ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには？

真実⑧

　ナタリアは首をかしげている。
　そんな姿を見て、言葉が詰まる。
　この資料を見たら、ナタリアは傷つくのは分かっている。出すべきか、悩んだけど、私に父親の件を涙ながらに話してくれたあの日の姿が甦る。

　父は、私達を残してあんな死に方をするはずない。

　そう言ったナタリア。
　でも、キリール・ザーデクは、酒場で酔って暴れて頭を打ち死亡したと、処理され発表されてしまった。当時妻のゾーヤ・ザーデクがそれですぐに受理、遺体を引き取った当日に簡単な葬儀、埋葬して、その足で実家に戻った。お気に入りの次女だけ連れて、籍まで抜いてね。
　はっきり言って薄情すぎる上に、手際がよすぎる。
　それからの行動も喪に服さない行動や、アデレーナのあの毒々しさ。
　バラバラになったパズルが合わさったのが、この資料だ。
　これを見て、ナタリアは混乱するかもしれない、傷つくかもしれない。
　でも、ナタリアのお父さんは、あんな死にかたではないのだと、言ってあげられる。

「ごめんっ、ナタリアッ」

「えっ？」

　私は座布団の下に隠していた資料をナタリアに差し出す。

「ごめんっ、勝手に、ナタリアのお父さんの事件調べたのっ。勝手してごめんっ」

「えっ？」

　やっぱり混乱している様子だ。
　私はかいつまんで説明する。
　あのレオナルド・キーファーが遅刻したあの日。私はすでに新聞記者のデルダさんと接触して、名刺を持っていた。ただ、色々な条件があり、あの日ナタリアに言い出せなかった。
　もし、再度捜査を嘆願するにしても、キリール・ザーデクの名誉を回復するには、後見と相応に資金が必要だったから。後見はどうにかなるとしても、問題は資金だ。弁護士さんとか裁判を起こすにしてもね。
　その問題となる資金がどうにかなる。この慰謝料さえあればなんとかなる。

「これ、テヘロンの『影』の人達が調べてくれたの」

　ナタリアは戸惑いながら資料を受け取り、取り出す。
　ページを捲りながら、ナタリアの表情が固くなっていく。徐々に手が震えて、涙が浮かび始める。
　ああ、やっぱり、こうなった。
　ナタリアを傷つけてしまった。

「ナタリア、本当にごめんね、ナタリアの許可もなしで調べてしまって」

「………………いいえ、お嬢様」

　涙をポロポロ溢しながら、ナタリアがこちらを向く。

「やっぱり、父は、殺されたんですね。私達を残して、勝手に死んだわけじゃなかった」

　それが、ナタリアにとって一番大事な事。

「そうだよナタリア」

　ナタリアは資料に視線を落とす。

「薄々わかっていたんです。母の事、アデレーナの事。でも面と向かって聞く勇気が私にはありませんでした」

「そうだよね。下手したらナタリアが罰せられるからね」

　ナタリアは涙を拭く。

「母はやっぱり不貞をしていたんすね。アデレーナは、その相手との間に生まれたんですね」

　そう。
　アデレーナだけが、ナタリア達とやけに似ていない事には気がついていた。ただ、姿だけが、母親そっくりで、父親そっくりのナタリア達と比べていただけかもしれないと思っていたが。

　ゾーヤ・グラーフは、キリール・ザーデクとの婚姻中に不貞行為をし、アデレーナを生んだ。しかもそれをキリール・ザーデクの子供と偽り届けを出していた。