ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

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嘘つき①

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 レオナルド・キーファーが明日やってくる。
 ウーヴァ公爵家の皆様をお見送りした後に、キャサリンがメイド達と帰って来たが、騒がしくてたまらない。お昼寝モードになったマルティンが愚ずるしね。
 生物学上の父親は、付き添うメイドにある程度のお金を渡していたみたい。カフェや雑貨屋を回って来たそうだ。
 私のへやのドアをどんどん叩くので、苛立って出る。

「煩いわよっ。静かに出来ないわけっ」

 部屋着に着替えた私は、眉を上げてキャサリンを怒鳴る。

「まあっ、はしたないっ。姉に向かってなんてことをっ」

「そのままそっくり返すわ。あんたの非常識さは、テヘロン大使館でしっかり聞いたわよ」

 騒ぎを聞き付けてやって来た生物学上の母親は、寝巻きにカーディガン姿だ。そして、私の放った言葉に真っ青だ。

「貴女、何を言ってるの? 私とアサーヴ殿下は幼馴染みなのよ? 非常識は貴女でしょっ、テヘロン大使館に何日も不法滞在したのよっ、しかもわざわざ会いにあっていった私をあんな風に追い返してっ」

「はぁぁぁ?」

 こいつまだそんなこと言ってるの?

「あんたバカじゃない?」

 心底思った言葉を吐き出す。
 だってそうでしょう。テヘロンで、王城で本来なら知られてはいけない秘密の通路を逆走し、許可なくアサーヴ殿下とスティーシュルラ様に接近したんだよ。この場合、キャサリンは切り殺されても文句は言えない。プライベートな空間、しかも王族のだ、そこに無断侵入、王位継承権の高いアサーヴ殿下と『テヘロンの至高』と呼ばれるスティーシュルラ様に向かっていった。
 これは国際問題にもなりかけたってのに。
 そのせいで、ローズマリー勲章は受ける事ができなかったし、生物学上の母親は流産した。
 キャサリンがあんなバカな事をしなければ、ウィンティアもキズを負うようなことはなかったはず。

「なんですってっ。私はねっ、このローザ家の跡取り娘なのよっ。貴女にそんなこと言う資格あると思っているのっ」

「だから何? あんたが偉いわけじゃない。偉いのはローザ伯爵とセーレ商会を回している人達でしょうが」

 私は白けた目で言い放つ。
 
「やめなさい二人ともっ」

 母親が声を上げる。

「お母様っ、聞いてくださいっ、この子ったら私をバカだって言ったのよっ。私はっ、この家唯一跡取り娘の私にっ」

 キャサリンが涙を浮かべながら生物学の母親にすがり付く。

「あの子にはあんなこと言う資格はないのにっ」

「貴女にもそんなこと言う資格はないわ」

 生物学の母親はそっとキャサリンの手を離す。

「いい加減に理解しなさい」

 おや? 今までと違う感じ。今まではなんとか理解させようと焦りが見えていたが、自力で悟るように言ってる。

「お母様? どうして? 私の、私の事を悪く言うこの子の肩を持つのっ、どうしてっ、私はっ、唯一のローザ伯爵の跡取り娘なのにっ」

 生物学上の母親が、静かに、メイドに告げる。

「旦那様の執務室に」

「お母様っ、どうして? どうしてっ?」

 キャサリンはまるで悲劇のヒロインの様に叫ぶ。煩いなあ、マルティン起きちゃうじゃん。
 命じられたメイド達は、数人がかりでキャサリンを連行する。

「ウィンティア、騒がしくてごめんなさいね」

 そう言うが、顔色はあまりよくない。

「私は構わないですけど。マルティンが愚ずりますから。それよりそちらが休んだらどうです?」

 顔色が悪いし、テヘロンでの流産後体調を崩すって聞いたし。この事だけは、この人は被害者だと思っている。
 だけど、私の言葉に、生物学の母親は戸惑い。

「心配、してくれるの?」

「テヘロンでの顛末はアサーヴ殿下から聞いています」
  
 ふう、と息をつく。

「お気の毒だと思っています。だからと言って許している訳ではありません。勘違いしないでください」

 突き放すように言うと、生物学の母親の驚いた顔から、冷静な表情に。

「そうね、肝に命じるわ」

 生物学上の母親を見送り、私は自室に引っ込んだ。あーあー、マルティンがぐずぐず言ってる。なだめながら、キャサリンの件は頭から追い出し、明日のレオナルド・キーファーとの面会を考えた。
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