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ウーヴァ公爵の事情⑦

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 先ほどの神様の言葉が浮かぶ。
 下手な嘘は通じない。
 言ったところで、この人達が信じるかどうかは、話した結果次第かな。
 私はため息をつく。

「信じてくれるか分かりませんが、私はレオナルド・キーファーと婚約したら、十六で首を括って自殺するんです」

「「「はぁ?」」」

 そうだよね。

「詳しく説明してくれるかしら? そもそもウィンティア嬢はまだ十二よね?」

 そうだよ。
 若干、セシリア・ウーヴァ女公爵が分からない顔してる。

「そう記された書籍を私は知っています。ルルディ王国第十三世紀における魅了に関する事例集。赤い表紙で金の文字でした」

 ピシィ、と固まるウーヴァ公爵家のお三方。

「何故貴女がその本の存在を知っているの?」

「信じてもらえないでしょうが、頭のなかです。事例七の被害者に私の名前があります」

 セシリア・ウーヴァ女公爵がゆっくり、確認するように聞いてくる。

「詳しく説明してちょうだい」

 私は本来の流れを説明する。
 ウィンティアはローザ伯爵家でキャサリンの『魅了』された両親や使用人によるネグレクトをされていた。そして、婚約者であるレオナルド・キーファーも、キャサリンのせいで関係に亀裂が入り、結局、ウィンティアは捨てられる。そして無神経に送られた結婚式の招待状に、ウィンティアを精神的に追い詰められて、自殺。そして、あのトマトを投げられる結婚式に至る。
 話を聞いて、セシリア・ウーヴァ女公爵は畳んだ扇で額を抑え、ハインリヒ様とアンジェリカ様は額を抑える。

「ただ、祖母が違う行動をして流れは変わって来ています。それでも至る結果は変わりません。私はまだ死にたくないので、レオナルド・キーファーとの婚約は嫌ですし、私が回避したとしても別の被害者が出るだけです」

「別って。誰なの?」

 アンジェリカ様が頭痛い、と言わんばかりに聞いてくる。

「リリーナ・エヴァエニエス。確か、享年二十三、死因は毒杯でした」

 ビシィィィッ
 えっ、ウーヴァ公爵家のお三方の顔が固まる。
 何? 何? 何? さっきと全然違うっ。

「ね、ねえ、ウィンティアさん、リリーナ嬢の立場ご存知よね?」

 アンジェリカ様が引きつりながら聞いてくら。

「えっ? 生徒会長?」

「違うわよ」

 疲れたように呟くアンジェリカ様。

「本当に知らないようだね」

 頭を抱えていたハインリヒ様が教えてくれるようだ。

「リリーナ・エヴァエニエス嬢は、レオンハルト殿下の婚約者。いずれ国母になるかただよ」

「えっ?」

 ちょっと待って、そうなるとどうなるの? レオンハルト殿下がキャサリンの『魅了』の毒牙にかかって。あら? それだけですむの?

「王家がごたつく?」

「それだけじゃ済まないわよ。エヴァエニエス侯爵が黙っているわけないし、王命で結ばれた婚約者が毒杯になるなんて、レオンハルト殿下の足元が脆く崩れるわ。ルルディ王国内も下手したら多数の血が流れるわ」

 セシリア・ウーヴァ女公爵が、頭痛いと吐き出す。

「どうしてそうなるかわかっているのよね?」

 凄い、脅すように聞かれるが生憎分からない。しかもリリーナ・エヴァエニエスの名前は一度出ただけて、次にはウィンティアの名前になったし。

「つまり、まだ確定ではないことね?」

「はい。信じてくれるんですか?」

「今の貴女が嘘をついているとは思えないわ」

 あ、そうなの。
 良かった、信じてくれた。

「なら、元凶をどうにかしないといけないわね」

 あのマナー違反女キャサリンね。
 
「ねえ、ウィンティア嬢、貴女の姉になるけど、どうするつもりだったの?」

「それは、今、証拠集めと言うか」

 キャサリンが私に対してやらかした事を、ナタリア達の協力を得て、コツコツ証拠集めしている。

「いずれ、レオナルド・キーファーがキャサリンに靡いて私を捨てるなら、その証拠突きつけて、ぎゃふん、って言わせたいな、って」

「甘いわよ」

 くっ、ばっさり言ってくれたよっ。

「ウィンティア嬢。この件はウーヴァ公爵は噛ませてもらいかわよ。貴女に拒否権はありませんからね。数日以内にウーヴァ公爵家にいらっしゃい、分かったね?」

 有無を言わせぬ強さでセシリア・ウーヴァ女公爵が釘を刺してきた。
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