168 / 338
嘘つき①
しおりを挟む
レオナルド・キーファーが明日やってくる。
ウーヴァ公爵家の皆様をお見送りした後に、キャサリンがメイド達と帰って来たが、騒がしくてたまらない。お昼寝モードになったマルティンが愚ずるしね。
生物学上の父親は、付き添うメイドにある程度のお金を渡していたみたい。カフェや雑貨屋を回って来たそうだ。
私のへやのドアをどんどん叩くので、苛立って出る。
「煩いわよっ。静かに出来ないわけっ」
部屋着に着替えた私は、眉を上げてキャサリンを怒鳴る。
「まあっ、はしたないっ。姉に向かってなんてことをっ」
「そのままそっくり返すわ。あんたの非常識さは、テヘロン大使館でしっかり聞いたわよ」
騒ぎを聞き付けてやって来た生物学上の母親は、寝巻きにカーディガン姿だ。そして、私の放った言葉に真っ青だ。
「貴女、何を言ってるの? 私とアサーヴ殿下は幼馴染みなのよ? 非常識は貴女でしょっ、テヘロン大使館に何日も不法滞在したのよっ、しかもわざわざ会いにあっていった私をあんな風に追い返してっ」
「はぁぁぁ?」
こいつまだそんなこと言ってるの?
「あんたバカじゃない?」
心底思った言葉を吐き出す。
だってそうでしょう。テヘロンで、王城で本来なら知られてはいけない秘密の通路を逆走し、許可なくアサーヴ殿下とスティーシュルラ様に接近したんだよ。この場合、キャサリンは切り殺されても文句は言えない。プライベートな空間、しかも王族のだ、そこに無断侵入、王位継承権の高いアサーヴ殿下と『テヘロンの至高』と呼ばれるスティーシュルラ様に向かっていった。
これは国際問題にもなりかけたってのに。
そのせいで、ローズマリー勲章は受ける事ができなかったし、生物学上の母親は流産した。
キャサリンがあんなバカな事をしなければ、ウィンティアもキズを負うようなことはなかったはず。
「なんですってっ。私はねっ、このローザ家の跡取り娘なのよっ。貴女にそんなこと言う資格あると思っているのっ」
「だから何? あんたが偉いわけじゃない。偉いのはローザ伯爵とセーレ商会を回している人達でしょうが」
私は白けた目で言い放つ。
「やめなさい二人ともっ」
母親が声を上げる。
「お母様っ、聞いてくださいっ、この子ったら私をバカだって言ったのよっ。私はっ、この家唯一跡取り娘の私にっ」
キャサリンが涙を浮かべながら生物学の母親にすがり付く。
「あの子にはあんなこと言う資格はないのにっ」
「貴女にもそんなこと言う資格はないわ」
生物学の母親はそっとキャサリンの手を離す。
「いい加減に理解しなさい」
おや? 今までと違う感じ。今まではなんとか理解させようと焦りが見えていたが、自力で悟るように言ってる。
「お母様? どうして? 私の、私の事を悪く言うこの子の肩を持つのっ、どうしてっ、私はっ、唯一のローザ伯爵の跡取り娘なのにっ」
生物学上の母親が、静かに、メイドに告げる。
「旦那様の執務室に」
「お母様っ、どうして? どうしてっ?」
キャサリンはまるで悲劇のヒロインの様に叫ぶ。煩いなあ、マルティン起きちゃうじゃん。
命じられたメイド達は、数人がかりでキャサリンを連行する。
「ウィンティア、騒がしくてごめんなさいね」
そう言うが、顔色はあまりよくない。
「私は構わないですけど。マルティンが愚ずりますから。それよりそちらが休んだらどうです?」
顔色が悪いし、テヘロンでの流産後体調を崩すって聞いたし。この事だけは、この人は被害者だと思っている。
だけど、私の言葉に、生物学の母親は戸惑い。
「心配、してくれるの?」
「テヘロンでの顛末はアサーヴ殿下から聞いています」
ふう、と息をつく。
「お気の毒だと思っています。だからと言って許している訳ではありません。勘違いしないでください」
突き放すように言うと、生物学の母親の驚いた顔から、冷静な表情に。
「そうね、肝に命じるわ」
生物学上の母親を見送り、私は自室に引っ込んだ。あーあー、マルティンがぐずぐず言ってる。なだめながら、キャサリンの件は頭から追い出し、明日のレオナルド・キーファーとの面会を考えた。
ウーヴァ公爵家の皆様をお見送りした後に、キャサリンがメイド達と帰って来たが、騒がしくてたまらない。お昼寝モードになったマルティンが愚ずるしね。
生物学上の父親は、付き添うメイドにある程度のお金を渡していたみたい。カフェや雑貨屋を回って来たそうだ。
私のへやのドアをどんどん叩くので、苛立って出る。
「煩いわよっ。静かに出来ないわけっ」
部屋着に着替えた私は、眉を上げてキャサリンを怒鳴る。
「まあっ、はしたないっ。姉に向かってなんてことをっ」
「そのままそっくり返すわ。あんたの非常識さは、テヘロン大使館でしっかり聞いたわよ」
騒ぎを聞き付けてやって来た生物学上の母親は、寝巻きにカーディガン姿だ。そして、私の放った言葉に真っ青だ。
「貴女、何を言ってるの? 私とアサーヴ殿下は幼馴染みなのよ? 非常識は貴女でしょっ、テヘロン大使館に何日も不法滞在したのよっ、しかもわざわざ会いにあっていった私をあんな風に追い返してっ」
「はぁぁぁ?」
こいつまだそんなこと言ってるの?
