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嘘つき⑩

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 私の前に膝を着いたレオナルド・キーファーが頭を降る。

「確かにきっかけはあの時です。私と言う存在が、貴女を守れればそれだけで良かった」

 いずれ社会復帰するウィンティアには、貴族令嬢として、いや、女性としとハンデがある。
 傷痕もそうだが、コクーン修道院に二度も保護された経歴。コクーン修道院は国が保護が必要だと判断された人達がはいる。最後の砦みたいな所。そこに二度も保護されたとなれば、被害者とはいえ、色眼鏡でみられてしまう。
 ちゃんと、社会に順応出来るのか? そんな風に見られる。
 そこで、レオナルド・キーファーの存在が生きてくる。例えコクーン修道院にいても、きちんとした社会的地位のある人が着いている人物だよ、と知らしめてくれるって、さ。めんどくさい社会。だけど、これがあるとないのでは、就職先とか変わる。
 レオナルド・キーファーの話は続く。

「私が貴女と、本当に婚約を切望したのは、貴女がコクーン修道院から戻られた後です。キリール・ザーデクのご子息と取っ組み合いをしていたでしょう」

「あ、あっ、あの時っ」

 ナタリアから初めてキリール・ザーデクの件を聞いたあの日。私はヴァレリーと取っ組み合いをした。涙ながらに事情を話したナタリアが、あまりにも報われない程、ヴァレリーはすれていた。
 確か、甘えるんじゃないわよ、とか、お姉ちゃんがどんな気持ちで働いているか、とか、言った気がする。

「み、見ていたんですか?」

「はい」

 本来ならあの日来る予定ではなかったそうだが、たまたまウーヴァ公爵家お三方とレオナルド・キーファーの都合が合い、ローザ伯爵家に来ていたそうだ。もちろん事前連絡してね。私が図書館から帰って来る五分前くらいにはいたらしい。
 でも、肝心の私はヴァレリーと取っ組み合い。わーん、と逃げていったヴァレリーにナタリアを追いかけさせて、帰りを待った。当然来ているなんて知らないし、教えてよ。

「叔母が、あえて様子をみるようにしたんです。ですが、私はあの時の貴女の行動に、心を奪われたんです」

 いや、私、そんなことしてないようだけど。
 ナタリアを追いかけさせた。あの時、確か。

「行ってナタリア、今ならヴァレリーとケンカできるよっ」

「け、ケンカ?」

「ヴァレリーはお父さんの事でまだ叫びたい事があるんだよっ。それを受け止めて一緒に泣けるのはナタリアだけだよっ。ナタリアも叫んで泣いて来てっ。そして、お父さんの名誉回復するための、絶対的な味方にするのっ」

 うん、我ながらなんて事言ったんだろう。
 だけど、ヴァレリーは大好きなお父さんの死因を信じきれていなかったし、母親がお気に入りの次女だけ連れて、自分達を捨てたことに自棄になっていた。ナタリアはヴァレリーとマルティンを食べさせるために必死で、おそらくきちんとまだヴァレリーと向き合える時間と気持ちの余裕がなかった。

「父は、あんな死に方をしているのに、どうしてそこまでしてくれるんですか?」

 ナタリアは涙を堪えて聞いてきた。
 ああ、思い出してきた。

「私はナタリアを信じる。こんなに優しくて真面目なナタリアを育ててくれた、ナタリアのお父さんを信じる。だから、腹を割って話せば、ヴァレリーだってナタリアの味方になるからっ」

 そんな感じに言ったなあ。
 見られてたんだ。ちょっと恥ずかしい。

「私はそれを見て、貴女に心を奪われました。ああ、長い時を共に生きるのはなら、貴女の隣がいい、と」

 …………………………………え、ウィンティアを助けた時の事でもなく、ウィンティアがかわいい事でもなく。あの時の啖呵が? いや、待って、あの時はローザ伯爵家内で起きた事、ウィンティアは私の中で深い眠りの状態にあった。
 あれは、私、山岸まどかの素なんですけど。
 ちょっと待ってよ、まさかこの人、ウィンティアの身体を借りてる私に? いやまて、ちょっと待って、ちょっと待ってよっ。

「ウィンティア・ローザ嬢。私は貴女の元に帰って参ります」

 どうか、それまで、と続く言葉が右から左に抜けていく。
 私は、変な思考に囚われて、うまく言葉がでなかった。
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