36 / 338
伯爵家での生活⑤
しおりを挟む
「お嬢様、お風呂の準備が出来ました」
私はナタリアに連れられて部屋に戻っていた。ぼんやりとソファーに座った。
しばらくしてかなりお年の女医さんが来て、色々聞かれたり、お腹を触って確認していった。
ナタリアがお見送りしている。少し丸くなった背中を私も見送る。
やっぱり、靄をかけたくてならない事が、ウィンティアの身の上にあったんだ。
ローザ伯爵家に戻って来たのは、間違いだったか? ウーヴァ公爵家の話を受けていた方が良かったか?
ぐるぐると頭が回る。
あの赤い本には、ウーヴァ公爵家にしては、ウィンティアの価値は、共同特許だけだった。
だが、ウィンティアの祖母が違う動きをしたため、少し流れが変わり始めている。
もしかしたら、ウーヴァ公爵家も違うのかな? 分からない、どうしたらいい?
これから、どうしたらいい? ウィンティアを守れるのかな?
「お嬢様?」
ナタリアが心配そうに声をかけてくる。
ワンピースが汚れたままだ。流石に着替えないと、トランクにパジャマがある。出さないと。口元はいつの間にかナタリアが拭いてくれていた。
まずは、着替えないと、まずは清潔第一だね。
立ち上がろうとすると、再びフラッシュバック。
浴槽に、無理やり沈められるウィンティア。
本当に、このローザ伯爵家、録な連中じゃない。
コクーン修道院では、なんの問題もなく、子供達と大浴場で入っていたはずなのに。
なんで、ここに来た途端に思い出すんだろう。やっぱり、ここに帰って来たのは間違いだったのかな。
「お嬢様」
そっと、私の肩に触れたのは、ナタリアだ。
「さあ、私がお側におります」
すごく優しい声が染み込んでいく。
「お着替えして、ゆっくりお湯に浸かりましょう。コクーン修道院からの移動でお疲れでしょう? さ、今日はもうお休みにしましょう」
不思議。
ウィンティアの身体が、ナタリアの言葉に素直に従う。
ああ、ウィンティアって、とっても素直な子なんだ。
言われるがまま、私はお風呂に。髪くらい自分でするのに、洗ってくれた。微かに花の香りがするシャンプーやコンディショナーで、ウィンティアの髪が輝く。
ふわふわのタオルで拭いてもらい、差し出されたのは、着心地のよさそうなふわふわのパジャマ。コクーン修道院から持ってきたものではない。
「それ、大丈夫?」
ふわふわのパジャマは、ローザ伯爵家が準備したものなら、正直着るのが不安。
私の顔を見て、ナタリアは素早くパジャマを広げて隅々までチェック。
「大丈夫ですっ」
どやっ。
年相応の顔で、どやっ。
一生懸命が、伝わってくる。
………………ナタリアは信じていいかも。ね、ウィンティア。
そこでローザ伯爵家で初めて反応が来た。「うん」だ。
あの赤い本の中で、ナタリアはウィンティアとは関わりはなかった。おそらく、ウィンティアの祖母が動いた結果が、こうやって違う流れになってきているんだ。
ナタリアが甲斐甲斐しく世話をしてくれるのが、心地いい。
髪を丁寧に櫛でとかしてくれる。
ふわあ、とウィンティアの髪が輝く。
「ふふっ、お嬢様の髪って、ミルクティーみたいですね。甘い匂いがしそうです」
えっ?
ドキリ、と内側のウィンティアが反応。
「ミルクティー?」
「はいっ」
腐ったどぶのようだ、何度言われたことか。
何度も何度も言われた。
髪は、ウィンティアのコンプレックスだった。
それなのに。
ナタリアは丁寧にウィンティアの髪に櫛をとおす。
内側に籠ったウィンティアが、反応に困っている様子だけど、いやがってはいない。
髪が整い、ベッドに、と言うときに思い出す。
「服、洗わないと」
汚れたワンピース、そのままだ。洗濯機ないから、手洗いしないと。
「あ、マルカ夫人が調べるから、流さないようにと言われましたのでそのままで大丈夫ですよ」
「調べる?」
「はい」
何を? 理由は次の日にマルカさんから聞くことになる。
ベッドも隅々までナタリアチェックが入る。
「大丈夫ですっ」
どやっ。
私は素直にベッドに潜り込む。やっぱり疲れていたのかもしれない。ウィンティアはまだ十二歳だもんね。休ませよう。
はあ、ふわふわのベッドだ。
ナタリアが優しく布団をかけてくれる。
そして、ぽんぽん、と肩を優しくぽんぽん。
………………………凄く、眠くなって来た。
何、なんだか、凄く小さな子供の扱いじゃない? 凄く慣れてない?
