上 下
50 / 338

婚約者と被害者⑧

しおりを挟む
 あの後、結局沈黙が続いた。
 紙面上の婚約者が、私との婚約の経緯を説明するって言ったけど。

「結構です。もう知りたくありません」

 バサバサバッサリ。
 とりつく島を与えない様にした。
 だいたい、私が手紙を読んでないのを、知らないで来た事がおかしいんだよ。ローザ伯爵から連絡行ってないの? それにそっちが今まで手紙を送って返事がないの、不信に思わなかったわけ?
 あー、と項垂れる紙面上の婚約者。
 
「ウィンティア嬢」

「紙面上の婚約者様。名前を呼ぶのはお止めください」

「いや、しかし、ほら、もう知り合いですし」

「名前しか知らないのは、知り合いとは言いません」

 我ながら嫌な言い方。
 でも、どうにかして、この婚約を解消したい。ウィンティアを道具の様に扱うのはなら、なんとかしないと。

「私は、貴女にこれだけ嫌われる何かをしましたか? 貴女には誠実でありたいと思っています」

 だってさ。
 私は鼻で嗤いそうになる。
 結局、こいつは、最後はウィンティアを捨てるんだ。なら、最初からそうならなければいい。向こうにまだウィンティアに利用価値があるのなら、その利用価値をどうにかして放棄しなくては。まだ、ウィンティアが子供だから手段はないかもしれないが、準備を怠らないようにしないと。
 まずは、スムーズに解消出来るように、紙面上の婚約者との関係をすれさせよう。

「誠実ねぇ」

 ウーヴァ公爵に言われての婚約でしょうに。
 
「私にまだ利用価値があるからではないですか?」

 貴族の婚約なんてそんなもんだしね。個人の意見は無視。互いに理解して寄り添っていくもんらしいけど。理解もなにも、向こうはその利用価値の説明もしないと来たもんだ。なら、こっちから歩み寄る必要はない。
 ウーヴァ公爵家の提案受けなくて良かった。
 本当に、ウィンティアにティーナ夫人が何かしらの権利を遺していて、それ目当てなら、それを紙面上の婚約者を通して奪えば、要済みとなったウィンティアはゴミの様に捨てられる。
 紙面上の婚約者はため息。

「その様な事はないとは言えませんが、私はこの婚約には」

「あ、結構です。知りたくないです」

 バサバサバッサリ。

「どうせ、その内、利用価値がなくなれば、ゴミの様に捨てるんでしょう」

 紙面上の婚約者の顔が、一気に険しくなる。
 あ、ちょっと怖いけど、引けない。
 すんっ、て顔のまま。

「誰がその様な事を?」

「少し考えたら分かること。私を公爵家が後見している人物を使ってまでも、繋ぎたいのであれば、ね」

 咄嗟のはったり。
 これが効果覿面だったのが、紙面上の婚約者は撃沈する。
 撃沈したところで、ウーヴァ公爵家の帰宅となる。
 一応お見送りしますかね。
 仕事しているはずの紙面上の婚約者、ウーヴァ公爵家の人達もあれだけど、予定を合わせて来たはずだしね。最低限の礼儀かな? これ以上ウィンティアの評価は下がらないだろうけど。

 玄関に向かうと、華やかに話す一堂が。
 やっぱり貴族なんだなあ。おほほ、みたいに話してる。私には入れないや。
 私の姿を見て、生物学上の母親がやって来た。

「ウィンティア、先程のあれ、謝罪しなさい」 

「はぁ? 何で?」

 向かうから聞いたんじゃないの? 聞いたくせにまともに返さなかったのに。

「いいからっ」

 とりあえず謝れってか? 嫌、絶対嫌。
 そう言えば、働いていた職場の上の人が、下の人のやらかした事で平謝りしていた。何でって思ったけど、責任者って大変だなー、って思った。それと大人の世界だなー、って。でも、私は精神年齢二十歳だけど、大人とは言えない。胸を張るような事ではないが、成熟してないのは確かだ。
 押し出されて、私はウーヴァ公爵夫人の前に、はぁ。

「ウーヴァ公爵夫人」

 声をかけるのは、談笑していた生物学上の父親。私に目配せする。仕方ない、一歩前に。ちらり、とまるで試すように見てくる。
 一息ついて、と。

「ウーヴァ公爵夫人。先程の態度、私は謝るつもりはありません」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

「だから結婚は君としただろう?」

イチイ アキラ
恋愛
ホンス伯爵家にはプリシラとリリアラという二人の娘がいた。 黒髪に茶色の瞳の地味なプリシラと、金髪で明るい色彩なリリアラ。両親は妹のリリアラを贔屓していた。 救いは、祖父母伯爵は孫をどちらも愛していたこと。大事にしていた…のに。 プリシラは幼い頃より互いに慕い合うアンドリューと結婚し、ホンス伯爵家を継ぐことになっていた。 それを。 あと一ヶ月後には結婚式を行うことになっていたある夜。 アンドリューの寝台に一糸まとわぬリリアラの姿があった。リリアラは、彼女も慕っていたアンドリューとプリシラが結婚するのが気に入らなかったのだ。自分は格下の子爵家に嫁がねばならないのに、姉は美しいアンドリューと結婚して伯爵家も手に入れるだなんて。 …そうして。リリアラは見事に伯爵家もアンドリューも手に入れた。 けれどアンドリューは改めての初夜の夜に告げる。 「君を愛することはない」 と。 わがまま妹に寝取られた物語ですが、寝取られた男性がそのまま流されないお話。そんなことしたら幸せになれるはずがないお話。

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

朝山みどり
恋愛
執務室で凍え死んだわたしは、婚約解消された日に戻っていた。 悔しく惨めな記憶・・・二度目は利用されない。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

処理中です...