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行方不明④
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「ローザッ、ローザッ、聞こえるかっ、ローザッ」
ダグラスは地下の反省室の扉に向かって叫ぶ。部屋の中を覗き込む為の穴からでは、薄暗い部屋の中を全部見えない。地下の反省室には、地上は光を入れる小さな窓以外ない。床は硬質で冷たい石。真っ暗に近い部屋。十二歳の少女が耐えられるような環境ではない。特にウィンティア・ローザは、数年前に言われなき暴力を幼い体で受け続けて来た経緯がある。トラウマになっていてもおかしくないことだ。代理の寮母による仕打ちが、一体どの様なものだったか確認する暇はないが、辛い記憶を呼び起こし、再び彼女を傷つけるはず。すぐにケアが必要な状況だ。
ダグラスはウィンティアの安否を確認しようとするが、真っ暗な部屋から一向に返事はない。押しても引いても分厚い鋼鉄の扉はびくともしない。
やはり、鍵が必要だ。
よりにもよってこの扉の鍵だけが失くなっていた。普段は絶対に使わない筈の鍵が。
「くそっ、待ってろローザッ」
ダグラスは階段をかけ上がると、駆けつけて来たマクガレルと合流した。
代理の寮母は事態を理解したのか、顔面蒼白だ。
「やはり、鍵は見つかりません。今は、専門家を呼びに行っています。ダグラス先生、ローザさんは?」
「こちらの呼び掛けに答えません。中も薄暗くてよく見てない、姿の確認が出来ません」
マクガレルが原の底に般若を忍ばせたような顔で、代理の寮母に告げる。
「貴女を拘束します。今回の事を洗いざらい話して貰いますよ」
まるで犯罪者に向かって言うように言い放たれ、代理の寮母は唇を噛み締める。
「……………もしかしたら」
ふいに思い出したようにに代理の寮母が呟く。
「なんですか?」
マクガレルとダグラスが代理の寮母の呟くを拾う。
「その、今日ウィンティア・ローザが反省室行きだからと、連絡係をしてくれた寮管生が、何か知っているかも。マクガレル先生の所には来ていないんですよね?」
寮管生とは寮生の代表者だ。優秀で真面目な生徒が選ばれる。名誉な役割だが、仕事は寮母のどきどきのお手伝いだ。ただ、この寮管生をしていると、就職先に恵まれると言われ、憧れの役職だ。
ウィンティアの無断外泊だと代理の寮母に告げたのは、その寮管生だった。
「そうですね。話を聞く必要はあるでしょう」
「待ってください」
ダグラスはマクガレルに待ったをかける。そしていくつかの質問をする。
「マクガレル先生、ちょっと……………」
ダグラスはマクガレルに耳打ち。
「分かりました。さあ、行きましょう」
分からない代理の寮母を連れて、管理室を出ていく。残されたダグラスは扉近くのソファーの後ろに隠れて過ごす。
音は朝から降り続く雨の音だけ。
しばらくして、周りを伺うように管理室に入ってくる二つの影。
「今のうちよ」
「分かったっ」
女子生徒の声だ。
息を潜めていたダグラスが、ソファーの影から飛び出す。
無人だと思っていた女子生徒が悲鳴を上げて、手にした物を放り出す。
ちゃりっ
床に落ちたのは、古い鍵。地下の反省室の鍵だ。
「さあ、どういう事か説明して貰おうか? ペルク侯爵令嬢、そして、お前は誰だ? ここの寮管生だな?」
悔しげに睨み付けるディミア。もう一人、ユミル学園の制服に、赤茶でメガネをかけた女子生徒が、管理室の入り口を塞ぐダグラスを睨み付けた。
ダグラスは地下の反省室の扉に向かって叫ぶ。部屋の中を覗き込む為の穴からでは、薄暗い部屋の中を全部見えない。地下の反省室には、地上は光を入れる小さな窓以外ない。床は硬質で冷たい石。真っ暗に近い部屋。十二歳の少女が耐えられるような環境ではない。特にウィンティア・ローザは、数年前に言われなき暴力を幼い体で受け続けて来た経緯がある。トラウマになっていてもおかしくないことだ。代理の寮母による仕打ちが、一体どの様なものだったか確認する暇はないが、辛い記憶を呼び起こし、再び彼女を傷つけるはず。すぐにケアが必要な状況だ。
ダグラスはウィンティアの安否を確認しようとするが、真っ暗な部屋から一向に返事はない。押しても引いても分厚い鋼鉄の扉はびくともしない。
やはり、鍵が必要だ。
よりにもよってこの扉の鍵だけが失くなっていた。普段は絶対に使わない筈の鍵が。
「くそっ、待ってろローザッ」
ダグラスは階段をかけ上がると、駆けつけて来たマクガレルと合流した。
代理の寮母は事態を理解したのか、顔面蒼白だ。
「やはり、鍵は見つかりません。今は、専門家を呼びに行っています。ダグラス先生、ローザさんは?」
「こちらの呼び掛けに答えません。中も薄暗くてよく見てない、姿の確認が出来ません」
マクガレルが原の底に般若を忍ばせたような顔で、代理の寮母に告げる。
「貴女を拘束します。今回の事を洗いざらい話して貰いますよ」
まるで犯罪者に向かって言うように言い放たれ、代理の寮母は唇を噛み締める。
「……………もしかしたら」
ふいに思い出したようにに代理の寮母が呟く。
「なんですか?」
マクガレルとダグラスが代理の寮母の呟くを拾う。
「その、今日ウィンティア・ローザが反省室行きだからと、連絡係をしてくれた寮管生が、何か知っているかも。マクガレル先生の所には来ていないんですよね?」
寮管生とは寮生の代表者だ。優秀で真面目な生徒が選ばれる。名誉な役割だが、仕事は寮母のどきどきのお手伝いだ。ただ、この寮管生をしていると、就職先に恵まれると言われ、憧れの役職だ。
ウィンティアの無断外泊だと代理の寮母に告げたのは、その寮管生だった。
「そうですね。話を聞く必要はあるでしょう」
「待ってください」
ダグラスはマクガレルに待ったをかける。そしていくつかの質問をする。
「マクガレル先生、ちょっと……………」
ダグラスはマクガレルに耳打ち。
「分かりました。さあ、行きましょう」
分からない代理の寮母を連れて、管理室を出ていく。残されたダグラスは扉近くのソファーの後ろに隠れて過ごす。
音は朝から降り続く雨の音だけ。
しばらくして、周りを伺うように管理室に入ってくる二つの影。
「今のうちよ」
「分かったっ」
女子生徒の声だ。
息を潜めていたダグラスが、ソファーの影から飛び出す。
無人だと思っていた女子生徒が悲鳴を上げて、手にした物を放り出す。
ちゃりっ
床に落ちたのは、古い鍵。地下の反省室の鍵だ。
「さあ、どういう事か説明して貰おうか? ペルク侯爵令嬢、そして、お前は誰だ? ここの寮管生だな?」
悔しげに睨み付けるディミア。もう一人、ユミル学園の制服に、赤茶でメガネをかけた女子生徒が、管理室の入り口を塞ぐダグラスを睨み付けた。
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