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作戦②
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「あんたね、お姉ちゃんがどんな思いで私の専属やってると思ってんのっ。いい加減に甘えるんじゃないわよっ」
初めて会ったヴァレリーはすれていた。
私が言う資格ないけどね。
涙ながらに身の上を話してくれたナタリアが、あまりにも報われないと思って取っ組み合い。
当然私は形式上雇い主の娘だけど、焚き付けたのは私。
うわーん、と泣いて走って行ったヴァレリーに、ナタリアを差し向けて、そこでも大騒ぎ。
結果。
ナタリアは溜め込んでいた思いを吐き出したみたい。そして、ヴァレリーもナタリアの思いを汲んでくれたみたい。今では仲良しさん、良き良き。今ではヴァレリーはあちこちお手伝いして、使用人達からも可愛がってもらっている。
取っ組み合いした罰? なんで?って、生物学上の父親に聞き返した。なら、いずれ私の専属フットマンにしてもらった。
あの取っ組みの時だけ、私の部屋で四人で寝たけど、あれからヴァレリーは私の部屋には入らない。微妙な年だしね。
「あら、マルティン、お兄ちゃんだよ」
バラバラと落ちた花びらで遊んでいたマルティンに声をかける。
「ほら、マルティン、いらっしゃい」
ナタリアが優しく誘導している間に、私は扉を開ける。
そこには、ナタリアによく似た少年。ちょっと癖の強い焦げ茶色の髪。
私が出ると思ってなかったのか、びっくりしてる。
「あ、あ、ウィンティア、お嬢様、その、マルティンを迎えに来ました」
ちら、ちら、と私を見て、どもる。
あの取っ組みからこうだ。
どうやら私は狂暴なお嬢様と思われているみたい。
マルティンが花びらを持って、ヴァレリーの元に。
「なんだマルティン、ゴミか?」
「ちがうもんっ、おはな、だよっ」
ぷりぷり。可愛いなあマルティン。
ヴァレリーは飾られた萎びた花を見て首を傾げている。
「なんであの花がウィンティアお嬢様のお部屋に?」
「えっ? ヴァレリー、あの花知ってる?」
私が身を乗り出すように聞くと、思いっきりのけ反るヴァレリー。耳まで赤くして、どんだけ私、狂暴だと思われているんだろう。
「み、見間違えなければ、キャサリンお嬢様のお部屋にありました」
………………………………
このパターン、覚えてる。
確かにゲーム内でも、赤い本の中でもこの様な事があった。
紙面上の婚約者、レオナルド・キーファーからの贈り物を、横取りしていたことを。肝心の宛先であるウィンティアは知らないから、お礼も言えない。それが積み重なり、レオナルドとウィンティアの関係に修繕不能に。
とうとう、始まったか。
「あのウィンティアお嬢様?」
黙ってしまった私に、おずおずとヴァレリーが聞いてくる。
「ああ、ごめん。ねえヴァレリー、あの花いつからあったの?」
「えーっと、先週図書館帰って時にはあったから」
そう。ヴァレリーは今、ローザ伯爵家で見習いの使用人しながら、図書館で私と一緒に勉強する週に二日を設けている。将来のためにね。
で、私はキャサリンに突き飛ばされて、足を負傷してから図書館に行けるようになったのは、つい最近。ヴァレリーと一緒に行ったのは、五日前。
「間違いない?」
「はい。だって、他に飾ってあった花と感じが違うなって思っていたから」
この萎びた花は派手さはないが、かわいらしい花を選んである。
「キャサリンお嬢様の花は、みんな派手で大きいから変だなって思ってて」
「すごい観察眼だよヴァレリー」
よしよし、すると、真っ赤っ赤になってる。いけない年頃の男の子のよしよしはダメよね。ぷるぷるしてるもん。
「じゃあ、五日前からあるって事ですよね? でもなぜ、キャサリンお嬢様のお部屋に?」
ナタリアが首を傾げる。
そうだよね、そうなるよね。でも、私には心当たりがある。
「おそらく、これは元々私宛の花だったのを、キャサリンが横取りしたのよ。送り主は多分、紙面上の婚約者。お見舞いの花よ」
「なら、初めからウィンティアお嬢様に渡すはずです」
「ナタリア、これがあいつのやり方よ」
私はため息。ゲーム内でも、赤い本の中でもそうだった。
「私の存在を適当にしか考えてないし、自分は跡取りだから許されるって思っているはず。でも捨てるように言われたメイドが、流石に一度は私に渡さないと行けないから、捨てる直前だけど持ってきたんでしょうよ」
「そんなっ、あんまりです」
「普通、ナタリアみいな反応するだろうけど、あいつには、そんな思考はないわ。これだって、わざわざ渡して上げたって思っているはずよ」
私は思い出す。キャサリン操作して、ムカムカイライラしたもん。
「だけど、やられっぱなしは嫌ね。いつかがつんとやり返したいから、ナタリア、ヴァレリー、協力してくれる?」
「「はいっ」」
私は婚約解消のために、強い味方を得る事ができた。
