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テヘロン大使館⑩
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ユミル学園での保護者説明会から三日後、ナタリアが明日テヘロン大使館にやってくる。
結局、ウーヴァ公爵とのアサーヴ殿下のアポイントは、無かったことになった。アサーヴ殿下が保護者説明会に出席しなければいけなかったかね。お互い忙しい身だから、キャンセルだって。
それを狙ってデルダさんの新聞に記事を乗せたんだろうけど。
私は捜査が終わった事にほっとしている。無駄に教職員の方達に動いてもらうのは心苦しから。
それから、あの日、何故、レオナルド・キーファーが遅れて来たのか理由が分かった。お茶の時間、アサーヴ殿下が教えてくれたが、さすがに私でも気の毒というか、同情を禁じ得ない思いが沸く。
護衛騎士の労働基準を大幅に越えての勤務に、担当ではない雑務を押し付けられ、まだ先の提出書類の提出を急かされたって。だから、あの大遅刻。
今回の件は、あのペルク侯爵令嬢と寮管生のしでかした事だから、ローザ伯爵にもウーヴァ公爵にも非はない。結局、門限守って帰ってもムチ打ちされて、地下室に監禁だったろうし。
「今回君の件を出汁に、ハインツ・ウーヴァが動くようだよ」
ハインツ・ウーヴァは、ウーヴァ公爵家の婿養子、アンジェリカ様のお父様ね。ハインツ様は労働省のお偉いさん。レオナルド・キーファーの勤務体制やら、仕事を押し付けられて長時間労働をかなりつつくみたい。
そもそもなんで、そんなことになってるわけ?
「レオナルド・キーファーがあの若さで護衛騎士に抜擢されたのをやっかんだんだろうね」
それは、お気の毒かな。
「君は、彼とは婚約関係だったね?」
アサーヴ殿下が確認して来る。
「はい。保留状態ですけど、自分で言うのもなんですが、あんまり良い関係ではないですね」
色々邪魔されたからね。
簡単に、淡々と説明すると、アサーヴ殿下がふむと頷く。
「このままの状況を継続したいかい?」
「出来れば破棄したいですね。ただ、そうなると、あのキャサリンが嬉々としてレオナルド・キーファーに絡んで行きそうで」
私と婚約関係でなくなれば、キャサリンは堂々とレオナルド・キーファーといちゃつけるもんね。だけど、向こうは私に残されたティーナ夫人の権利欲しさだけに、継続したいだけ。私から継続が無くなれば、向こうから捨てる。
「気に食わないです」
それが気に食わない。捨てられるのでない、私が捨てたい。うまくいかない。どっちにしたって、私がどうこうできないのが悔しい。
むー、となる。
ふふふ、と笑うアサーヴ殿下とスティーシュルラ様。
「なら、テヘロンに来るかい?」
と、アサーヴ殿下が。
「えっと、留学という形ですか?」
辛うじて日常会話が出来るくらいなのに、無理だよ。
「違う違う。君がテヘロン人と恋に落ちて、レオナルド・キーファーを振るんだよ」
「相手がいません」
対象がいない。それに相手に多大な迷惑がっ。
「ちょうどいいのがいるじゃないか、そこに」
と、アサーヴ殿下が指し示した先にいたのは、なんとソードさん。えっ? ソードさん? 微かに困った顔のソードさん。いや、無理でしょ。スティーシュルラ様の護衛よね?
「お兄様、ソードもティアさんも困っていますわ」
戸惑っていると、スティーシュルラ様が助け船を出してくれた。それで、何となくその場は流れたけど、あんまりそういうのは、私のスタイルではない。政略とは言え、婚約関係にあるのに、他に誰かを作るなんて、正に不誠実なことは。
「アサーヴ殿下、せっかくのお知恵ですが、私には、そのような不誠実はできません」
はっきりお断りすると、なぜかホッとした顔のアサーヴ殿下。
「分かった。君がどの様な考えを持っているか知れて良かった」
どういう事だろう?
アサーヴ殿下はレオナルド・キーファーを精神的に追い詰める事が出来るって言ってけど、私は迷う。今回の件は、いろんな事が重なりすぎている。それにやり方が、私はどうしても納得出来ない。別の誰かを捕まえて、相手を振るなんて、受け入れられない事だ。
なんで、知りたかったんだろう?
