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伯爵家での生活⑥
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『まどか、お水、飲む?』
母の声がする。
熱を出した私のおでこを優しく撫でている。
ああ、お母さん、あのね、一杯言いたいことがあって。
一杯、あるの。一杯。
あのね、お母さん、お母さん、お母さん、お母さん、お母さん………………
目が、瞼が、上がる。
柔らかい日差しが、窓から注ぐ部屋は、ローザ伯爵家がウィンティアの部屋だ。
なんだか、懐かしい夢を見た、頬を触るとしっかり濡れてる。ごしごし。
ベッドサイドのテーブルにメモが。
朝、伺います、ナタリア。
ナタリア。あの収録集事例八の被害者に、彼女の名前があった。昨日、ナタリアは甲斐甲斐しく世話してくれた。ウィンティア専属だからかもしれないが、吐きながらナイフを振りかざした私を抱き締めて止める度量もある。昨日1日接しただけだけど、ナタリアの人柄に触れた気がする。
それに死因が問題だ、刺殺って、誰かに殺害されるんでしょ? 何があってそうなったんだろう? まだ、数年先の話だけど。単に巻き込まれたものか、がっちり介入しているのか分からない。
分からない事だらけだ。
ヒントは昨日のナタリアの言葉。
下の弟が幼いので。
つまり複数の兄弟がいるって事。
その中にヴァレリーって子が、いるかどうかだけど。
うーん、情報が少ない。
まだ、ウィンティアの事をどうにかしないと、同時進行でしないと。出きるかな、私はあまり、頭、よくないし。
考えても仕方ないから、顔でも洗おう。
洗面所があるって便利。なんか色々並んでいるけど分からないので、水でぱしゃぱしゃ洗う。
着替えは、と。私はコクーン修道院から持ってきたトランクを開ける。日用品から服やらぎっしり詰まってる。薄茶のシャツとキュロットを着て、髪を一つに縛る。よし、いいかな。
コンコン
「あ。はい」
『ナタリアでございます』
「どうぞ」
ナタリアが何やらお盆に乗せてやって来た。
「ウィンティアお嬢様、おはようございます」
「おはようナタリア」
ナタリアは着替えていた私にびっくり。
「申し訳ありません、身支度を整えるのは私のお役目なのにっ」
「身支度って、これくらいできるよ、子供じゃあるまいし」
沈黙。
あ、今、十二歳。でも十二歳で身支度自分でやらないのって、どんだけ甘やかしているんだってね。やって貰うとしても、難しい髪型にする時じゃない?
「あ、ほら、私、コクーン修道院いたでしょ。そこで自然にね」
これは嘘ではない。コクーン修道院では、基本身支度は自分でできるようなるのは当たり前。一般家庭ではあまり前だけど、ここは貴族の家。しかも資産のしっかりある伯爵家だ。
伯爵以上の家は、使用人が起こしに来てから起きて、手伝ってもらってから、洗面ならなんやら済ませて、身支度する。ゆったりお茶を飲みながらね。はー、貴族ー。
私みたいに勝手に起きて準備する人ももちろんいるが、それはほとんど男性のみ。女性はこうやって起こしてもらってから、優雅に身支度だ。
私の説明でナタリアは納得してくれけど、ちょっとしゅん、としている。あ、せっかくの朝の仕事を私が自分でやってしまったから、空回り的な? え、どうしよう。
「あ、三つ編みにしてくれる?」
「はいっ」
ぱぁっ、と顔が輝く。
年相応だなあ。
私は優雅にナタリアのお茶を頂きながら、髪を結ってもらう。本当に貴族なんだね。
「ナタリア、弟いるんだね」
「え、ええ」
てきぱき三つ編みしていた手が一瞬止まる。
「まだ小さいんだ」
「え、ええ、そうです」
なんだか、ナタリアの声が動揺している。どうしたんだろう? 鏡の向こうで、表情を固くしたナタリアがいる。無理に聞かない方がいいかも。もう少し、信頼関係を築かないと。
