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準備④

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「とうとう、分岐点に来ましたね」

 白い世界の中で姿を現したのは、白いドレスの女神様。
 私はゆっくり体勢をととのる。

「神様、これで、ナタリア達は救えますか?」

 私の問いに、ふふふ、と笑う女神様。

「ここまで頑張った貴女に、出来るだけ答えましょう。さあ、ご覧なさい」

 と、差し出したのはあの赤い本。
 私の前で勝手に目次のページが開く。
 あ、事例八のアデレーナの文字が薄くなっている。て、ことは綺麗に消えたら被害者の名前がなくなるってことだ。
 事例七のキャサリンは、まだしっかりある。

「あの神様、アデレーナの事例に関しては、やっぱり父親、キリール・ザーデクが関わっていたんですか?」

「そうです」

 やっぱり。
 キリール・ザーデクの件がどうにかなれば、ナタリア達は救える。

「被害に遭ったのは、ナタリアが父親の件で諦めずコツコツと調べていたからです。彼女はかなり社会的に不利な状況でした。不名誉な死に方をした父親を持ち、ユミル学園を中退せざるを得なかった。そんな彼女にいい就職先があるわけありません」

 神様はそっと示すと、映像が浮かぶ。
 必死に大量の皿を洗うナタリアの姿が。突き飛ばされて、膝を擦りむいているナタリア。こそこそと陰口を叩かれ、必死に耐えてるナタリア。
 それが、消える。

「彼女はやっと突破口を掴みました。病に伏した妹の為に犯行に手を染め、騎士を辞した男の説得に成功したんです」

「よく、説得できましたね」

「その妹が治療のかいなく亡くなったからです」

 しらがみ的なものがなくなったんだね。

「しかし、それに気がついたアデレーナが、自身に心酔する男にナタリアを襲わせ刺殺。そして父親の件で納得できず姉を拒絶していたヴァレリーは、自責の念にとらわれ、自害したのです。ナタリアを、姉をなぜ信じなかったのか、なぜ、姉の側にいなかったのか、自分の未熟さに。そして、証言の撤回すると言った男まで行方が分からなくなってしまい。まだ、若いヴァレリーは絶望し、自害を選びました。誰も味方になってくれる人がいませんでしたしね」

 ヴァレリーの享年は十七。まだ夢も希望もたくさんあるはずのヴァレリーが、自害を選ぶほど追い詰められていた。私が想像つかないほどの思いをしたはず。
 そしてまだ気になることがある。

「マルティンは? マルティンはどうなっているんですか?」

 姉と兄を失ったマルティン、計算したら十歳でひとりぼっちだ。グラーフ伯爵が引き取るとは思えなかった。
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