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行方不明⑨
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「そう、分かったわ、下がりなさい」
セシリア・ウーヴァ女公爵は、『影』からの報告を受けてため息を付く。テーブルの向こう、夫のハインリヒは妻セシリアを気遣う。
「セシリア。特製のスムージーを作ってくれたよ。朝から何も口にしていないだろう? 少しお腹に入れないと」
「そうね。ごめんなさい、気を使わせてしまって」
すぐに見つかると思われたウィンティア・ローザは、未だに発見されていない。『影』達は首都の隅を探し回ったが、空振り。怪しげな趣味を持つ者の屋敷や、そういった幼い少女を扱う違法売春宿まで片っ端から探したが、ウィンティア・ローザは見つかっていない。
結論として、ウィンティア・ローザはすでに首都にいないか、もしくは、『影』ですら入れない場所にいるか、だ。
あれから、レオナルドは消沈している。仕事に支障は来していないが、あの日、遅刻の原因となった上司達と何やらあった様子。ハインリヒがその上司達の名前を調べだしていた。
もともとあの日レオナルドは休みだった。護衛騎士の労働基準を大幅に越えて勤務していたレオナルド。すでに問題になる程の勤務をしていたため、あの日から連休予定だった。それなのに、突然の勤務変更、そして長時間残業。残業内容も首を傾げるものだった。まだ二週間も先の期限の書類提出だったり、本来はレオナルドの割り振られた業務ではないのに、一番年がしただからと、押し付けられた。それであの時間だ。
レオナルドさえ、あの日、予定通りにウィンティアと会えていたら、こうはならなかった。レオナルドは自責の念で、激しく落ち込んでいる。
ハインリヒは役人だ。ただの役人ではない、労働基準局のお偉いさんだ。
レオナルドに対して色々やってくれた連中には、お灸を据えるつもりだが、セシリアも黙ってないはず。現在の労働基準の下地を作ったのは、実兄のシーザーだった。その当時、文官や護衛騎士達の過労死が頻繁。その問題を提議して、解決策、実際軌道に乗るまで尽力したのがシーザーだった。
それなのに、その息子のレオナルドが、その基準以上の勤務や長時間残業に振り回されている。護衛騎士の中でも年若いと言う理由で。
セシリアがスムージーを口にしていると、ノックが。
入室の許可を出すと、姿を見せたのはレオナルドの専属執事バトレルだ。
「失礼します」
「いいわ。貴方がこちらに来るなんて珍しいわね」
「少し、ウィンティア嬢で気になる事が」
ぴくり、と眉を動かすセシリア、先を促す。
「一つ、ウィンティア嬢はある新聞社を訪れています。内容はおそらく自身の専属メイドの父親の件だと思われます。その新聞社ですがウィンティア嬢は確認されませんでした。その記者の周辺にもいません。あの日、裏口で同じ馬車が何度か行き来していたようです。馬車の馭者を調べましたが、白です」
「続けて」
「これは一度しか確認されていませんが、ユミル学園に留学されているテヘロン王国第三王女スュテーシュリラ殿下と、ウィンティア嬢が接触していた、と。遠目で確認したそうでしたが、親しそうだった、と」
顔を見合わせるセシリアとハインリヒ。
「ここからは、私の愚かな推察です。お耳汚しになりますが」
「続けて」
「はい。可能性の話です。おそらくスュテーシュリラ殿下にもテヘロンからの『影』の護衛がいるはず。その『影』の護衛が、西門からウィンティア嬢が、打ち捨てられていたのを見たら」
『影』はルルディ王国では王家とウーヴァ公爵家が保有している。現在、ユミル学園にレオンハルト王子が在籍しているため、数人の『影』が学園に潜り込んでいるが、高等部のみ。ウィンティアの中等部にはいない。
