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ウーヴァ公爵の事情①

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 ううっ、メロンパンがあたる。じたばた。しかもいいにおい。

「あのアンジェリカ様、動けませんので…………」

「じゃあ、大人しく話を聞く?」

「はい」

 逃げられそうにないかね。
 私の返事に満足してくれて解放される。席は私とハインリヒ様の位置が変わっただけ。

「セシリア」

 ハインリヒ様が促す。

「ウィンティア嬢、まずはレオナルドだけど、あれは私の兄の息子、つまり甥に当たるのよ」

 知ってますよ。
 ゲームでも赤い本でもそうだったし。そう言えば、レオナルド・キーファーの両親は、父親の方しか知らない。確か、ゲームでも赤い本でも何かしらのトラブルを起こして、公爵家から離れたはず。

「私の兄は既に亡くなり、幼かったレオナルドの身寄りは私しかいなかった。だから、ウーヴァ公爵で引き取ったのよ」

 ふーん。幼いってことは、いくつか分からないけど、何年か一緒なんだ。だからアンジェリカ様を姉って言っていたのかな。ふーん。

「興味ないみたいね」

「はい」

 だってそうだもん。
 ため息つくセシリア・ウーヴァ女公爵。

「あの子はね、わがまま一つ言わない大人しい子だったわ。きっとお兄様の躾だろうけど、公爵家に引き取ったはいいけど、死んだ魚のような目をしていたわ」

 死んだ魚って。

「まさか、公爵家でも虐待を?」

 幼い子供がそんな目をするなら、そうじゃないの?

「お宅と一緒にしないでちょうだい。まあ、そう取られても仕方ない状況だったわ。だから、私達はレオナルドに寄り添ったわ。結果今だけど」

 大変だったのよ、とアンジェリカ様が囁く。

「あの子は本当にわがまま一つ、欲しいもの一つ言わない。鉛筆一つだっていつ言い出していいか分からないようだったから、それを直すのも一苦労だったわ」

 大変だったのよ、とアンジェリカ様が繰り返す。

「で、唯一、レオナルドが望んだのが、ウィンティア嬢、貴女だったわ。だから、私はレオナルドの意思を尊重しただけ。兄が残したかわいい甥の願いだから叶えてあげたかったから」

 嘘だあ。
 だいたい、私とレオナルド・キーファーの接点はないはず。私、ウィンティアは祖母ティーナ・ローザと過ごした以外はほとんどコクーン修道院にいた。ローザ伯爵家で過ごしたのは、合計したら一年位じゃないの?
 ちょっと待って、ウィンティアとレオナルド・キーファーとの婚約が決まったのは約四年前。ウィンティア八歳、レオナルド・キーファーは十六歳。年齢的におかしいような。あら? まさか、まさか、レオナルド・キーファーって、まさか?

「あの人、幼女趣味なんですか? それか加虐趣味?」

 ドン引き。

「貴女、どうしたらそんな結論になるの?」
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