「やはり、私があのキャサリンの妹だからですか?」
「それもあったけど、君はあのキャサリン・ローザとは全く違う。同じ親から生まれたとは思えない程にね。それを実感したんだよ」
そうなんだ。
理解してもらえて良かった。
アサーヴ殿下はお茶飲んであわただしく出ていった。
結局、ウーヴァ公爵とのアサーヴ殿下のアポイントは、無かったことになった。アサーヴ殿下が保護者説明会に出席しなければいけなかったかね。お互い忙しい身だから、キャンセルだって。
それを狙ってデルダさんの新聞に記事を乗せたんだろうけど。
私は捜査が終わった事にほっとしている。無駄に教職員の方達に動いてもらうのは心苦しから。
それから、あの日、何故、レオナルド・キーファーが遅れて来たのか理由が分かった。お茶の時間、アサーヴ殿下が教えてくれたが、さすがに私でも気の毒というか、同情を禁じ得ない思いが沸く。
護衛騎士の労働基準を大幅に越えての勤務に、担当ではない雑務を押し付けられ、まだ先の提出書類の提出を急かされたって。だから、あの大遅刻。
今回の件は、あのペルク侯爵令嬢と寮管生のしでかした事だから、ローザ伯爵にもウーヴァ公爵にも非はない。結局、門限守って帰ってもムチ打ちされて、地下室に監禁だったろうし。
「今回君の件を出汁に、ハインツ・ウーヴァが動くようだよ」
ハインツ・ウーヴァは、ウーヴァ公爵家の婿養子、アンジェリカ様のお父様ね。ハインツ様は労働省のお偉いさん。レオナルド・キーファーの勤務体制やら、仕事を押し付けられて長時間労働をかなりつつくみたい。
そもそもなんで、そんなことになってるわけ?
「レオナルド・キーファーがあの若さで護衛騎士に抜擢されたのをやっかんだんだろうね」
それは、お気の毒かな。
「君は、彼とは婚約関係だったね?」
アサーヴ殿下が確認して来る。
「はい。保留状態ですけど、自分で言うのもなんですが、あんまり良い関係ではないですね」
色々邪魔されたからね。
簡単に、淡々と説明すると、アサーヴ殿下がふむと頷く。
「このままの状況を継続したいかい?」
「出来れば破棄したいですね。ただ、そうなると、あのキャサリンが嬉々としてレオナルド・キーファーに絡んで行きそうで」
私と婚約関係でなくなれば、キャサリンは堂々とレオナルド・キーファーといちゃつけるもんね。だけど、向こうは私に残されたティーナ夫人の権利欲しさだけに、継続したいだけ。私から継続が無くなれば、向こうから捨てる。
「気に食わないです」
それが気に食わない。捨てられるのでない、私が捨てたい。うまくいかない。どっちにしたって、私がどうこうできないのが悔しい。
むー、となる。
ふふふ、と笑うアサーヴ殿下とスティーシュルラ様。
「なら、テヘロンに来るかい?」
と、アサーヴ殿下が。
「えっと、留学という形ですか?」
辛うじて日常会話が出来るくらいなのに、無理だよ。
「違う違う。君がテヘロン人と恋に落ちて、レオナルド・キーファーを振るんだよ」
「相手がいません」
対象がいない。それに相手に多大な迷惑がっ。
「ちょうどいいのがいるじゃないか、そこに」
と、アサーヴ殿下が指し示した先にいたのは、なんとソードさん。えっ? ソードさん? 微かに困った顔のソードさん。いや、無理でしょ。スティーシュルラ様の護衛よね?
「お兄様、ソードもティアさんも困っていますわ」
戸惑っていると、スティーシュルラ様が助け船を出してくれた。それで、何となくその場は流れたけど、あんまりそういうのは、私のスタイルではない。政略とは言え、婚約関係にあるのに、他に誰かを作るなんて、正に不誠実なことは。
「アサーヴ殿下、せっかくのお知恵ですが、私には、そのような不誠実はできません」
はっきりお断りすると、なぜかホッとした顔のアサーヴ殿下。
「分かった。君がどの様な考えを持っているか知れて良かった」
どういう事だろう?
アサーヴ殿下はレオナルド・キーファーを精神的に追い詰める事が出来るって言ってけど、私は迷う。今回の件は、いろんな事が重なりすぎている。それにやり方が、私はどうしても納得出来ない。別の誰かを捕まえて、相手を振るなんて、受け入れられない事だ。
なんで、知りたかったんだろう?
「やはり、私があのキャサリンの妹だからですか?」
「それもあったけど、君はあのキャサリン・ローザとは全く違う。同じ親から生まれたとは思えない程にね。それを実感したんだよ」
そうなんだ。
理解してもらえて良かった。
アサーヴ殿下はお茶飲んであわただしく出ていった。
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