ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

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夏休み①

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「お嬢様ーっ」

「ナタリアッ」

 半泣きのナタリアが、私の姿を見て走ってきた。もちろん私も走って駆け寄る。ひしっ、とナタリアと抱き締め合う。ああ、久しぶりのナタリアだあ。

「お嬢様っ、良かったっ、良かったっ、ご無事でっ」

 ポロポロと涙を溢すナタリア。本当に申し訳ない。

「ごめんねナタリア、心配かけて」

「いいんです。お嬢様がご無事なら」

 ひしっ、と抱き合う私達は、用意された部屋に通される。ぴったり張り付いて、ソファーに座る。私はナタリアの涙をせっせとハンカチで拭く。このハンカチ、素敵な刺繍がされている。テヘロンの侍女さんがわざわざ刺繍してくれた。

「お嬢様、お怪我は? たくさん叩かれたって」

 あ、新聞ではね。

「叩かれたけど、何回かよ。実際百叩きなんてされてないの。運悪くそのあと風邪引いちゃって」

 ナタリアに経緯を説明する。

「そうだったんですね。その馭者さんにはお礼を言わないと」

「うん。夏休み開けたら会いに行こうと思う」

「お供しますっ」

 ふんすっ、とナタリア。変わってないなあ。
 それから、テヘロンの侍女さんがお茶を出してくれた。チャイみたいな感じね。
 面会時間は1時間だから、話をする。
 ナタリアが持ってきた荷物や手紙はただいまチェックされている。ナタリアは大使館に入る前にボディチェックを受けてる。まさか、素っ裸にされてないか心配したけど、女性の職員さんだけがいるなかで、下着一枚になって、大使館が準備したワンピースに着替えただけみたい。

「お嬢様のクラスメートの方達からのお手紙も預かっています」

 アンネやリーナ嬢からのお手紙ね。

「旦那様からはお着替えや手紙ですね。それから、ユミル学園の先生から手紙」

「夏休みの課題は?」

 ないの? すると、ナタリアは驚いた顔。

「お嬢様、ユミル学園に戻られます?」

「あー。そうだね」

 あんな目に合ったんだから、嫌になって辞めるって行っても仕方ないかも。
 でもなあ、学園はちゃんと探してくれたし、うーん、マクガレル先生やダグラス先生には、思うことない。今回の事で、ユミル学園はいいほうに変わるだろうし。何より、クラスメートの皆に会いたいかな。変な目で見てくる生徒はいるだろうけど、もう今更だ。

「まだ、通いたいかな。だから、夏休みの課題があるなら次に持ってきてくれる?」

「はい、お嬢様。後ですね、レオナルド・キーファー様からも手紙があるのですが」

 保留婚約者だもんね。
 アサーヴ殿下から、レオナルド・キーファーの事情は聞いたし。

「そう。分かった」

 本当なら読みたくないけど、今回に限り、レオナルド・キーファーも被害者かも知れないし。

「お嬢様は、レオナルド・キーファー様を許すんですか?」

 優しいナタリアが珍しい。

「許す、か。ナタリア、今回の件はあの人は関係ないんだよ。時間通りに帰ったとしても、結果は変わらなかったはずだしね」

 ため息を吐く私。

「今までの事をチャラにはしないけど、ね。今回の事はね。ウーヴァ公爵は『影』まで使って私を捜索したみたいだし」

 例えそれが、私にあるティーナ夫人が残した権利だとしても、ね。

「そうだ、私の今回の件で、ローザ伯爵はどんな動きをしている? 悪用してない?」

「いえ、今のところはありません。奥様が保護者説明会前に倒れられましたが、お仕事に復帰されました」

 生物学上の母親が倒れた事は、アサーヴ殿下から聞いていた。まあ、一応娘の私が行方不明だからね。なんとも感情が湧かない。

「で、キャサリンは? まだ帰ってない?」

「はい、後1ヶ月は帰って来ないかと」

 夏休みは2ヶ月半。長いのには理由がある。ユミル学園には冬休みがない。理由は冬休みがあっても、遠方の学生は雪で帰れないし、帰って来ない。交通手段が馬車しかないからね。
 で、マナー違反女キャサリンは、ルルディ王国の西に接するシルヴァスタ王国との国境の街に行ってる。そこは生物学上の母親の実家があり、そっちに追いやられている。
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