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行方不明②

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「先生、ローザさんがまだ来ていません」

 もしかしたら、熱でも出たのではないかとアンネは思った。寮生であるなら、寮母から連絡が来ているはずと。
 マクガレル先生は、ふと、首を傾げる。直ぐに副担のダグラス先生に指示を出した。
 その姿が、アンネの不安を煽る。

 数十分後、マクガレル先生とダグラス先生がバタバタと走っていった。
 雨はまだ降り続いている。アンネの不安が更に増す。
 マークや、他の生徒達も不安が伝染。
 どうしたんだろうと、口にする。
 やっと、マクガレル先生が戻って来たのは昼前だ。いつも落ち着いた先生が顔面蒼白だった。

「ウィンティア・ローザは、体調不良にてしばらく休みます」

 なんとなく、何か隠している様だと感じたが、マクガレル先生の言葉を受け入れた。
 きっと、すぐに良くなる、そしたら、ホームステイ先の叔父の家にご招待しよう。そう思っていたのに、夏休みに入る直前までウィンティアは姿を見せなかった。
 まさか、大病を患ったのではないか? お見舞いは?  でも、大病なら、会えないかもしれない、手紙でローザ伯爵家に確認してからでは? と、クラスメートと話していると、あれから顔色の悪いマクガレル先生が教室に。予定より早い時間だ。

「皆さん、席に」

 あわてて着席する。
 そしてくたびれたダグラス先生の姿もある。
 マクガレル先生は準特進クラスの生徒を見渡す。

「皆さん、落ち着いて聞いてください。ウィンティア・ローザは、あの日から行方不明になっています」

 ざわざわっ。

 アンネは頭から血が落ちるような感覚に襲われる。

「現在懸命な捜査が行われています。いずれ公開捜査になるでしょう。それまで他言無用です」

「待ってください」

 アンネは叫んだ。
 沸き上がる不安が爆発するような感覚。

「行方不明って、どこに、どこにローザさんは、どこに? なんで、見つからないんですかっ」

 アンネは自分が言いたいことが言えずにもどかしい。なんで、あれから何日もたった今でも見つからない? ウィンティアは次女とはいえ資産がある伯爵家の娘が、行方不明とは。
 営利誘拐。
 アンネの頭を過った。
 これがもし世間に知られたら、ウィンティアの社会的に令嬢としても、女性としても道が閉ざされる。
 誘拐された伯爵令嬢。
 ウィンティアに比はなくても、それは一生彼女の重りになる。
 いつもニコニコと笑うウィンティアの姿がぼやけていく。右眉の上にあるキズを揶揄されようが、歯牙にもかけず、妙に大人びているような発言をするウィンティア。
 なんで、どうして?

「貴方が言いたい事は分かります。ただ、今は沈黙をしてください。何か分かれば、全員に知らせを出します」

「今っ、どうなっているんですかっ」

 アンネは叫んだ。

「アンネさん、落ち着きなさい」

 静かに言ったのは、リーナ・フォード侯爵令嬢だ。

「現状、私達に出きるのは沈黙だけよ。下手に騒ぐとローザさんの身が危ぶまれるわ」

 冷静に吐き出された言葉に、アンネは椅子に崩れ落ちるように座る。

「まだ、納得出来ていないでしょうが、貴方方を信用し、沈黙の保持をお願いします。各家庭には捜査官が派遣され事情説明が行われています。正式発表前には、必ず知らせを送りますので、沈黙を守ってください」

 アンネはそれからの事はよく覚えてない。
 マークに方を揺らされて、やっと、現実に戻る。ポロポロと涙が流れていたのに、気がつかなかった。アンネは涙をぬぐった。ユミル学園は明日から夏休みに入る。
 せっかく、仲良くなれたと思って、もっと仲良くなりたいからと、ご招待して、お菓子とお茶と、それから、それから、それから、そう思っていたのに。
 マークが心配してくれ、迎えの馬車まで見送ってくれた。
 叔父に話すと、しばらく考えて、

「今はそのローザさんの無事を祈ろう」

 それだけだった。
 結局、アンネにはそれしかできなかった。
 不安のまま夏休みが始まり、1週間過ぎた頃。
 アンネは慌てた様子の叔父から新聞を受けとる。

 王立ユミル学園の闇が明らかに。
 寮管生達により悪意ある誘導による、傷害事件発生。
 被害女子生徒は寮母に言われなき折檻を受けた後、未だに行方不明のまま…………………学園の管理体勢の不備? 人道を無視した非常な行い。王立だからと許されよいのか………………

 アンネは新聞に並んだ言葉に目を回した。
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