上 下
39 / 338

伯爵家での生活⑧

しおりを挟む
 吐くってきつい。
 結局、ローザ伯爵家でウィンティアが口にできて、問題ないのは、ナタリアのお茶だけだった。食事はナタリアが配膳してが、ダメだった。
 このままなら、ウィンティアの体をもたない。
 試しにマルカさんと近くの出店が並んでいるマルシェに行った。そこでパニーニみたいなのを買って、公園で食べたら問題はなかった。私も心底安心。
 それから食事は毎日このマルシェで買って食べる事にした。
 あれからもキャサリンはきゃんきゃんうるさい。無視無視。やっぱりノックもなくやって来た。メイドが止めてるのにね。ナタリアとマルカさんがいない時に狙って来た。

「いけませんっ、キャサリンお嬢様っ」

「いいじゃない、姉妹なんだし、ねっ」

 何が、ねっ。
 私はガン無視。
 本当に失礼なやつだね。親しき仲にも礼儀ありって、言葉、知らないんだね。私が無反応なのに、勝手に部屋を漁ってる。ここ、ウィンティアの部屋よ。姉妹とはいえ、失礼過ぎよこいつ。みどりお姉ちゃんなら絶対しない、こんなの見たら、しかりつけるよ。

「このジュエリーボックス、シンプルだけど、いい色ねっ」

 勝手に机のジュエリーボックス触ってる。
 やっぱりこいつ、頭打ってるよ。人の勝手に触ってる。きっと、どっか鋭い角で打ってるよ。
 私はガン無視。
 結局、ジュエリーボックスを触ってると、金切り声を上げた生物学上の母親がキャサリンを回収したが、後から後からむかっ腹が立った。
 ウィンティアのもやがかかった記憶が呼び起こされる。
 
 ぬいぐるみや靴、帽子に、キャサリンにしてはサイズアウトしているドレス、何から何まで取り上げた。出された食事さえ、黙って食べられない状況だった。やれ、あっちが綺麗だとか、肉が大きいだとかだ、飾られた花が綺麗だとか。
 それも口に要求するだけで、取り上げるのは全部メイドの役割と来たもんだ。
 言えば何とかしてくれるって、潜在的に理解していたはずだ。

 二十歳の私には、ああ、うるさいだけど、当時の幼いウィンティアに自衛手段はなく、泣いて抵抗しても無駄に終わっていた。
 また、やる気だよあいつ。
 私はジュエリーボックスを持ち、追いかける。
 廊下でキャサリンを叱っている所だった。

「キャサリンッ、いい加減にしなさいっ。勝手に人の部屋に入るのがどれだけ失礼か分からないのっ」

 やっぱりこっちでもマナー違反なんだ。
 側で縮こまっているのは、止めていたメイドだ。キャサリンは、きょとん、としている。いや、叱られてるのあんたよ。

「あら、姉が妹の部屋にいただけですわ」

 まったく悪びれることはない。

「……………部屋に入る許可はあったの?」

「許可? 何故? 妹の部屋に入るのに?」

 最近まで妹はいないって言って、私の存在すら知らなかった癖に。
 そこそこの歳になったら、部屋に入るなから声かけるくらいの気遣いしない? それにジュエリーボックス勝手に触っていた、あれは以前なら、メイドに奪ってこいの合図だった。忘れたの? つい、四年前くらいの話よ。キャサリンは既に十歳を過ぎていた。あれだけ派手にわがまま言ってたくせに覚えてないの? あ、あの時からこんなんだった気がする。
 こいつ大事な礼儀の根本が分かってないんだ。

「まだ、姉妹との関係も築いてないのに?」

 おや、正論。
 ため息をつく生物学上の母親。
 だが、記憶に鮮やかにあるのは、あの感謝祭で、ウィンティアからたった一つのお菓子の為に、扇で叩いたくせに。

「あら、ウィンティア、どうしたの?」

 こちらの存在に気が付いたようで、ちょっとおどおど。あ、いま、思い出した、あの縮こまっているメイドは、ウィンティアからキャサリンが望むままに奪っていったメイドだ。頂いた小さなクッキーですら奪っていった。
 私がちらりと見ると、更に縮こまっている。
 ふんっ、散々小さなウィンティアを泣かせたくせに。
 私はもっていたジュエリーボックスを振りかざす。

 ガシャンッ

 そのまま一気に床に叩きつける。
 ジュエリーボックスの細い足が折れて、転がっていく。
 このジュエリーボックスに罪はないけど、分かっているけど、きっとまた奪われる。なら、そうなる前に。

「まあっ、ウィンティアッ、ものに当たるなんてはしたないわよっ」

「お前が言うな」

 散々やらかして来てるのを知らないとでも? 私も知ってるのに、当人が覚えてないなんて、どんな頭してるの本当に。どこの角に頭打ったの。

「まあっ、お母様っ、この子っ」

 怖いっ、て顔で、母親にしがみつく。

「黙りなさいキャサリン。ウィンティア、どうしたの?  何故?」

「くれてやるわよ、こいつが勝手に部屋に入って奪って行く前に」

 ふんっ。
 縮こまっていたメイドは更に小さくなってる。
 生物学上母親は目を見開き、固まっている。ふんっ。
 私はふんっ、と背中を向けて、部屋に戻った。
 キャサリンがきゃんきゃん煩いから、しっかりドアを閉めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

【完結】なぜ、お前じゃなくて義妹なんだ!と言われたので

yanako
恋愛
なぜ、お前じゃなくて義妹なんだ!と言われたので

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

朝山みどり
恋愛
執務室で凍え死んだわたしは、婚約解消された日に戻っていた。 悔しく惨めな記憶・・・二度目は利用されない。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...