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作戦⑧

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 その日の面会は、いつにも増して険悪な雰囲気。私がね。
 でもって、紙面上の婚約者は戸惑いの雰囲気だしてるけど、ふざけるなって感じ。
 気色悪い。本当に気色悪い。
 
「ウィンティア嬢…………」

「名前呼ばないで頂けます? 何時言ったら分かります?」

 ピクピクしている。

「いや、そろそろ…………」

「あ、あ、あぁ?」

 我ながら悪い顔。くっ、ウィンティアは元は可愛いのにっ、私のせいで顔が変形しないよねっ。
 ビクウッとなる大の男が。

「その紙面上の婚約者殿、そろそろ親睦を」

「穢らわしいのでやめてくれます?」

 何をほざいているんだよこの男。さっきまでキャサリンと抱き合ってたくせに。
 ピクピクピクピクしてる。

「なら、せめて、きちんと一時間」

「遅刻してくるのはそっちでしょうが」

 身も蓋もないような言い方をする。
 紙面上の婚約者が長いため息を吐き出す。

「…………それが誰かの嘘だと分かっているのでは?」

「そちらも分かった上でしょう?」

 切り返す。
 分かっていたのは当然か、毎回三十分の遅刻が誰かの差し金だって。

「私はウィンティア嬢に」

「紙面上の婚約者」

 ガリガリッ、と頭をかく紙面上の婚約者。

「時間です。どうぞ、お気をつけて」

 はい、時間切れ。
 私は立ち上がる。嫌だけどお見送り。
 玄関に向かうと、バタバタと騒ぎが。

「レオナルド様ーっ」

 来やがった、ウィンティアにしてみたら、存在自体が迷惑女キャサリンが。

「ひっ」

 …………………………えっ? 聞き違い? 今、ひって。

「お嬢様っ、いけませんっ」

 メイドが止めるが、止まるわけない。
 キャサリンはふりふりのドレスの裾を翻してかけてくる。あ、やるなこりゃ。

「きゃっ」

 わざとらしい。
 キャサリンは裾を踏んで倒れる、そのままウィンティアの紙面上の婚約者に、がっちり抱きつく。多分向こうも咄嗟に支えようとしたのか、手を出したのが悪かった。がっちり抱き合ってる。

「きゃっ、ごめんなさい、私たらっ」

 わざとらしい。
 そのまま離れればいいのに、ゼロ距離でウィンティアの紙面上の婚約者を見上げる。

「レオナルド様、『今日も』お話できて、私とっても嬉しかったですわっ」

 キャサリンの回りな花が咲くようだが、私の内心はブリザードだ。

「『いつも』時間がないからっておっしゃって、私寂しいですわ。『次は』我がローザ伯爵家が誇るお庭でお茶を、レオナルド様とぉ」

 私は背中を向ける。最後までこの茶番劇を見る必要はない。

「ウィンティア嬢っ、待ってくださいっ」

 一応振り返る。私に向かって来ているが、私の前に、ばっと、ナタリアが立ちはだかる。
 思わぬ出現に、向こうは戸惑っている。

「近付かないでもらいます? 穢らわしい。それから名前を呼ばないで頂けます? 腹立たしいので。ナタリア、行きましょう」

 ありったけの嫌悪を込める。
 十二歳の女の子に睨まれて、すくむ大の男。
 ふんっ。
 
「はい。ウィンティアお嬢様」

「まあ、ウィンティアったら、レオナルド様に失礼よ」

 やかましい。
 ぷりぷり、とキャサリンが言うが無視。
 茫然自失の様に立つ紙面上の婚約者も無視。
 私はナタリアと自室に引っ込んだ。
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