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ウーヴァ公爵の事情⑥

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「レオナルドはね、やっとうちに来て、年相応に笑うようになってきた時に、レオンハルト殿下の影武者になることを義務つけられた。それがレオナルドには己を殺すには充分だったわ。だけど、あの子はそれを全て受け入れたの。お兄様の教育の影響もあったのでしょう。王家になにかあれば、盾になるのが我ら公爵の役目。お兄様もそれを叩き込まれて育ち、ウーヴァ公爵から離れ、平民として生まれたレオナルドにもそうした。お兄様の子育ては、それしか知らなかったから」

 セシリア・ウーヴァ女公爵は思い出すように話す。

「レオナルドはまた死んだ魚のような目をしたわ。だけど、ある日変化が訪れた、貴女よ、ウィンティア嬢」

「私?」

「そうよ。貴女が関わるとレオナルドは息を吹き返すのよ。生きた人間になるの。私はお兄様を近くで見てきて、先代ウーヴァ公爵の教育に間違いがあったと思っているわ、それに気がつかなかったお兄様にもね。ただ、最後に病に伏したお兄様がやっと気がついて、私にレオナルドを託してくれた。もう十年よ、私はあの子がかわいいの。だから、レオナルドに変化をもたらした貴女との婚約を結んだのよ」

 一息付く。

「今回の貴女が行方不明になったことで、レオナルドは再び殻に閉じ籠っているわ。レオンハルト殿下の影武者として使い捨てにすると叩き込まれていた頃のように。諦めているの生きることに。レオンハルト殿下は次の年度で、留学されるのに合わせて、当然レオナルドも随行します」

 あ、それ聞いた。
 レオンハルト殿下は飛び級して卒業して、シルヴァスタ王国の大学に留学するって。その大学には帝王学の権威がいて、その受講生になるって。

「レオンハルト殿下の暗殺の機会は十中八九、シルヴァスタ王国でしょう。そうなれば、レオナルドは文字通り盾になるわ。今のレオナルドは抵抗もせず盾になるでしょう。私はそれをどうしても避けたい。だけど、私達が何を言っても響かない。レオナルドに、生きて帰って来たいとそう思わせる事が出きるのは貴女だけよ。レオナルドに渇をいれてちょうだい」

 いや、簡単に言うけど、難しくない? レオナルド・キーファーの事情なんて知らなかったけど、そこそこ闇を抱えてそうで、私が言ったくらいてなんとかなる?

「あの子が生きて貴女の元に戻りたい、そう思えたなら、私にとって変えがたい価値ある事よ。ウィンティア嬢、貴女にしかできないことよ」

「うまくいく自信が…………」

「我ウーヴァ公爵の後見だけではなくてよ。弁護士や必要経費、ザーデク姉弟の護衛、証人達の確保、裁判後のキリール・ザーデクの名誉回復の手回し、全てうちが負担するわ」

 断れないやつっ。
 ええいっ、一度腹を括ったんだっ。
 ナタリア達の為だっ。

「分かりました、やりますっ」

 どうするかは、後で考えよ。
 私の返事で満足したセシリア・ウーヴァ女公爵。

「さ、次は貴女よ」

「はい?」

「こちらは事情を話したわ、貴女も吐きなさい」

「何を?」 

「レオナルドとの婚約に怯えていた本当の理由よ」
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