「あんたバカじゃない?」
心底思った言葉を吐き出す。
だってそうでしょう。テヘロンで、王城で本来なら知られてはいけない秘密の通路を逆走し、許可なくアサーヴ殿下とスティーシュルラ様に接近したんだよ。この場合、キャサリンは切り殺されても文句は言えない。プライベートな空間、しかも王族のだ、そこに無断侵入、王位継承権の高いアサーヴ殿下と『テヘロンの至高』と呼ばれるスティーシュルラ様に向かっていった。
これは国際問題にもなりかけたってのに。
そのせいで、ローズマリー勲章は受ける事ができなかったし、生物学上の母親は流産した。
キャサリンがあんなバカな事をしなければ、ウィンティアもキズを負うようなことはなかったはず。
「なんですってっ。私はねっ、このローザ家の跡取り娘なのよっ。貴女にそんなこと言う資格あると思っているのっ」
「だから何? あんたが偉いわけじゃない。偉いのはローザ伯爵とセーレ商会を回している人達でしょうが」
私は白けた目で言い放つ。
「やめなさい二人ともっ」
母親が声を上げる。
「お母様っ、聞いてくださいっ、この子ったら私をバカだって言ったのよっ。私はっ、この家唯一跡取り娘の私にっ」
キャサリンが涙を浮かべながら生物学の母親にすがり付く。
「あの子にはあんなこと言う資格はないのにっ」
「貴女にもそんなこと言う資格はないわ」
生物学の母親はそっとキャサリンの手を離す。
「いい加減に理解しなさい」
おや? 今までと違う感じ。今まではなんとか理解させようと焦りが見えていたが、自力で悟るように言ってる。
「お母様? どうして? 私の、私の事を悪く言うこの子の肩を持つのっ、どうしてっ、私はっ、唯一のローザ伯爵の跡取り娘なのにっ」
生物学上の母親が、静かに、メイドに告げる。
「旦那様の執務室に」
「お母様っ、どうして? どうしてっ?」
キャサリンはまるで悲劇のヒロインの様に叫ぶ。煩いなあ、マルティン起きちゃうじゃん。
命じられたメイド達は、数人がかりでキャサリンを連行する。
「ウィンティア、騒がしくてごめんなさいね」
そう言うが、顔色はあまりよくない。
「私は構わないですけど。マルティンが愚ずりますから。それよりそちらが休んだらどうです?」
顔色が悪いし、テヘロンでの流産後体調を崩すって聞いたし。この事だけは、この人は被害者だと思っている。
だけど、私の言葉に、生物学の母親は戸惑い。
「心配、してくれるの?」
「テヘロンでの顛末はアサーヴ殿下から聞いています」
ふう、と息をつく。
「お気の毒だと思っています。だからと言って許している訳ではありません。勘違いしないでください」
突き放すように言うと、生物学の母親の驚いた顔から、冷静な表情に。
「そうね、肝に命じるわ」
生物学上の母親を見送り、私は自室に引っ込んだ。あーあー、マルティンがぐずぐず言ってる。なだめながら、キャサリンの件は頭から追い出し、明日のレオナルド・キーファーとの面会を考えた。
90
お気に入りに追加
547
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜
影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。
けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。
そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。
ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。
※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど
富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。
「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。
魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。
――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?!
――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの?
私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。
今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。
重複投稿ですが、改稿してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる