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夏休み⑨
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アサーヴ殿下が予定より早く帰って来た。
その間、私はスティーシュルラ様と新作のレシピを堪能していた。じゃがいもとお肉のスパイス炒め。これもテヘロンの家庭料理だけど、美味しい。ルルディで気軽に手に入る香辛料で再現してみた。後、カレードリアも挑戦した。これは一発で商品化した。
最近、シェフさんの一人が、自分の息子が三歳で、嫁に来ないか、何て言ってきたけど、侍女さんに気絶させられて連行されてた、だ、大丈夫かな、シェフさん。
「やあ、ウィンティア嬢、何か決まったかい?」
「はい。お願いしたいことがあります」
私はアサーヴ殿下と向き合う。隣にはスティーシュルラ様。
「ある事故の真相を調べてほしいんです」
「何の事故だい?」
私はナタリア達の父親、キリール・ザーデクの事を説明。元々、デルダさんの新聞社を訪ねたのもそうだし。
あの赤い本、事例八のアデレーナの被害者であるナタリアとヴァレリーをまずどうにかしないと。事実七のキャサリンはかなり流れが変わって来ているし、生物学上の両親も、手に余しているようだし、何より今はこちらにいないから、あと回しね。
「ナタリア達を見ていたら、私はどうしてもキリール・ザーデクがその様ななくなり方をするとは思えないんです。それに元妻の動きも納得できなくて」
「分かった、調べよう、少し待っていてくれるかい?」
心配していたけど、あっさりアサーヴ殿下が指示を出している。
構えていたけど、良かった。どれくらいかかるかな? なんて思っから、僅か一週間で調査終了。
はやっ。
アサーヴ殿下から調査報告書を受け取り確認。
ペラペラと捲ると、私は頭から血が落ちる感覚を覚える。
「嘘でしょ……………」
私は最後のページを閉じて呟く。
ナタリアに、なんて説明しよう。しっかりしているって言っても、まだ十五のナタリアには厳しい結果だ。
「ウィンティア嬢、大丈夫かい?」
「あ、はい。調べていただきありがとうございます」
「これくらいならお安いご用だよ。で、どうするんだい?」
「まずはナタリアにどう説明しようか考えます」
「そうだね。それに、この件に関しては我らは調査しかできないし、すでに処理された件だ、再捜査はできない」
そう、キリール・ザーデクは事故死として処理され、当時妻であったゾーヤ・ザーデクが了承してしまったので、どうしようもない。これはデルダさんにも言われた。
「ただ、これをネタに、ナタリア・ザーデクが、母親ゾーヤ・グラーフを訴え、父親の名誉は回復できる。それに必要なものは分かるかい?」
「はい、キリール・ザーデクが頭を打ったと証言した同僚の証言の撤回。そして、後見」
デルダさんもこのキリール・ザーデクの件には、違和感を覚えていた。喪にも伏さない元妻は、お気に入りの次女だけ連れて行ったこと。そして残されたナタリア達は着の身着のままで、無一文だった。ザーデク家はそこそこ立地のいい所に自宅があった。そこも葬儀の日に人手に渡っていた。あまりにも手際が良すぎたのに疑惑を覚えたって言ってた。
まるで、キリール・ザーデクが亡くなるのが分かっていたのでは、と。
私もまさかね、とは、思っていたけど、確信になる。
ちょっと感じていた違和感も納得出来たし。
調査報告書に、もう一度目を落とす。
キリール・ザーデクは事故死ではない、明らかに殺人だ。
その経過がナタリアにはショックすぎる内容だ。
確かにこれを理由に、母親を訴えたら、素人の私が思うに勝てると思う。
問題は、後見だ。
現在、ナタリア達の立場はとても弱い。まだしっかり成人していないナタリアが、弁護士を雇い母親を訴えるにはハードルが高すぎる。
訴える、つまり裁判だけど、当然弁護士が必要。まずナタリアのお手当てで雇えない。そして証言をしてくれる人達の交渉もろもろ。そして十五のナタリアに絶対に必要なのは後見となってくれる人物だ。相応に社会的立場がある、高い人でないと認められない。
どうしたものか? ナタリア達を一時的に保護してくれた人に頼むか?
もんもんと数日悩む。そして、明日、ナタリアがやってくる日に、テヘロン大使館前でちょっとした騒動が起きた。
マナー違反女キャサリンが、私に会いたいと、大使館に入ろうとして、門番に槍で突かれる寸前になったと。
その間、私はスティーシュルラ様と新作のレシピを堪能していた。じゃがいもとお肉のスパイス炒め。これもテヘロンの家庭料理だけど、美味しい。ルルディで気軽に手に入る香辛料で再現してみた。後、カレードリアも挑戦した。これは一発で商品化した。
最近、シェフさんの一人が、自分の息子が三歳で、嫁に来ないか、何て言ってきたけど、侍女さんに気絶させられて連行されてた、だ、大丈夫かな、シェフさん。
「やあ、ウィンティア嬢、何か決まったかい?」
「はい。お願いしたいことがあります」
私はアサーヴ殿下と向き合う。隣にはスティーシュルラ様。
「ある事故の真相を調べてほしいんです」
「何の事故だい?」
私はナタリア達の父親、キリール・ザーデクの事を説明。元々、デルダさんの新聞社を訪ねたのもそうだし。
あの赤い本、事例八のアデレーナの被害者であるナタリアとヴァレリーをまずどうにかしないと。事実七のキャサリンはかなり流れが変わって来ているし、生物学上の両親も、手に余しているようだし、何より今はこちらにいないから、あと回しね。
「ナタリア達を見ていたら、私はどうしてもキリール・ザーデクがその様ななくなり方をするとは思えないんです。それに元妻の動きも納得できなくて」
「分かった、調べよう、少し待っていてくれるかい?」
心配していたけど、あっさりアサーヴ殿下が指示を出している。
構えていたけど、良かった。どれくらいかかるかな? なんて思っから、僅か一週間で調査終了。
はやっ。
アサーヴ殿下から調査報告書を受け取り確認。
ペラペラと捲ると、私は頭から血が落ちる感覚を覚える。
「嘘でしょ……………」
私は最後のページを閉じて呟く。
ナタリアに、なんて説明しよう。しっかりしているって言っても、まだ十五のナタリアには厳しい結果だ。
「ウィンティア嬢、大丈夫かい?」
「あ、はい。調べていただきありがとうございます」
「これくらいならお安いご用だよ。で、どうするんだい?」
「まずはナタリアにどう説明しようか考えます」
「そうだね。それに、この件に関しては我らは調査しかできないし、すでに処理された件だ、再捜査はできない」
そう、キリール・ザーデクは事故死として処理され、当時妻であったゾーヤ・ザーデクが了承してしまったので、どうしようもない。これはデルダさんにも言われた。
「ただ、これをネタに、ナタリア・ザーデクが、母親ゾーヤ・グラーフを訴え、父親の名誉は回復できる。それに必要なものは分かるかい?」
「はい、キリール・ザーデクが頭を打ったと証言した同僚の証言の撤回。そして、後見」
デルダさんもこのキリール・ザーデクの件には、違和感を覚えていた。喪にも伏さない元妻は、お気に入りの次女だけ連れて行ったこと。そして残されたナタリア達は着の身着のままで、無一文だった。ザーデク家はそこそこ立地のいい所に自宅があった。そこも葬儀の日に人手に渡っていた。あまりにも手際が良すぎたのに疑惑を覚えたって言ってた。
まるで、キリール・ザーデクが亡くなるのが分かっていたのでは、と。
私もまさかね、とは、思っていたけど、確信になる。
ちょっと感じていた違和感も納得出来たし。
調査報告書に、もう一度目を落とす。
キリール・ザーデクは事故死ではない、明らかに殺人だ。
その経過がナタリアにはショックすぎる内容だ。
確かにこれを理由に、母親を訴えたら、素人の私が思うに勝てると思う。
問題は、後見だ。
現在、ナタリア達の立場はとても弱い。まだしっかり成人していないナタリアが、弁護士を雇い母親を訴えるにはハードルが高すぎる。
訴える、つまり裁判だけど、当然弁護士が必要。まずナタリアのお手当てで雇えない。そして証言をしてくれる人達の交渉もろもろ。そして十五のナタリアに絶対に必要なのは後見となってくれる人物だ。相応に社会的立場がある、高い人でないと認められない。
どうしたものか? ナタリア達を一時的に保護してくれた人に頼むか?
もんもんと数日悩む。そして、明日、ナタリアがやってくる日に、テヘロン大使館前でちょっとした騒動が起きた。
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