ルルディ王国にテヘロン王国の『影』がいる。テヘロンから『影』いますよ、なんて言わないし、こちらも『影』いますか? なんて聞かない。犯罪目的で使用されたら国際問題になるが、目的は第三王女の護衛として潜んでいるはずなので、黙認されている状況だ。
「ウィンティア・ローザは、あのローズマリー勲章を賜るはずだったティーナ・ローザの孫娘。例の権利をウィンティア嬢が持っているなら、テヘロン王国としても保護して絆すにいい機会ではないかと」
ため息をつくセシリア。
「なら、ウィンティア・ローザはテヘロン大使館で保護されていると?」
「あくまで可能性です」
「確かに可能性だね」
ハインリヒが顎に手を当て思案する。
「さすがに大使館に『影』も入れないし、見つからない訳だ。そこに彼女が保護されているなら、一番だけど。あのキャサリン・ローザの妹だよ? 大使館と言ってもは小さなテヘロン王国だ、館内に入れるか?」
ウィンティアがローザ伯爵家に戻っていた八歳の時、セーレ商会の会頭であるローザ伯爵夫妻は、テヘロン王国に行った。ローズマリー勲章の受章の為に。
ただ、トラブルがあり、受章出来ず。ローザ伯爵夫妻は予定より大幅に帰国を延期。その間に、使用人や家庭教師によるウィンティアへの虐待が始まった。
そのトラブルの原因は、キャサリン・ローザによるもので、結果、キャサリン・ローザは永久にテヘロン王国への入国禁止とされた。
そんな事情があるキャサリンの妹であるウィンティア。ハインリヒはキャサリンと関連つけてウィンティアを見るのでは、と含ませる。
「そうね。これは可能性の話だわ」
セシリアは思考する。
確か、大使はテヘロン王国第二王子。第三王女とは同腹の兄妹。
「テヘロンの大使に、探りを入れるのかい?」
「ええ、薄茶の子犬が紛れ込んでいないかってね」
探りを入れる為に、大使館にコンタクトを取ったが、大使館を訪ねる前に例の新聞が出た。ユミル学園による説明会が行われることになり、それどころではなくなった。
セシリア・ウーヴァ女公爵は、『影』からの報告を受けてため息を付く。テーブルの向こう、夫のハインリヒは妻セシリアを気遣う。
「セシリア。特製のスムージーを作ってくれたよ。朝から何も口にしていないだろう? 少しお腹に入れないと」
「そうね。ごめんなさい、気を使わせてしまって」
すぐに見つかると思われたウィンティア・ローザは、未だに発見されていない。『影』達は首都の隅を探し回ったが、空振り。怪しげな趣味を持つ者の屋敷や、そういった幼い少女を扱う違法売春宿まで片っ端から探したが、ウィンティア・ローザは見つかっていない。
結論として、ウィンティア・ローザはすでに首都にいないか、もしくは、『影』ですら入れない場所にいるか、だ。
あれから、レオナルドは消沈している。仕事に支障は来していないが、あの日、遅刻の原因となった上司達と何やらあった様子。ハインリヒがその上司達の名前を調べだしていた。
もともとあの日レオナルドは休みだった。護衛騎士の労働基準を大幅に越えて勤務していたレオナルド。すでに問題になる程の勤務をしていたため、あの日から連休予定だった。それなのに、突然の勤務変更、そして長時間残業。残業内容も首を傾げるものだった。まだ二週間も先の期限の書類提出だったり、本来はレオナルドの割り振られた業務ではないのに、一番年がしただからと、押し付けられた。それであの時間だ。
レオナルドさえ、あの日、予定通りにウィンティアと会えていたら、こうはならなかった。レオナルドは自責の念で、激しく落ち込んでいる。
ハインリヒは役人だ。ただの役人ではない、労働基準局のお偉いさんだ。
レオナルドに対して色々やってくれた連中には、お灸を据えるつもりだが、セシリアも黙ってないはず。現在の労働基準の下地を作ったのは、実兄のシーザーだった。その当時、文官や護衛騎士達の過労死が頻繁。その問題を提議して、解決策、実際軌道に乗るまで尽力したのがシーザーだった。