これはおそらくお見舞いの花。あの紙面上の婚約者からだろうけど、義理とは言え、綺麗な時にもらったたら、嬉しかったかも。ただ、向こうは紙面上は婚約者だから、義務として贈ったんだよね。
初めて会ったヴァレリーはすれていた。
私が言う資格ないけどね。
涙ながらに身の上を話してくれたナタリアが、あまりにも報われないと思って取っ組み合い。
当然私は形式上雇い主の娘だけど、焚き付けたのは私。
うわーん、と泣いて走って行ったヴァレリーに、ナタリアを差し向けて、そこでも大騒ぎ。
結果。
ナタリアは溜め込んでいた思いを吐き出したみたい。そして、ヴァレリーもナタリアの思いを汲んでくれたみたい。今では仲良しさん、良き良き。今ではヴァレリーはあちこちお手伝いして、使用人達からも可愛がってもらっている。
取っ組み合いした罰? なんで?って、生物学上の父親に聞き返した。なら、いずれ私の専属フットマンにしてもらった。
あの取っ組みの時だけ、私の部屋で四人で寝たけど、あれからヴァレリーは私の部屋には入らない。微妙な年だしね。
「あら、マルティン、お兄ちゃんだよ」
バラバラと落ちた花びらで遊んでいたマルティンに声をかける。
「ほら、マルティン、いらっしゃい」
ナタリアが優しく誘導している間に、私は扉を開ける。
そこには、ナタリアによく似た少年。ちょっと癖の強い焦げ茶色の髪。
私が出ると思ってなかったのか、びっくりしてる。
「あ、あ、ウィンティア、お嬢様、その、マルティンを迎えに来ました」
ちら、ちら、と私を見て、どもる。
あの取っ組みからこうだ。
どうやら私は狂暴なお嬢様と思われているみたい。
マルティンが花びらを持って、ヴァレリーの元に。
「なんだマルティン、ゴミか?」
「ちがうもんっ、おはな、だよっ」
ぷりぷり。可愛いなあマルティン。
ヴァレリーは飾られた萎びた花を見て首を傾げている。
「なんであの花がウィンティアお嬢様のお部屋に?」
「えっ? ヴァレリー、あの花知ってる?」
私が身を乗り出すように聞くと、思いっきりのけ反るヴァレリー。耳まで赤くして、どんだけ私、狂暴だと思われているんだろう。
「み、見間違えなければ、キャサリンお嬢様のお部屋にありました」
………………………………
このパターン、覚えてる。
確かにゲーム内でも、赤い本の中でもこの様な事があった。
紙面上の婚約者、レオナルド・キーファーからの贈り物を、横取りしていたことを。肝心の宛先であるウィンティアは知らないから、お礼も言えない。それが積み重なり、レオナルドとウィンティアの関係に修繕不能に。
とうとう、始まったか。
「あのウィンティアお嬢様?」
黙ってしまった私に、おずおずとヴァレリーが聞いてくる。
「ああ、ごめん。ねえヴァレリー、あの花いつからあったの?」
「えーっと、先週図書館帰って時にはあったから」
そう。ヴァレリーは今、ローザ伯爵家で見習いの使用人しながら、図書館で私と一緒に勉強する週に二日を設けている。将来のためにね。
で、私はキャサリンに突き飛ばされて、足を負傷してから図書館に行けるようになったのは、つい最近。ヴァレリーと一緒に行ったのは、五日前。
「間違いない?」
「はい。だって、他に飾ってあった花と感じが違うなって思っていたから」
この萎びた花は派手さはないが、かわいらしい花を選んである。
「キャサリンお嬢様の花は、みんな派手で大きいから変だなって思ってて」
「すごい観察眼だよヴァレリー」
よしよし、すると、真っ赤っ赤になってる。いけない年頃の男の子のよしよしはダメよね。ぷるぷるしてるもん。
「じゃあ、五日前からあるって事ですよね? でもなぜ、キャサリンお嬢様のお部屋に?」
ナタリアが首を傾げる。
そうだよね、そうなるよね。でも、私には心当たりがある。
「おそらく、これは元々私宛の花だったのを、キャサリンが横取りしたのよ。送り主は多分、紙面上の婚約者。お見舞いの花よ」
「なら、初めからウィンティアお嬢様に渡すはずです」
「ナタリア、これがあいつのやり方よ」
私はため息。ゲーム内でも、赤い本の中でもそうだった。
「私の存在を適当にしか考えてないし、自分は跡取りだから許されるって思っているはず。でも捨てるように言われたメイドが、流石に一度は私に渡さないと行けないから、捨てる直前だけど持ってきたんでしょうよ」
「そんなっ、あんまりです」
「普通、ナタリアみいな反応するだろうけど、あいつには、そんな思考はないわ。これだって、わざわざ渡して上げたって思っているはずよ」
私は思い出す。キャサリン操作して、ムカムカイライラしたもん。
「だけど、やられっぱなしは嫌ね。いつかがつんとやり返したいから、ナタリア、ヴァレリー、協力してくれる?」
「「はいっ」」
私は婚約解消のために、強い味方を得る事ができた。
これはおそらくお見舞いの花。あの紙面上の婚約者からだろうけど、義理とは言え、綺麗な時にもらったたら、嬉しかったかも。ただ、向こうは紙面上は婚約者だから、義務として贈ったんだよね。
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