ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

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新学期とまどか①

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 足のケガから復帰した寮母さんが駆けてきた。

「私がケガをしたばっかりに、ごめんなさいっ」

「寮母さんがそう思われなくても大丈夫ですよ」

 僅かな荷物をナタリアが運んでくれる。
 あの日以来だ。そのまんまなので、布団を干したり、お掃除を手際よく行った。ふう、汗かいた。でも、これでいいなか?

「ナタリア、ありがとう」

「いいえ、お嬢様」

 心配するナタリアを玄関まで送る。
 帰り間際、バトレルさんが私にだけ聞こえるように囁く。

「貴女はまだレオナルド様の婚約者です。そしてナタリア達の後見が誰だかくれぐれもお忘れないように」

 釘を刺してきた。
 分かってますよ。
 シルヴァスタから無事に帰り着くまで、レオナルド・キーファーが好むような婚約者を演じないと。うまく行くかな?
 あんまり、男性にはいい思いではない。
 高校時代に痛い思いをした。
 話のネタにされた、というか、賭けをしていた。
 向こうにしては、ちょっとしたおふざけだったんだろうけど、クラスのほとんどが参加して賭けをした。
 たまたま隣の席で話すきっかけがあった。それで仲良くなって、動物園まで行ったよ、デートよ。だけどそれがその男子のグループの賭け事となり、クラスの生徒を巻き込んだ。そのデートで私とその男子生徒がどこまでの仲になるかってね。賭け、と言っても学食の食券とかだけど。
 知らないのは私とクラスに馴染んでいない数人だけ。
 で、賭けをしていた一人が誤って私にラインのコードを送ってしまい。
 ああ、思い出したくない。
 それがきっかけで、もちろん保護者集めて大騒ぎ。
 そして、最後は私は大暴走した。
 大暴走とは、私は両親のなにげく放った一言に、いろいろ我慢していたものが、大爆発。
 父親のゴルフクラブを振り回したのだ。部屋の中でね。
 割れるガラス窓、食卓のカセットコンロ、すき焼き鍋、飾ってあった写真、置物、食器棚、ありとあらゆる物を叩き壊した。最後はみどりお姉ちゃんの成人の時に撮った家族写真を狂ったように叩いた。
 その理由は、我慢をしてきたから。
 みどりお姉ちゃんは私より六つ年上で、よくある美人の優等生だった。で、私は至って平均的。子供の時はそうでもなかったが、嫌に感じるようになったのは、私が中学生になり、みどりお姉ちゃんが独り暮らしの大学生になった頃から。
 何かにつけて、みどりお姉ちゃんと比べるようになったのが始まりだった。確かに私は飛び抜けて成績もいいわけではなかったが、だからといって不真面目ではなかった。
 年を重ねる事あるごとに比べられた。特に高校に入ってから。みどりお姉ちゃんは公立でも偏差値の高い高校、私は近くの平均的な公立高校。
 比べられるのは嫌だったが、父の伯父さんが何度か注意してくれたので、私はそれで救われていた。
 だけど。
 あの賭けの件で、私は深く傷付いていた。それこそ皆勤賞だったのに、学校に行けない位に。私は、その男子生徒に恋をしていたから。あんな形になってしまい、大騒ぎになる。とりあえずの話が終わったあの日。珍しくすき焼きだったが、私は食欲がなかった。橋が進まない私に、多分両親は発破をかけようとしたんだろう。

 みどりならこんなことで学校に行かないようにはならない

 みどりならこれくらいでへこたれない

 みどりならこんなことにはならなかった

 みどりなら、みどりなら、みどりなら。

 私の中で、何かが切れた。
 で、気がついたらゴルフクラブを握り締めていた。
 壊れた物が散乱する家から、私は飛び出した。
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