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嘘つき⑪

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 よく分からないまま、私の頭の中はぐるぐると回っている。
 落ち着いて考えたら、レオナルド・キーファーはそのうち目を覚ますと思った。
 私はいずれ消えてなくなる存在だ。ウィンティアが戻れば、きっと気が付くはずだ。私のあのどきりは、忘れよう。
 私は礼儀として、レオナルド・キーファーをお見送り。
 来た時とは打ってかわり、死んだ魚の目ではないので、よしとしよう。レオンハルト殿下の影武者で、捨て鉢になる様子もないし、よしとしよう。
 お着きの人、バトレルさんも安堵しているようだし。
 あ、いけない、ちゃんと、言っとかないと。

「あのキーファー様」

 へたれる眉、落ち込んだ大型犬みたいだ。
 なんで、この顔するのよ。
 えっと、うまく言えるかな。

「キーファー様、無事のお戻りをお待ちしています。ウーヴァ公爵家の皆様も、私以上に、そう思われています」

 首を傾げるレオナルド・キーファー。

「何故、ウーヴァ公爵家が?」

 ? ? ?
 えっ、十年も一緒なら、家族同然じゃないわけ? 違うの?
 だって、ウーヴァ公爵家お三方は、レオナルド・キーファーに寄り添っていたはず。

「逆になんでそんな反応されるのが、私には分からないんですが」

 無事に帰って来てほしい。いくら影武者に任命されていたとしても、生きて帰って来てほしいんだと思う。

「そうですね。自分で言うのもなんですが、私はあまり出来のいい方ではありませんから。ウーヴァ公爵家の教育があったから、なんとかやっているだけです」

 自重気味に言うレオナルド・キーファー。
 その後ろでお着きの人が首を横に振ってる。
 あ、これ、自覚ないやつじゃないの?
 だって王子様の影武者できるだけのマナーを学び、この人自身、きちんと鍛練している。だから、手だって傷だらけだった。

「よくして貰ったと感謝していますが」

 と、言葉を切るレオナルド・キーファー。
 ……………………ええいっ、めんどくさいっ。
 なんで、分かんないわけ? あの人達は、この人に無事に帰って来てほしいだけなのに。回りくどく言うセシリア・ウーヴァ女公爵ですら、レオナルド・キーファーをかわいいって言ってた。
 つまり、愛しいって事。

「レオナルド・キーファー様」

「あ、はい」

「貴方はちゃんと、ウーヴァ公爵家の皆様に愛されていますよ」

 ぴく、と止まるレオナルド・キーファー。

「私が人の事をとやかく言えませんが、帰ったら、素直にウーヴァ公爵家の皆様とお話してください」

 レオナルド・キーファーは、少し混乱している感じを受ける。
 今のままでは、後々後悔する。あの時こうしていれば、こうしていれば、どうして話をできなかったんだろうって。
 一生。
 私は、山岸まどかは、あの時、素直にあの場所に行けば、赤い車にはれられる事はなかったはず。
 後悔後先に立たず、だ。

「話を、ですか?」

「そうです」

 沈黙。
 あ、あら? ダメだった?

「話を、ですか?」

 二度聞いたよ。
 混乱している大型犬だ。
 どうしよう?

「話をしたら、ご褒美上げます」

 犬飼った事はないけど。こうかな?

「ご、ご褒美?」

 更に戸惑いレオナルド・キーファー。

「膝枕して、頭、撫でて上げます」

 ぶはあっ。
 と、噴き出すレオナルド・キーファー。
 何を真っ赤になってるの?

「ひ、膝枕っ」

 二十歳の男が何を悶えてるの?

「だって、貴方は自分が大型犬だと言ったでしょう? だから、です」

 そう返すと、レオナルド・キーファーが、がたー、と肩を落としている。

「お、大型犬……………」

「そうです。さ、早く帰って、お話してください」

 さ、と馬車を示す。

「あ、あのでは、話をしたら、本当に?」

「私の膝で良ければ」

「すぐに」

 返事が早い。

「ウィンティア嬢」

 そっと手を取られる。なんだ? なんで近距離? 総合的イケメンだから、どきりとする。へ、平常心、平常心。

「シルヴァスタに向かうまで後半年あります。できるだけ、私は貴女の元に馳せ参じます」

「お仕事優先してください」

 何を熱心に言ってるの? お仕事優先だよ。

「何とかします」

「はあ」

 本当にミッションクリアかな。
 名残惜しそうに、馬車に乗り込むのを見送る。最後にお着きの人が深々と頭を下げてた。
 なんとか、なったかな。
 ふう、変な感じになったけど、よしとしよう。

 次の日。
 ウーヴァ公爵家から立派なお菓子が来た。
 どうやらウーヴァ公爵家の皆様と、レオナルド・キーファーとのお話がうまく行ったみたい。
 お菓子はナタリア達と食べました。
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