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邪魔⑩

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「待ちなさいウィンティアッ、ウーヴァ公爵様っ、申し訳ございませんっ」

 生物学上の父親が私の腕を掴む。
 ウィンティアの記憶をつつく。痛みを伴い記憶。
 突き飛ばされ、殴られ、蹴られ、踏みつけられた記憶。

「触らないでっ」

 私は力一杯抵抗したが、十二の女の子の力で、成人男性に勝てるわけない。私は椅子に強引に戻されそうになる。
 せっかくナタリアが綺麗にしてくれた髪を振り乱し、必死に抵抗。ぶれる視界の中で、フォークが入る。ケーキ用で、小さめのフォーク。

 私がウィンティアを守らないと。

 次、目が覚めたような感覚。私はフォークを握りしめ、腕を抑える生物学上の父親を見下ろしていた。
 私はウーヴァ公爵の執事、時計を渡してくれたいぶし銀の執事さんに拘束されていた。

「ウィンティア様、どうかフォークをお離しください」

 私は肩で息をしていた。どうやら、私がフォークで生物学上の父親の腕を刺したようだ。
 一気に溢れる罪悪感と恐怖。
 私が、フォークで、人を刺した。
 無我夢中とはいえ、これ、傷害事件だ。
 もしかしたら、私が、ウィンティアの未来を、断ってしまった。
 人を傷つけたショックや、罪悪感や、後悔や、これからのウィンティアの処遇で、私は気が遠退いた。


「あ、ウィンティア、気がついたかいっ」

 知らない天井。
 そして、生物学上の両親。
 ああ、私は気を失ったのかな。知らないベッドに横になっていた。
 ああ、これから、私はどうなるんだろう? それよりもまずは、やらないといけないけとがある。

「ローザ伯爵」

 起き上がる。

「腕を刺してしまい申し訳ありません」

「は? 何を言っているんだウィンティア、私は刺されてないよ」

 首を傾げる生物学上の父親。
 えっ、でも、刺したよ。多分、フォークで。

「腕を抑えていました」

「ウィンティアは混乱しているんだね。確かにフォークを握ったけど、私は刺されてなんかない。そもそも、ウーヴァ公爵の執事が、直ぐに私からウィンティアを引き離したんだよ」

 私は、混乱。でも、刺したはず、だって、フォーク握った私の前に、生物学上の父親が腕を抑えていたのだから。

「でも、フォークを」

「だから刺されてなんかないんだよ。ほら、ごらん」

 生物学上の父親は、シャツの袖を捲る。

「ほら、刺されてないだろう。こっちの腕もほら」

 反対の腕も肘上までシャツを捲る。確かにケガをしていない。

「ウィンティア、すまない。お前を混乱させてしまったのは私なんだ。不用意にお前に触れてしまったからね。だけど、私はお前にフォークで刺されてはいないから安心しなさい」

 私は、脱力感に襲われる。
 良かった、良かった、色んな事が良かった。ウィンティアを犯罪者にしなくて良かった。
 ああ、良かった。
 
「ウィンティア嬢」

 ほっとした所に、ウーヴァ女公爵が来た。

「気がついたようね」

 私はむぅ、とした顔になる。

「本当に子犬ね。でも、レオナルドが遅れているのは事実。このような事態になったのはこちらの落ち度。ローザ伯爵家の皆様、申し訳ございません」

 やっと、謝罪したよ。
 ちょっと待った、まだ帰って来てないわけ? 壁の時計ではもう門限突破してるよっ。
 もう、レオナルド・キーファーなんてどうでもいいや。
 どうでもいいや、だけど。

「ウーヴァ公爵様、騒ぎを起こしてしまい、申し訳ありません」

「ウィンティア嬢、学園には使いを出しました」

 そう。
 ウーヴァ女公爵の話では、私の体調気遣い、お泊まりって話。明日から連休だし、明日改めてって。

「いえ、学園に帰ります」

 疲れちゃった。色々、疲れちゃった。
 生物学上の両親が心配したような顔だ。

「ウィンティア、今日はローザ家に」

「学園に帰ります」

 押し問答の末。
 私は学園に帰ることに。
 ローザ伯爵家に戻ると更に時間がかかるので、直接学園に戻ることに。
 ウーヴァ公爵家の皆さんがずらーっとお見送りしてくれた。はあ、あの綺麗なお庭、ちょっと見たかったなあ。
 馬車に揺られて学園に。

「ウィンティア、恐らくまたウーヴァ公爵家に呼ばれると思う」

 馬車に揺られながら、伺うように生物学上の父親が話し出す。

「正直、もうあの人を思うことはないんですが。関わると、ろくな目に合わない」

 返す言葉がない生物学上の両親。
 だって、そうじゃん。
 まともに面会できたの、あのおしゃれなカフェと、リメイクドレスの時だけ。マナー違反迷惑女キャサリンとの方が長い時間接触してる。あっちが婚約者面もしている感じだし。ああ、考えるとイライラする。

「今日は何か事情があっはたはずだ。キーファー様の職業上な」

 王子様の護衛騎士。
 もしかしたら、火急な用事ができたかもって。
 そう言われたら、そうかもしれない。王族に関わるような仕事は、下手したら家族になにも告げられず、随行とかの為に外国に行ったりもするらしいし。
 通信手段がないから、仕方ないことかも。
 私はため息。
 だが、いきなり国外はないはず。
 レオナルド・キーファーが護衛しているレオンハルト殿下は、まだ学生の身分。確か、ユミル学園の高等部在籍して、公務ができる年齢に達していない。つまり、いきなり公務がまだ出来ない王子様の為に、護衛騎士があんな時間まで残業なんてない。
 ユミル学園に入った事もあるが、父親が騎士だったナタリアが詳しく知ってた。
 
「どうでもいいです。しばらく顔を合わせたくありません」

 可愛げもくそもない言い方。
 あーあ、ウィンティア、かわいいのに。
 撃沈する生物学上の両親、沈黙の中、馬車が学園に到着する。
 私は馬車から降りる。

「ウィンティア、我が家は立場上、ウーヴァ公爵家に、拒絶はできない」

「そうですか」

 宛には出来ないか。私は一緒馬車を降りた生物学上の両親に見送られる。
 どんだけ、弱みを握られているんだろう?
 門番の人が、お帰りなさいと声をかけてくれた。連絡行ってたんだ。
 門を開けてもらい、寮に向かって歩いていると。

「ウィンティア嬢ーっ」

 はぁ?
 振り返りと、柵の向こうで叫ぶレオナルド・キーファーが。え、今? 今? 嘘でしょ。
 門番の人が引き剥がしているけど、私の名前を呼ぶレオナルド・キーファー。止めてよ、すごく迷惑。
 私はイライラして踵を返す。

「ああ、ウィンティア嬢っ、申し訳ありませんっ、今日はっ」

 私はポシェットの手紙を、レオナルド・キーファーの足元に捨てる。
 それを見て、えっ? 顔をしている。

「今回は燃やしませんでしたが、次回は焼却炉にいれます。それから、しばらく貴方の顔は見たくありません」

 多分仕事着のレオナルド・キーファーが、間抜けな顔をしている。おろおろとしている生物学上の両親が、気遣うのは、レオナルド・キーファーで、私ではない。やっぱり、生物学上の娘より、そっちか。

「ま、待ってくださいウィンティア嬢っ」

 無視。
 私は寮に向かう。
 レオナルド・キーファーの声を完全無視して。
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