57 / 338
作戦⑤
しおりを挟む
「それで、その、キーファー様は三十分程遅れるそうです」
いきなりの遅刻。
しかもそれを伝えて来たのは、キャサリンのメイドだ。メイドはそれだけ言ってそそくさと去っていく。
「お嬢様、どう思いますか?」
「嘘の可能性あるわね。まあ、いいわ、会う時間短くなるし」
本日ヴァレリーは別部隊として動いてもらっている。玄関先で草むしりしているだけだけど。どんな様子か見て、気になるような事を言っていたら、記録してもらうように言ってある。
ナタリア曰く、貴族の家特有の婚約の場合。相手のおうちに行くとき、婚約者には何かしら持って来るんだって。ただ、無収入の学生さんとかなら、親からある程度の予算もらってから、それを遣り繰りして準備する。紙面上の婚約者レオナルド・キーファーはしっかりした社会人だから、自腹のはず。さて、何を持って来るかな。また、萎びた花持って来たら、蹴ってやる。ダメージ入らないだろうけど。
私は昨日図書館で勉強したノートをペラペラ捲る。時間が来るまで、復習しよう。ナタリアが風通しで窓を開けてくれる。
すると、賑やかな声が流れてくる。
「あっ」
小さなナタリアの声。
「どうしたの?」
ナタリアは口を押さえて、私に小さな動作で外を指し示す。
ある予感がしたが、私が覗くと、いたよ、やっぱり。
楽しそうに笑顔を振り撒くキャサリンと、微笑み返す紙面上の婚約者が。庭先で、それは楽しそうに話している。
やっぱりこうなるか。
覚悟はしていたが、やっぱり嫌な気分になる。
私はナタリアの腕を引き、外から見えない位置に。
「お嬢様…………」
「やっぱり仕掛けて来たわね」
私は吐き捨てる。
何も、ウィンティアの部屋から見える位置で会わなくもって思うが、あのキャサリンの事だ、無意識にやってるはず。
それに、今日は私との面会のはずなのに、先に姉の方に会うなんて、常識的にどうなのよ。しかも遅れるなんて、嘘ついて。置き時計を見ると、本来の面会時間だ。
「きゃっ」
「おっと、大丈夫ですか?」
「はいっ、ありがとうございますっ、レオナルド様っ」
わざとらしい会話が続く。
どうやら、躓いたキャサリンを支えたみたいね。本当にイライラする。
私は復習する気にならず、ナタリアのお茶で気持ちを落ち着かせる。
落ち着きながらイライラ。あ、いいこと考えた。
きっかり三十分待ち、ノックがある。
『ウィンティアお嬢様、キーファー様がお見えになっています』
三十分前からね。
私は立ち上がる。
「行きましょう」
「はい、お嬢様」
私はナタリアを伴い、部屋を出る。
「えっ? ウィンティアお嬢様…………」
呼びに来たのは、さっき三十分遅れると告げたメイドだ。私の姿に驚いている。さっきはローザ伯爵が準備した、仕立てのよいワンピースだったが、コクーン修道院から持ってきた褪せた色でくたくたのワンピースになっているからだ。
ぶっちゃけ、このワンピースの方が着やすいんだけどね。
「あのっ、お着替えくださいっ」
「なんで? 遅刻したやつの為に」
ぐ、と詰まるメイド。
私はメイドを無視して、さっさと廊下を歩いた。
いきなりの遅刻。
しかもそれを伝えて来たのは、キャサリンのメイドだ。メイドはそれだけ言ってそそくさと去っていく。
「お嬢様、どう思いますか?」
「嘘の可能性あるわね。まあ、いいわ、会う時間短くなるし」
本日ヴァレリーは別部隊として動いてもらっている。玄関先で草むしりしているだけだけど。どんな様子か見て、気になるような事を言っていたら、記録してもらうように言ってある。
ナタリア曰く、貴族の家特有の婚約の場合。相手のおうちに行くとき、婚約者には何かしら持って来るんだって。ただ、無収入の学生さんとかなら、親からある程度の予算もらってから、それを遣り繰りして準備する。紙面上の婚約者レオナルド・キーファーはしっかりした社会人だから、自腹のはず。さて、何を持って来るかな。また、萎びた花持って来たら、蹴ってやる。ダメージ入らないだろうけど。
私は昨日図書館で勉強したノートをペラペラ捲る。時間が来るまで、復習しよう。ナタリアが風通しで窓を開けてくれる。
すると、賑やかな声が流れてくる。
「あっ」
小さなナタリアの声。
「どうしたの?」
ナタリアは口を押さえて、私に小さな動作で外を指し示す。
ある予感がしたが、私が覗くと、いたよ、やっぱり。
楽しそうに笑顔を振り撒くキャサリンと、微笑み返す紙面上の婚約者が。庭先で、それは楽しそうに話している。
やっぱりこうなるか。
覚悟はしていたが、やっぱり嫌な気分になる。
私はナタリアの腕を引き、外から見えない位置に。
「お嬢様…………」
「やっぱり仕掛けて来たわね」
私は吐き捨てる。
何も、ウィンティアの部屋から見える位置で会わなくもって思うが、あのキャサリンの事だ、無意識にやってるはず。
それに、今日は私との面会のはずなのに、先に姉の方に会うなんて、常識的にどうなのよ。しかも遅れるなんて、嘘ついて。置き時計を見ると、本来の面会時間だ。
「きゃっ」
「おっと、大丈夫ですか?」
「はいっ、ありがとうございますっ、レオナルド様っ」
わざとらしい会話が続く。
どうやら、躓いたキャサリンを支えたみたいね。本当にイライラする。
私は復習する気にならず、ナタリアのお茶で気持ちを落ち着かせる。
落ち着きながらイライラ。あ、いいこと考えた。
きっかり三十分待ち、ノックがある。
『ウィンティアお嬢様、キーファー様がお見えになっています』
三十分前からね。
私は立ち上がる。
「行きましょう」
「はい、お嬢様」
私はナタリアを伴い、部屋を出る。
「えっ? ウィンティアお嬢様…………」
呼びに来たのは、さっき三十分遅れると告げたメイドだ。私の姿に驚いている。さっきはローザ伯爵が準備した、仕立てのよいワンピースだったが、コクーン修道院から持ってきた褪せた色でくたくたのワンピースになっているからだ。
ぶっちゃけ、このワンピースの方が着やすいんだけどね。
「あのっ、お着替えくださいっ」
「なんで? 遅刻したやつの為に」
ぐ、と詰まるメイド。
私はメイドを無視して、さっさと廊下を歩いた。
97
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説


強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは


(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。


かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました
お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる