ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

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準備①

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 久しぶりのローザ伯爵家。
 馬車の姿を見て、玄関に飛び出してくるのは生物学上の両親だ。轢かれるよ。
 馬車はゆっくり停車、馭者さんがドアを開けて、降りる介助をしてくれる。
 
「ウィンティアッ、ウィンティアッ」

 生物学上の母親が駆け寄ってきたが、ウィンティアの身体を走るのは緊張だ。当然だけど、まだ、ウィンティアが生物学上の両親を受け入れていない。
 咄嗟に後退ると、ナタリアが私の前に出てくれた。

「あ、あ、ウィンティア、ウィンティア」

 生物学上母親は、なにかを求めるように手を伸ばすが、頭を過るのは、幼い頃に放たれた暴言だ。

 腐ったどぶ。

 そう何度も罵倒してきたくせに。

「クラーラ、落ち着きなさい、ウィンティアは無事だ。ナタリア、ウィンティアを部屋に。おかえりウィンティア、まずは休みなさい」

 生物学上の父親も安心したように見てから、ナタリアに指示を出す。
 私は息をつく。

「休息は必要ありません。お話したいことがあります」

 そう言うと、生物学上の両親は顔を見合わせる。

「話? ウィンティアが、私達にか?」

「そうです」

 更に驚いた顔に。

「な、なら、話そうか。すぐにお茶を、ナタリア、お茶をっ。後、お菓子をっ」

 何を慌てているんだろう?
 ナタリアが大丈夫ですか? と視線が来るが、大丈夫だとうなずく。
 執事がリュックを持つと言ったが、そのまま背負ったままで何故かテンションが上がっている生物学上の両親の後に続く。

「あ、まあっ、よく帰って来れたわねっ」

 あー、来たよ、存在自体が迷惑女が。
 ラベンダー色にフリフリのレースがあしらわれたワンピースは、見た目お人形キャサリンにはよく似合うが、中身がね。テヘロン王国でやらかしている事も聞いて余計に嫌いになった。

「自分だけテヘロン大使館に入るなんて、ずいぶんねっ。せっかく私が会いに行ってあげたのにっ、あんな手荒に追い返すなんてっ。自分が何をしたかわかっているのっ」

 …………………………………はあ?
 回りにいた出迎えの使用人達までそんな顔だ。
 生物学上の両親は、すでに地球外生命を見るような顔だけど。

「私がアサーブ殿下と幼馴染みだからと妬んでやったんでしょうけどねっ。それくらいでは、私とアサーブ殿下との絆は絶たれないのよっ」

 あ、こいつ、本当に夢と現実の区別がついてないやつだ。
 私が保護された事や、何故、自分がテヘロン王国への永久入国禁止になっているのか、全くわかっていない。てか、アサーブ殿下と幼馴染みって。本来入ってはいけない王族の居住区に侵入して、許可もないのにアサーブ殿下に接近して、大事になったのに。どういう思考回路なんだろう。
 ここにテヘロン大使館の方がいなくて良かった。
 頭痛がしてきた。

「まあっ、テヘロンシルクだわっ。お父様っ、ウィンティアだけずるいわっ、私だって欲しくても手に入らないのにっ」

 当たり前でしょうよ。
 このワンピース、元々はステラ様の衣装だ。更に言うと、ステラ様のお母様の衣装なんだけど。私用に仕立て直してくれた。これに使われているテヘロンシルクは、品質によりけりだけど、テヘロンの高位貴族しか手に入らない。それをテヘロンへの入国禁止となっているキャサリンが手に入れられるわけない。
 貰った時は洗って返しますなんていったけど、お下がり文化だし、気にしない気にしないだって。
 キャサリンが無遠慮に触ろうとするので、私は当然その手を叩き落とす。

「きゃっ、痛いわっ、お父様っ、お母様っ、この子、暴力をっ」

 いかにも被害者ぶっているが、生物学上の両親の顔は動かない。

「これ、敷地外に出してもらえます? 話はそれからです」

「そうだな」

 生物学上の父親は、ぎゃあきゃあ喚くキャサリンを引き剥がし、執事に預けた。
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