ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
上 下
156 / 338

準備⑧

しおりを挟む
 どうしよう、ナタリア達を危険に晒せない。
 アデレーナ・グラーフの出生証明書偽造にとどめるべきなのか? そうなれば、連動してゾーヤやティーシモンも社会的に痛いはずだが。

「アデレーナ・グラーフの件だけで、ゾーヤ・グラーフとティーシモン・バズルを罪に問えますか?」

 ふいに考え込むのはウーヴァ公爵の三人。

「難しいかもしれないわね」

 と、アンジェリカ様。

「確かにね。もし、ゾーヤ・グラーフがキリール・ザーデクのありもしないことを振り撒けば、被害者に早変わりだ」

 ハインリヒ様はもう一度、資料を見る。

「被害者? 何故です?」

 なんで? ゾーヤとティーシモンはそれぞれの伴侶がいる時に、不倫してアデレーナを作ったのに。
 肩をすくめるハインリヒ様。

「死人にくちなしって言葉知っているかい?」

「はい」

「例えばだよ、娘であるナタリア嬢の前で言いにくいが、ゾーヤ・グラーフが、キリール・ザーデクから暴力を受けていた、その相談をしたのがティーシモン・バズルで、それがきっかけで引かれ会い生まれたのがアデレーナ嬢だった美談に仕上げる可能性がある」

「そんなっ、父はそんな人ではありませんっ」

 たまらず、黙っていたナタリアが叫ぶ。
 ナタリアは本来ならこの場にいられない。本当なら執事長やメイド長がつくのだけど、私がお願いしたからいられるだけ。しかも同室にいるのが、ルルディ王国貴族のトップにいるウーヴァ公爵。この場は向こうから発見を求められるまで話してはいけないんだよね。

「ナタリア落ち着いて」

 私はナタリアに声をかける。

「……………申し訳ありません」

 ナタリアは俯いて謝罪する。だけど、ポロポロと絨毯に涙が溢れている。

「いいさ、きっといい父だったんだね」

 無言で頷くナタリア。
 その小さく肩を震わすナタリアを見て、やっぱりどうにかできないだろうか。
 神様が言ってた、キリール・ザーデクの件は、セシリア・ウーヴァ女公爵の力がいる。

「もし。ウーヴァ公爵家が後見についていただけたのなら、どうなります?」

「ウィンティアッ」

 咎めるように、生物学上の父親が声をあげる。

「あら大胆ね、公爵家に落ちぶれた子爵令嬢の後見になると? 我々に旨味はあるのかしら?」

 どこまでも意地悪な言い方っ。

「現金三千万あります」

 立ち上がろうとする生物学上の父親を、セシリア・ウーヴァ女公爵は、優雅に扇で制する。
 三千万。
 これは、ペルク侯爵とコーン子爵からの慰謝料だ。

「それでも不足ならば、私が持つ祖母、ティーナ・ローザが残した権利を全て差し出します」

 だいたい、レオナルド・キーファーとの婚約もこれが目的だったはず。
 ティーナ・ローザがウィンティアに残した大切な物だが、それがレオナルド・キーファーとの関係を切り離せない状況の一因となっている。まだ不確定ではあるが、ウィンティアの自殺に繋がるものが絶てるのであれば、権利を手離すしかない。
 後ろのナタリアが小さく何か言ってるけど。私が言い出した事だし、何とかして被害者の名前に連なったナタリアとヴァレリーを救いたい。
 今、このチャンスを逃したら、ナタリア達の安全を守れない。
 だったら、全部出せるものは出すべきだ。
 ついでに、ウィンティアとの婚約も諦めてくれたらいいかな。
 セシリア・ウーヴァ女公爵は、ふ、と息をつく。

「お話にならないわね」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...