上 下
115 / 338

行方不明⑩

しおりを挟む
 ユミル学園による保護者説明会は荒れに荒れた。
 過激な体罰が当たり前だった時代はとうの昔。
 ルルディ王国最大にして、唯一の王立学園だからと、高い授業料を支払い安心して通わせているのに。
 代理とはいえ、寮母が寮管生により踊らせて、体罰・監禁、あげく行方不明だ。
 逆恨みにて唆した女子生徒の処遇、寮母に対してはどうするのか? 行方不明となった女子生徒を真剣に探しているのか? 学園の責任はどうするのか? 
 そもそも何故体罰が? 嫡子でなければ、次子以降は手荒に扱うのか?
 聞きながら、ジョージは耳を塞ぎたかった。
 中には、真剣に自分の子供を預けても大丈夫なのかと、案じているものもいる。だが、中には怒鳴るだけ、無関係、興味本意、自分勝手なものばかり。貴族は他人の醜聞を好み、嗤い、それを使い見下し、何かしらの利権や評判を奪い取る。
 ウィンティアの身を案じているのは、ほんの僅かだ。
 あの新聞が出てから、準特進クラスに通う生徒の保護者が集められた。どこから情報がもれたか、だ。結局、どこから漏れたか不明だったが。アンネと言う女子生徒の保護者である子爵の叔父からは、ウィンティアの身を案じていると言われて、どれだけありがたかったか。他のクラスメートの保護者からもだ。
 新聞ではウィンティアの名前は出ていなかったが、該当するのはウィンティアしかいない。アンネの叔父が、心配そうに見てくる。
 とうとう、クラーラは倒れてしまった。ウーヴァ公爵もウィンティアの捜査をしてくれているが、あれからすでに二週間も経過している。ローザ伯爵家の中には絶望視するものもいる。ナタリアは時間があれば、学力裏側の森に行っている。
 ジョージはまだ、諦めていない。いないが。
 もどかしく、情けない気持ちでいっぱいだ。
 あの日、レオナルド・キーファーさえ時間通りに来たら、いや、それ以前に、もっと昔、自身がキャサリンの『魅力』に操られてさえいなければ、こんな結果にはならなかった。
 ピアノ教師だって、留守を託した父親が勝手にクビにして、あの女子生徒の母親に変更した。ペルク侯爵令嬢だって、キャサリンが節度ある対応さえしていれば。
 ああしていれば、こうしていれば。
 ふいに、飛び交う怒号が止まる。
 誰かが、説明会会場に入って来たようだ。
 軽く会釈して入って来たのは、端正な顔立ち、褐色の肌、銀色の髪のテヘロン人。
 ジョージの記憶が甦る。
 四年前に、キャサリンが不敬を働いた、テヘロン王国第二王子、アサーヴ殿下だ。
 テヘロン王国の大使として、ルルディ王国に滞在しているのは知っていたが、何故ここに。
 アサーヴ殿下は保護者席に座る前に、遅れて来たのを謝罪する。
 そして、とんでもないことを口にした。

「この新聞に出た生徒に該当する令嬢を、我がテヘロン大使館で保護している」

 と。
 騒然となった。
 騒然となったが、ジョージは足元が崩れ落ちて行く程の安堵が浮かぶ。
 ウィンティアは無事だ。すぐに会いに行きたい、たとえ、ウィンティアに拒絶されてもその姿をみたい。すぐにクラーラに伝えたい。
 会場から何故今頃になって、と。
 アサーヴ殿下の説明はこうだ。
 保護した令嬢は、当初酷い熱を出したこともあるが、精神的なショックで、事情を聞き出したのはつい最近。あの新聞記事が出た次の日だった。
 そして、その令嬢の持ち物だと、レオナルド・キーファーとペアで作られた懐中時計と、片方の白い靴を提示した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

処理中です...