上 下
81 / 338

学園生活スタート⑧

しおりを挟む
 時間通りにアンジェリカ・ウーヴァ公爵令嬢がいらっしゃる。大所帯で。
 運び込まれる箱。あれにドレスが入っているんだろけど、数が多いなあ。

「あら、ウィンティア嬢、お久しぶりね」

「はい。ウーヴァ公爵令嬢様」

 ぺこり。

「アンジェリカでいいのよ。早速で悪いけど、気に入ったドレスを選んでちょうだい。少し手直しするわ。もう、時間ギリギリだから、ちゃっちゃとやりましょう」

「あの、アンジェリカ様、お気遣いは光栄なのですが、私では、その足りない部分が…………」

 特に背丈。アンジェリカ嬢と私は約二十センチ、でもってスタイル抜群ときたもんだ。私が来たら、ぶっかぶかだ。

「ふふっ、心配ないわよ。つてがあってね、そう言ったリメイク専門の工房に言えば、二週間もすれば出来上がるのよ」

「でも、私、あんまりお金持ってなくて…………」

「? 何を言ってるの? ローザ伯爵が出すに決まっているじゃない」

 一応親だからかな。

「ウィンティア、心配いない。仕立てるよりずっと安くなるから」

「はぁ」

 でもなあ。次々に出てくるドレスが、キラキラしてまぶしい。
 バタバタ
 あ、この足音はっ。
 生物学上の両親の顔が、うげえ、と歪む。
 
 バタンッ

 はい、ノックなし。マナー違反女キャサリン登場。
 今日もどっかに出掛けていたのが、白のフリルの着いたピンク帽子に、同系色のドレス。見た目お人形さんのキャサリンは、似合っている。

「まあっ、新しいドレスですのっ。もう、お父さんったらガーデンパーティーには新しいドレスは作らないっておっしゃったけど、私の為にやっぱり準備してくれたんですねっ」

 一体どんな思考回路なんだろう?
 てか、アンジェリカ嬢見えないの? 無表情で、扇で目元の下から隠している。
 誰の許可もないのに、キャサリンは箱から出されたドレスを両手に一枚ずつかける。

 バシッバシッ

「きゃっ」

 え?
 アンジェリカ嬢の扇が、強かにキャサリンの腕を打つ。

「な、何をなさいますのっ、ぐすっ、お父様っ、お母様っ」

 わざとらしく、両親に駆け寄るキャサリンだが。

「申し訳ありませんウーヴァ公爵令嬢」

「申し訳ありません」

 生物学上の父親が、キャサリンの空っぽ頭を掴んで、無理やり下げさせる。
 アンジェリカ嬢は扇で再び口元を隠す。

「ローザ伯爵家のご長女様は、どうやら、何かが欠落しているご様子。私、こういった輩は嫌いですの。せめて最低限のマナーを身につけたらいらっしゃいな」

 はい、出てけって意味だよね。

「酷いわっ、私にはドレスが、新しいドレスが必要なのにっ。ガーデンパーティーですのよっ」

「今あるドレスで何とかしなさい」

 キャサリンを引きずる生物学上の父親。

「酷いっ、酷いわっ、一度袖を通したドレスでパーティーに出ろって仰るのっ? 私、私、惨めですわっ、恥ずかしいですわっ」

 こいつの頭どうなってんだろう?
 おさがり文化やレンタルドレスが根付いているこの地で、一度袖を通したら着ないって、悪趣味な成金のすることだよ。ルルディ王国の王室だって、そうなのに。
 まるで悲劇のヒロインのようにわななくキャサリン。

「だったら小物や髪型を変えなさい。同じドレスでもガラッと印象が変わるわ。それをやりこなすのが、貴族女性の嗜みなのよ」

 と、生物学上の母親が諭す。これが正論。

「だったらあのドレスはなにっ? 私の為に仕立ててくださったのでしょうっ」

「あれはウーヴァ公爵令嬢が、ウィンティアに譲って下さると、わざわざお持ちくださったのよ」

「譲る…………」

 キャサリンが沈黙。すると、両親の腕を振り払う。

「まあっ、この私に中古品を譲るなんてっ。私はセーレ商会の広告塔なんですのよっ。誰かが着たような中古品なんて着れる訳がないでしょうっ」

 文句言ってる、しかも意味不明。私、ウィンティアにって聞こえなかったの? 怒りの先は、ウーヴァ公爵令嬢だし、当のアンジェリカ嬢は冷たい目でキャサリンを見下す。いいわけ? そんなことして。
 生物学上の父親が実力行使。キャサリンの腕を掴み、強制退場。

「地下に」

 わあ、とうとう自室軟禁ではなく、地下になったよ。
 ああ、やっと静かになったよ。

「さ、ウィンティア嬢、どれがいいかしら? 私的にはこのピンクがおすすめよ」

 と、なんだか、ショッピングを楽しんでいるような感じで、アンジェリカ嬢が振り返った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 ――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。  子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。  ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。  それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。

処理中です...