上 下
49 / 338

婚約者と被害者⑦

しおりを挟む
 ウィンティア・ローザとレオナルド・キーファーの婚約の経緯。
 調べる手段が無かったわけではない。
 ウィンティアがコクーン修道院にいた時に、ローザ伯爵家から手紙や小包が来ていたから、その中に説明する内容もあったはず。コクーン修道院は、受けとる側の知り合いでなければ、突き返される。この婚約は、ウィンティアが二度目の保護が行われた後で結ばれた。つまり、それを知らないウィンティアにしては、ウーヴァ公爵家もレオナルド・キーファーも赤の他人。届くことはなく、突き返されたはず。なので、ローザ伯爵家の配達物と一緒に送ったが、特にウィンティアの様に危害を加えた側からの配達物は、絶対に直接渡さず、まず、来たことを伝える。それからそれをどうするかは受けとる側の判断に委ねられる。中には見ずに焼却処理をしたり、修道院側に中身を確認してもらってから、と言う人もいる。
 ウィンティアの場合は、その内どうするか考えるって事で、部屋の木箱の中に貯まっていった。結局、ウィンティアが開封することはなかった。
 今は、その木箱は一旦生物学上の父親にすべて返却したが、最近帰って来た。
 あの配達物の中に、ウーヴァ公爵家や紙面上の婚約者からの手紙があるらしいので、確認だけするように、と。
 だけど、私は開けてない。
 何度も内側に籠ったウィンティアと交信したが、やっと返事が来た。「いいえ」だ。
 確かに、元々ウィンティアへの配達物だ、私が開けちゃダメよね。なので、開けてない。なので、知りません。
 
「ほ、本当に、何も?」

 確認してくる。

「ええ、知りません」

 私は座ったままに近くのメイドに告げる。

「私の部屋から木箱持ってきて。ああ、私の私物に触らないでね」

 このメイドは、ジョアンナ夫人が誕生日にくれた青いウサギのぬいぐるみを、抵抗するウィンティアから奪った。しかも泣いてすがるウィンティアを突き飛ばして。
 触ってほしくないのは、全部あのトランクに隠している。あのトランクの鍵はちょっと特殊で、きちんと手段を踏まないと開かない仕組み。なのでぶーちゃんと、青いウサギ、うーちゃんはトランクに避難している。
 メイドは、びくり、と震えてそそくさと頭を下げて去っていく。
 しばらくして、男性使用人と共に木箱を持ってきた。ちらっと、心配そうなナタリアが見えた。私の部屋の鍵はナタリアしか持ってないからね。

「どうぞ、ご確認ください」

 私は座ったまま、どうぞ。
 紙面上の婚約者は、そっと蓋を開けると、目を見開く。
 みっちり四年分だ。
 結構な量になっている。
 未開封の手紙を見て、紙面上の婚約者が私を振り返る。

「なぜ、開けて………」

「はぁ?」

 私の口から、まるで不良の様なドスの効いた声が出る。
 なんで、開けないといけないわけ? ウィンティアが、わずか八歳のウィンティアが心を壊しかけるような事をした、ローザ伯爵家からの手紙なんて。
 私は前髪をかきあげる。
 そう、右眉の上にはっきり残る傷。

「この様な仕打ちをした、ローザ伯爵家からの手紙を、何故私が読まねばならないのですか?」

 効いたみたい、紙面上の婚約者は沈黙した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 ――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。  子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。  ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。  それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。

私を追い出すのはいいですけど、この家の薬作ったの全部私ですよ?

火野村志紀
恋愛
【現在書籍板1~3巻発売中】 貧乏男爵家の娘に生まれたレイフェルは、自作の薬を売ることでどうにか家計を支えていた。 妹を溺愛してばかりの両親と、我慢や勉強が嫌いな妹のために苦労を重ねていた彼女にも春かやって来る。 薬師としての腕を認められ、レオル伯アーロンの婚約者になったのだ。 アーロンのため、幸せな将来のため彼が経営する薬屋の仕事を毎日頑張っていたレイフェルだったが、「仕事ばかりの冷たい女」と屋敷の使用人からは冷遇されていた。 さらにアーロンからも一方的に婚約破棄を言い渡され、なんと妹が新しい婚約者になった。 実家からも逃げ出し、孤独の身となったレイフェルだったが……

処理中です...