならこれくらいでへこたれない

 みどりならこんなことにはならなかった

 みどりなら、みどりなら、みどりなら。

 私の中で、何かが切れた。
 で、気がついたらゴルフクラブを握り締めていた。
 壊れた物が散乱する家から、私は飛び出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

処理中です...