それなのに、その息子のレオナルドが、その基準以上の勤務や長時間残業に振り回されている。護衛騎士の中でも年若いと言う理由で。
セシリアがスムージーを口にしていると、ノックが。
入室の許可を出すと、姿を見せたのはレオナルドの専属執事バトレルだ。
「失礼します」
「いいわ。貴方がこちらに来るなんて珍しいわね」
「少し、ウィンティア嬢で気になる事が」
ぴくり、と眉を動かすセシリア、先を促す。
「一つ、ウィンティア嬢はある新聞社を訪れています。内容はおそらく自身の専属メイドの父親の件だと思われます。その新聞社ですがウィンティア嬢は確認されませんでした。その記者の周辺にもいません。あの日、裏口で同じ馬車が何度か行き来していたようです。馬車の馭者を調べましたが、白です」
「続けて」
「これは一度しか確認されていませんが、ユミル学園に留学されているテヘロン王国第三王女スュテーシュリラ殿下と、ウィンティア嬢が接触していた、と。遠目で確認したそうでしたが、親しそうだった、と」
顔を見合わせるセシリアとハインリヒ。
「ここからは、私の愚かな推察です。お耳汚しになりますが」
「続けて」
「はい。可能性の話です。おそらくスュテーシュリラ殿下にもテヘロンからの『影』の護衛がいるはず。その『影』の護衛が、西門からウィンティア嬢が、打ち捨てられていたのを見たら」
『影』はルルディ王国では王家とウーヴァ公爵家が保有している。現在、ユミル学園にレオンハルト王子が在籍しているため、数人の『影』が学園に潜り込んでいるが、高等部のみ。ウィンティアの中等部にはいない。
ルルディ王国にテヘロン王国の『影』がいる。テヘロンから『影』いますよ、なんて言わないし、こちらも『影』いますか? なんて聞かない。犯罪目的で使用されたら国際問題になるが、目的は第三王女の護衛として潜んでいるはずなので、黙認されている状況だ。
「ウィンティア・ローザは、あのローズマリー勲章を賜るはずだったティーナ・ローザの孫娘。例の権利をウィンティア嬢が持っているなら、テヘロン王国としても保護して絆すにいい機会ではないかと」
ため息をつくセシリア。
「なら、ウィンティア・ローザはテヘロン大使館で保護されていると?」
「あくまで可能性です」
「確かに可能性だね」
ハインリヒが顎に手を当て思案する。
「さすがに大使館に『影』も入れないし、見つからない訳だ。そこに彼女が保護されているなら、一番だけど。あのキャサリン・ローザの妹だよ? 大使館と言ってもは小さなテヘロン王国だ、館内に入れるか?」
ウィンティアがローザ伯爵家に戻っていた八歳の時、セーレ商会の会頭であるローザ伯爵夫妻は、テヘロン王国に行った。ローズマリー勲章の受章の為に。
ただ、トラブルがあり、受章出来ず。ローザ伯爵夫妻は予定より大幅に帰国を延期。その間に、使用人や家庭教師によるウィンティアへの虐待が始まった。
そのトラブルの原因は、キャサリン・ローザによるもので、結果、キャサリン・ローザは永久にテヘロン王国への入国禁止とされた。
そんな事情があるキャサリンの妹であるウィンティア。ハインリヒはキャサリンと関連つけてウィンティアを見るのでは、と含ませる。
「そうね。これは可能性の話だわ」
セシリアは思考する。
確か、大使はテヘロン王国第二王子。第三王女とは同腹の兄妹。
「テヘロンの大使に、探りを入れるのかい?」
「ええ、薄茶の子犬が紛れ込んでいないかってね」
探りを入れる為に、大使館にコンタクトを取ったが、大使館を訪ねる前に例の新聞が出た。ユミル学園による説明会が行われることになり、それどころではなくなった。
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