ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

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作戦③

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「で、実際に二人にして欲しいのは、記録よ」

「「記録?」」

「そう。日々のこう言った積み重ねね。日記形式でもいいし、暗号でもいい」

 ナタリアとヴァレリーは首をかしげる。

「つまりこのお花よ。今日、私宛にむき出しで、送り主不明、しかも萎びていた、という事実だけをね」

「でも、お嬢様、これはキーファー様からのお見舞いでは?」

 ナタリアがパラパラ落ちる花びらを見たがら質問。

「確かに私はそう言ったけど、それを実証できる物証がないわ。つまり、本当かどうか分からないでしょう? そんなの記したそれは偽造になるわ。だから、気持ちを書くのよ」

「「気持ち?」」

「そう。誰がなんでこんな萎びた失礼な花を贈って来たんだろう?ってね」

 マルティンが新たに落ちた花びらで遊んでいる。

「しっかりした日記じゃなくていいの、日々のちょっとしたことをメモとして残して欲しいの。勿論他のこともよ。例えば誰かから注意されたとか、誉められたとか、買い物にいったとかそんなのを残して、日付入れるの忘れないで」

 ヴァレリーが首を傾げる。

「なんでそんな事まで? 必要なんですか?」

「確かに必要なさそうだけど、これはね、積み重ねなのよ。私に関することだけ書いたら、私に指示されてわざと書いたと思われるからね」

 まあ、私がお願いしてるけど。

「私に言われて書きました、じゃあ、証拠にならないからね」

 日々のちょっとした記録が、効果あるって、離婚の番組で言ってたし。ここでそれが通じるか分からないけど、紙面上の婚約者は言った「誠実に」って。だけど、こんな萎びた花をむき出しで贈って来たと私が思ったらどうなる? それこそ「誠実に」の反対でしょ。

「この記録はたまにさぼってもオッケーよ。それから私に関するとしっかりした確証がなければ、報告の必要はないからね」

「え、でも」

 戸惑うナタリア。

「いいのよ。それからもし誰かに口止めされたら、従って、そして記録して」

「誰からの口止めって、記録に残すんですね」

「そうそう、それ。ナタリア、ヴァレリー、お願いできる?」

「「はいっ」」

 よし、強力な味方だ。
 ナタリアは私に近くにいるがヴァレリーはあちこちに入り込める。限定はされるけど、時々各部屋のゴミの回収している。

「ヴァレリー、もし、私の名前がある伝票とかあったら、回収してね。特にウーヴァ公爵やレオナルド・キーファーのは。それ以外はいいからね。あ、あからさまにごそごそしたら、怪しまれるからね。そこは考えてね。そうね、もし綺麗な裏紙があったら、マルティンの落書き用に欲しいって、たまにしてくれる?」

 年頃の男の子には、厳しいかな?

「はいっ、お任せくださいウィンティアお嬢様っ」

 頼もしい。
 私はヴァレリーに、新品のノートと鉛筆を数本渡す。日誌用ね。ナタリアは元々スケジュール的なメモを持ち歩いている。

「ヴァレリーは、分かっていると思うけど、これは内緒だからね」

「はいっ」 

 一応釘を刺す。ヴァレリーは少し誇らしい顔して、マルティンの手を引いて部屋から出ていった。

「ウィンティアお嬢様、不躾で申し訳ないのですが、ここまでするには、何かしらの理由があるんですよね?」

 ナタリアが心配そうだ、

「まるで、レオナルド・キーファー様が、最初から裏切るって」

「そうね。おそらくそうなるわよ」

 私はため息。
 これから先の事は知識としてある。だけど、それを言ってナタリアが理解できるか、だ。
 事例八の被害者であるナタリアとヴァレリーも救わないといけないが、今はこの婚約をどうにかして、あのキャサリンを社会的にどうにかしないと。
 まずはこつこつ証拠を集めないと。

「ねえナタリア。キャサリンをどう思う?」

「えっ? お綺麗だとは思いますが……………正直疲れます」

 ナタリアがため息。本音がちらり。

「キャサリンお嬢様を心酔している使用人は勿論いますが、疲れるって、言う人もいるのも事実です」

 あ、やっぱり。いるんだそんな使用人が。

「なら、常識はあると思う?」

「いいえ」

 きっぱりと首を横に振る。

「なんと言うか、品がないって言うか、マナーの無さを見た目でカバーしているって言うか」

 短期間で接したナタリアでもそう思ったか。

「だけど、ね、ナタリア。男はあんなのがいいって言うのが多いのよ。可愛く着飾って、自分からすり寄って来る方にほいほい行くのよ」

「お、お嬢様って、たまに卓越したようなこと言いますね」

「事実よ」

 今度は私がため息。

「今まで散々奪われてきた身として分かるのよ。絶対にあの男に、キャサリンが手を出すって。貴族の家特有の取り決めとか無視してね。それにあの男が落ちないって保証はない」

 実際に、あの赤い本では、紙面上の婚約者であるレオナルド・キーファーは、ウィンティアを最終的に捨てる。

「そうなったら悔しいじゃない。向こうがギャフンと言うような物を積み上げて、慰謝料がっぽり搾り取ってやるってね」

 に、と笑う。その慰謝料は、ウィンティアの自活の為の資金にして。それからヴァレリーとマルティンをユミル学園に通わせる資金にしないと。

「だから、お願いね、ナタリア。頼りにできるのは、私にはあなた達をしかいないから」

「お嬢様…………お任せくださいっ」

 ふんすっ、てナタリアが返事をしてくれる。
 うん、年相応で可愛い。
 こうして、こつこつ記録作戦が開始した。
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