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準備⑧

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 どうしよう、ナタリア達を危険に晒せない。
 アデレーナ・グラーフの出生証明書偽造にとどめるべきなのか? そうなれば、連動してゾーヤやティーシモンも社会的に痛いはずだが。

「アデレーナ・グラーフの件だけで、ゾーヤ・グラーフとティーシモン・バズルを罪に問えますか?」

 ふいに考え込むのはウーヴァ公爵の三人。

「難しいかもしれないわね」

 と、アンジェリカ様。

「確かにね。もし、ゾーヤ・グラーフがキリール・ザーデクのありもしないことを振り撒けば、被害者に早変わりだ」

 ハインリヒ様はもう一度、資料を見る。

「被害者? 何故です?」

 なんで? ゾーヤとティーシモンはそれぞれの伴侶がいる時に、不倫してアデレーナを作ったのに。
 肩をすくめるハインリヒ様。

「死人にくちなしって言葉知っているかい?」

「はい」

「例えばだよ、娘であるナタリア嬢の前で言いにくいが、ゾーヤ・グラーフが、キリール・ザーデクから暴力を受けていた、その相談をしたのがティーシモン・バズルで、それがきっかけで引かれ会い生まれたのがアデレーナ嬢だった美談に仕上げる可能性がある」

「そんなっ、父はそんな人ではありませんっ」

 たまらず、黙っていたナタリアが叫ぶ。
 ナタリアは本来ならこの場にいられない。本当なら執事長やメイド長がつくのだけど、私がお願いしたからいられるだけ。しかも同室にいるのが、ルルディ王国貴族のトップにいるウーヴァ公爵。この場は向こうから発見を求められるまで話してはいけないんだよね。

「ナタリア落ち着いて」

 私はナタリアに声をかける。

「……………申し訳ありません」

 ナタリアは俯いて謝罪する。だけど、ポロポロと絨毯に涙が溢れている。

「いいさ、きっといい父だったんだね」

 無言で頷くナタリア。
 その小さく肩を震わすナタリアを見て、やっぱりどうにかできないだろうか。
 神様が言ってた、キリール・ザーデクの件は、セシリア・ウーヴァ女公爵の力がいる。

「もし。ウーヴァ公爵家が後見についていただけたのなら、どうなります?」

「ウィンティアッ」

 咎めるように、生物学上の父親が声をあげる。

「あら大胆ね、公爵家に落ちぶれた子爵令嬢の後見になると? 我々に旨味はあるのかしら?」

 どこまでも意地悪な言い方っ。

「現金三千万あります」

 立ち上がろうとする生物学上の父親を、セシリア・ウーヴァ女公爵は、優雅に扇で制する。
 三千万。
 これは、ペルク侯爵とコーン子爵からの慰謝料だ。

「それでも不足ならば、私が持つ祖母、ティーナ・ローザが残した権利を全て差し出します」

 だいたい、レオナルド・キーファーとの婚約もこれが目的だったはず。
 ティーナ・ローザがウィンティアに残した大切な物だが、それがレオナルド・キーファーとの関係を切り離せない状況の一因となっている。まだ不確定ではあるが、ウィンティアの自殺に繋がるものが絶てるのであれば、権利を手離すしかない。
 後ろのナタリアが小さく何か言ってるけど。私が言い出した事だし、何とかして被害者の名前に連なったナタリアとヴァレリーを救いたい。
 今、このチャンスを逃したら、ナタリア達の安全を守れない。
 だったら、全部出せるものは出すべきだ。
 ついでに、ウィンティアとの婚約も諦めてくれたらいいかな。
 セシリア・ウーヴァ女公爵は、ふ、と息をつく。

「お話にならないわね」
 
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