ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
上 下
53 / 338

作戦①

しおりを挟む
 ウーヴァ公爵家と紙面上の婚約者との初顔合わせから数日後。
 すっかり足がよくなった私の部屋に花が届いた。
 萎びかけてるけどねっ。
 持ってきたナタリアもびっくりしていた。

「おはな、げんきないー」

 可愛い声で私の第一感想を代弁してくれたのは三歳のマルティン。ナタリアの下の弟だ。色々あって、私の部屋に遊びに来る。たまにだけどね。他の人は一応ダメな顔した。男の子だからね。でも三歳だよ。追っ払いました。

「これ、今日来たの?」

「いえ、それが」

 受け取ってきたナタリアもびっくり。

「よく分からなくて、いきなり、ウィンティアお嬢様宛だと、むき出しで」

 そう、ナタリアが受け取った時はむき出し状態。普通切り花って、綺麗は包装紙に包んで、リボン飾ってさ。むき出しって、あり得なくない? 花瓶に飾ってみたけど、弾みで花びらがバラバラと幾つも落ちる。

 コンコン

『ヴァレリーです。マルティンを迎えに来ました』

 ヴァレリー、ナタリアのもう一人の弟。この子が、例のヴァレリーだ。ナタリアと共に被害者の名前に連ねていた。やっぱり姉弟だった。今年十歳になるヴァレリーは年の割には大人びている、今はね。色々あった時に、私と取っ組みいしてから、急に大人びてきた。

 ナタリア・サーデク、ヴァレリー・サーデク。
 この二人もまだ幼いのに、かなり苦労してローザ伯爵家にいる。
 そして、マルティンの父親。キリール・サーデクが酒場で暴れた末に頭を打って死亡してから、ナタリア達は坂道を転がるように落ちていった。
 サーデク家は子爵家。父親は王城の警備騎士として長年勤めていた。ナタリアの話を聞くだけでも、真面目で、とても子煩悩で優しいお父さん。そんな騒ぎを起こすような人には思えなかった。
 ナタリア達姉弟は全部で四人。その最後の一人が私と同い年の妹、アデリーナ。アデリーナ・サーデク。現在は母親の性を名乗り、アデリーナ・グラーフ。
 そう、事例八のアデリーナ・グラーフだ。
 思わぬ偶然だけど、ここで疑問。
 なぜ、アデリーナだけ、母親の性ってね。
 父親の事件の後、もしかしたら、母親が耐えきれず後追いとか思ったが違った。
 なんと母親は葬儀が終わったその日に、アデリーナだけを連れてサーデク家の籍を抜いた。そして実家のグラーフ伯爵家に。

「あなたたちまで面倒見きれない」

 って。せめて当時まだ二歳のマルティンだけでも連れてってお願いしたそうだけど、ナタリアの手を扇で叩いて馬車で行ったそうだ。

「母は、自分にそっくりなアデリーナばかり可愛いがってて。その分父が、私達を愛してくれていました」

 そう語ったナタリアは寂しそうで。
 ナタリアはほぼ無一文で弟二人を抱えて、父親の知り合いの家に身を寄せた。キリール・サーデクは一人っ子で、頼る親戚も遠方過ぎて、名前をぼんやりとしか知らないので、どうしようもなかった。

「母のグラーフ伯爵は叔父様達には可愛がってくれました。でも、父の事があった半年前に馬車の事故で亡くなってしまって」

 そのグラーフ伯爵の当主、ナタリアのお祖父様にお手紙書いたけど、無下に引き取りを拒否されたそうだ。
 いつまでも、その父親の知り合いに頼れないと、働き口を探した。父親の事件で、通っていたユミル学園を中退して。ナタリアはまだ十五歳。ユミル学園の中退はないわけではない。それはおうちの事情で、他所の国に引っ越しとか、女性の場合は結婚が早まったとかね。ナタリアの事情は違う。中等部を卒業も出来ないまま、中退を選び、働くことを選んだ。
 この中退って言うのが痛い、そして、父親の事、幼い弟二人を抱えてなんて、就職口があるわけない。
 結局採用されたのが、ローザ伯爵家の私専属メイドだった。
 ナタリアは必死に前を向いたけど、ヴァレリーは違う。大好きな父親は酒場で暴れて死亡、母親からは捨てられて、幼いヴァレリーはすれにすれてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

処理中です...