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作戦①
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ウーヴァ公爵家と紙面上の婚約者との初顔合わせから数日後。
すっかり足がよくなった私の部屋に花が届いた。
萎びかけてるけどねっ。
持ってきたナタリアもびっくりしていた。
「おはな、げんきないー」
可愛い声で私の第一感想を代弁してくれたのは三歳のマルティン。ナタリアの下の弟だ。色々あって、私の部屋に遊びに来る。たまにだけどね。他の人は一応ダメな顔した。男の子だからね。でも三歳だよ。追っ払いました。
「これ、今日来たの?」
「いえ、それが」
受け取ってきたナタリアもびっくり。
「よく分からなくて、いきなり、ウィンティアお嬢様宛だと、むき出しで」
そう、ナタリアが受け取った時はむき出し状態。普通切り花って、綺麗は包装紙に包んで、リボン飾ってさ。むき出しって、あり得なくない? 花瓶に飾ってみたけど、弾みで花びらがバラバラと幾つも落ちる。
コンコン
『ヴァレリーです。マルティンを迎えに来ました』
ヴァレリー、ナタリアのもう一人の弟。この子が、例のヴァレリーだ。ナタリアと共に被害者の名前に連ねていた。やっぱり姉弟だった。今年十歳になるヴァレリーは年の割には大人びている、今はね。色々あった時に、私と取っ組みいしてから、急に大人びてきた。
ナタリア・サーデク、ヴァレリー・サーデク。
この二人もまだ幼いのに、かなり苦労してローザ伯爵家にいる。
そして、マルティンの父親。キリール・サーデクが酒場で暴れた末に頭を打って死亡してから、ナタリア達は坂道を転がるように落ちていった。
サーデク家は子爵家。父親は王城の警備騎士として長年勤めていた。ナタリアの話を聞くだけでも、真面目で、とても子煩悩で優しいお父さん。そんな騒ぎを起こすような人には思えなかった。
ナタリア達姉弟は全部で四人。その最後の一人が私と同い年の妹、アデリーナ。アデリーナ・サーデク。現在は母親の性を名乗り、アデリーナ・グラーフ。
そう、事例八のアデリーナ・グラーフだ。
思わぬ偶然だけど、ここで疑問。
なぜ、アデリーナだけ、母親の性ってね。
父親の事件の後、もしかしたら、母親が耐えきれず後追いとか思ったが違った。
なんと母親は葬儀が終わったその日に、アデリーナだけを連れてサーデク家の籍を抜いた。そして実家のグラーフ伯爵家に。
「あなたたちまで面倒見きれない」
って。せめて当時まだ二歳のマルティンだけでも連れてってお願いしたそうだけど、ナタリアの手を扇で叩いて馬車で行ったそうだ。
「母は、自分にそっくりなアデリーナばかり可愛いがってて。その分父が、私達を愛してくれていました」
そう語ったナタリアは寂しそうで。
ナタリアはほぼ無一文で弟二人を抱えて、父親の知り合いの家に身を寄せた。キリール・サーデクは一人っ子で、頼る親戚も遠方過ぎて、名前をぼんやりとしか知らないので、どうしようもなかった。
「母のグラーフ伯爵は叔父様達には可愛がってくれました。でも、父の事があった半年前に馬車の事故で亡くなってしまって」
そのグラーフ伯爵の当主、ナタリアのお祖父様にお手紙書いたけど、無下に引き取りを拒否されたそうだ。
いつまでも、その父親の知り合いに頼れないと、働き口を探した。父親の事件で、通っていたユミル学園を中退して。ナタリアはまだ十五歳。ユミル学園の中退はないわけではない。それはおうちの事情で、他所の国に引っ越しとか、女性の場合は結婚が早まったとかね。ナタリアの事情は違う。中等部を卒業も出来ないまま、中退を選び、働くことを選んだ。
この中退って言うのが痛い、そして、父親の事、幼い弟二人を抱えてなんて、就職口があるわけない。
結局採用されたのが、ローザ伯爵家の私専属メイドだった。