「そっか」
と、話は打ちきりますよ、と言った感じで言葉を出した。
母の声がする。
熱を出した私のおでこを優しく撫でている。
ああ、お母さん、あのね、一杯言いたいことがあって。
一杯、あるの。一杯。
あのね、お母さん、お母さん、お母さん、お母さん、お母さん………………
目が、瞼が、上がる。
柔らかい日差しが、窓から注ぐ部屋は、ローザ伯爵家がウィンティアの部屋だ。
なんだか、懐かしい夢を見た、頬を触るとしっかり濡れてる。ごしごし。
ベッドサイドのテーブルにメモが。
朝、伺います、ナタリア。
ナタリア。あの収録集事例八の被害者に、彼女の名前があった。昨日、ナタリアは甲斐甲斐しく世話してくれた。ウィンティア専属だからかもしれないが、吐きながらナイフを振りかざした私を抱き締めて止める度量もある。昨日1日接しただけだけど、ナタリアの人柄に触れた気がする。
それに死因が問題だ、刺殺って、誰かに殺害されるんでしょ? 何があってそうなったんだろう? まだ、数年先の話だけど。単に巻き込まれたものか、がっちり介入しているのか分からない。
分からない事だらけだ。
ヒントは昨日のナタリアの言葉。
下の弟が幼いので。
つまり複数の兄弟がいるって事。
その中にヴァレリーって子が、いるかどうかだけど。
うーん、情報が少ない。
まだ、ウィンティアの事をどうにかしないと、同時進行でしないと。出きるかな、私はあまり、頭、よくないし。
考えても仕方ないから、顔でも洗おう。
洗面所があるって便利。なんか色々並んでいるけど分からないので、水でぱしゃぱしゃ洗う。
着替えは、と。私はコクーン修道院から持ってきたトランクを開ける。日用品から服やらぎっしり詰まってる。薄茶のシャツとキュロットを着て、髪を一つに縛る。よし、いいかな。
コンコン
「あ。はい」
『ナタリアでございます』
「どうぞ」
ナタリアが何やらお盆に乗せてやって来た。
「ウィンティアお嬢様、おはようございます」
「おはようナタリア」
ナタリアは着替えていた私にびっくり。
「申し訳ありません、身支度を整えるのは私のお役目なのにっ」
「身支度って、これくらいできるよ、子供じゃあるまいし」
沈黙。
あ、今、十二歳。でも十二歳で身支度自分でやらないのって、どんだけ甘やかしているんだってね。やって貰うとしても、難しい髪型にする時じゃない?
「あ、ほら、私、コクーン修道院いたでしょ。そこで自然にね」
これは嘘ではない。コクーン修道院では、基本身支度は自分でできるようなるのは当たり前。一般家庭ではあまり前だけど、ここは貴族の家。しかも資産のしっかりある伯爵家だ。
伯爵以上の家は、使用人が起こしに来てから起きて、手伝ってもらってから、洗面ならなんやら済ませて、身支度する。ゆったりお茶を飲みながらね。はー、貴族ー。
私みたいに勝手に起きて準備する人ももちろんいるが、それはほとんど男性のみ。女性はこうやって起こしてもらってから、優雅に身支度だ。
私の説明でナタリアは納得してくれけど、ちょっとしゅん、としている。あ、せっかくの朝の仕事を私が自分でやってしまったから、空回り的な? え、どうしよう。
「あ、三つ編みにしてくれる?」
「はいっ」
ぱぁっ、と顔が輝く。
年相応だなあ。
私は優雅にナタリアのお茶を頂きながら、髪を結ってもらう。本当に貴族なんだね。
「ナタリア、弟いるんだね」
「え、ええ」
てきぱき三つ編みしていた手が一瞬止まる。
「まだ小さいんだ」
「え、ええ、そうです」
なんだか、ナタリアの声が動揺している。どうしたんだろう? 鏡の向こうで、表情を固くしたナタリアがいる。無理に聞かない方がいいかも。もう少し、信頼関係を築かないと。
「そっか」
と、話は打ちきりますよ、と言った感じで言葉を出した。
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