ナタリアは必死に前を向いたけど、ヴァレリーは違う。大好きな父親は酒場で暴れて死亡、母親からは捨てられて、幼いヴァレリーはすれにすれてしまった。
すっかり足がよくなった私の部屋に花が届いた。
萎びかけてるけどねっ。
持ってきたナタリアもびっくりしていた。
「おはな、げんきないー」
可愛い声で私の第一感想を代弁してくれたのは三歳のマルティン。ナタリアの下の弟だ。色々あって、私の部屋に遊びに来る。たまにだけどね。他の人は一応ダメな顔した。男の子だからね。でも三歳だよ。追っ払いました。
「これ、今日来たの?」
「いえ、それが」
受け取ってきたナタリアもびっくり。
「よく分からなくて、いきなり、ウィンティアお嬢様宛だと、むき出しで」
そう、ナタリアが受け取った時はむき出し状態。普通切り花って、綺麗は包装紙に包んで、リボン飾ってさ。むき出しって、あり得なくない? 花瓶に飾ってみたけど、弾みで花びらがバラバラと幾つも落ちる。
コンコン
『ヴァレリーです。マルティンを迎えに来ました』
ヴァレリー、ナタリアのもう一人の弟。この子が、例のヴァレリーだ。ナタリアと共に被害者の名前に連ねていた。やっぱり姉弟だった。今年十歳になるヴァレリーは年の割には大人びている、今はね。色々あった時に、私と取っ組みいしてから、急に大人びてきた。
ナタリア・サーデク、ヴァレリー・サーデク。
この二人もまだ幼いのに、かなり苦労してローザ伯爵家にいる。
そして、マルティンの父親。キリール・サーデクが酒場で暴れた末に頭を打って死亡してから、ナタリア達は坂道を転がるように落ちていった。
サーデク家は子爵家。父親は王城の警備騎士として長年勤めていた。ナタリアの話を聞くだけでも、真面目で、とても子煩悩で優しいお父さん。そんな騒ぎを起こすような人には思えなかった。
ナタリア達姉弟は全部で四人。その最後の一人が私と同い年の妹、アデリーナ。アデリーナ・サーデク。現在は母親の性を名乗り、アデリーナ・グラーフ。
そう、事例八のアデリーナ・グラーフだ。
思わぬ偶然だけど、ここで疑問。
なぜ、アデリーナだけ、母親の性ってね。
父親の事件の後、もしかしたら、母親が耐えきれず後追いとか思ったが違った。
なんと母親は葬儀が終わったその日に、アデリーナだけを連れてサーデク家の籍を抜いた。そして実家のグラーフ伯爵家に。
「あなたたちまで面倒見きれない」
って。せめて当時まだ二歳のマルティンだけでも連れてってお願いしたそうだけど、ナタリアの手を扇で叩いて馬車で行ったそうだ。
「母は、自分にそっくりなアデリーナばかり可愛いがってて。その分父が、私達を愛してくれていました」
そう語ったナタリアは寂しそうで。
ナタリアはほぼ無一文で弟二人を抱えて、父親の知り合いの家に身を寄せた。キリール・サーデクは一人っ子で、頼る親戚も遠方過ぎて、名前をぼんやりとしか知らないので、どうしようもなかった。
「母のグラーフ伯爵は叔父様達には可愛がってくれました。でも、父の事があった半年前に馬車の事故で亡くなってしまって」
そのグラーフ伯爵の当主、ナタリアのお祖父様にお手紙書いたけど、無下に引き取りを拒否されたそうだ。
いつまでも、その父親の知り合いに頼れないと、働き口を探した。父親の事件で、通っていたユミル学園を中退して。ナタリアはまだ十五歳。ユミル学園の中退はないわけではない。それはおうちの事情で、他所の国に引っ越しとか、女性の場合は結婚が早まったとかね。ナタリアの事情は違う。中等部を卒業も出来ないまま、中退を選び、働くことを選んだ。
この中退って言うのが痛い、そして、父親の事、幼い弟二人を抱えてなんて、就職口があるわけない。
結局採用されたのが、ローザ伯爵家の私専属メイドだった。
ナタリアは必死に前を向いたけど、ヴァレリーは違う。大好きな父親は酒場で暴れて死亡、母親からは捨てられて、幼いヴァレリーはすれにすれてしまった。
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