あ、眠気が来た。何、このぽんぽん、魔法? まさか、魔法?
そう言えば。
「ナタリア……………」
あのナタリアと並んだ被害者の名前、ヴァレリーってあった。名字が一緒だし、年齢的に弟の可能性がある。もしかしたら、ヴァレリーってのが弟で、小さな頃にお世話したんじゃないかな? それならこの慣れた感の理由はわかる。
どう行った経緯で被害者の名前に連なったか、分からない。まず、一つ確認。
眠気に耐える。
「はい」
「小さな兄弟でも、いるの?」
「はい。まだしたの弟が、幼いので」
「そう……………」
名前を聞きたいけど、眠気が勝ってしまった。
私はナタリアに連れられて部屋に戻っていた。ぼんやりとソファーに座った。
しばらくしてかなりお年の女医さんが来て、色々聞かれたり、お腹を触って確認していった。
ナタリアがお見送りしている。少し丸くなった背中を私も見送る。
やっぱり、靄をかけたくてならない事が、ウィンティアの身の上にあったんだ。
ローザ伯爵家に戻って来たのは、間違いだったか? ウーヴァ公爵家の話を受けていた方が良かったか?
ぐるぐると頭が回る。
あの赤い本には、ウーヴァ公爵家にしては、ウィンティアの価値は、共同特許だけだった。
だが、ウィンティアの祖母が違う動きをしたため、少し流れが変わり始めている。
もしかしたら、ウーヴァ公爵家も違うのかな? 分からない、どうしたらいい?
これから、どうしたらいい? ウィンティアを守れるのかな?
「お嬢様?」
ナタリアが心配そうに声をかけてくる。
ワンピースが汚れたままだ。流石に着替えないと、トランクにパジャマがある。出さないと。口元はいつの間にかナタリアが拭いてくれていた。
まずは、着替えないと、まずは清潔第一だね。
立ち上がろうとすると、再びフラッシュバック。
浴槽に、無理やり沈められるウィンティア。
本当に、このローザ伯爵家、録な連中じゃない。
コクーン修道院では、なんの問題もなく、子供達と大浴場で入っていたはずなのに。
なんで、ここに来た途端に思い出すんだろう。やっぱり、ここに帰って来たのは間違いだったのかな。
「お嬢様」
そっと、私の肩に触れたのは、ナタリアだ。
「さあ、私がお側におります」
すごく優しい声が染み込んでいく。
「お着替えして、ゆっくりお湯に浸かりましょう。コクーン修道院からの移動でお疲れでしょう? さ、今日はもうお休みにしましょう」
不思議。
ウィンティアの身体が、ナタリアの言葉に素直に従う。
ああ、ウィンティアって、とっても素直な子なんだ。
言われるがまま、私はお風呂に。髪くらい自分でするのに、洗ってくれた。微かに花の香りがするシャンプーやコンディショナーで、ウィンティアの髪が輝く。
ふわふわのタオルで拭いてもらい、差し出されたのは、着心地のよさそうなふわふわのパジャマ。コクーン修道院から持ってきたものではない。
「それ、大丈夫?」
ふわふわのパジャマは、ローザ伯爵家が準備したものなら、正直着るのが不安。
私の顔を見て、ナタリアは素早くパジャマを広げて隅々までチェック。
「大丈夫ですっ」
どやっ。
年相応の顔で、どやっ。
一生懸命が、伝わってくる。
………………ナタリアは信じていいかも。ね、ウィンティア。
そこでローザ伯爵家で初めて反応が来た。「うん」だ。
あの赤い本の中で、ナタリアはウィンティアとは関わりはなかった。おそらく、ウィンティアの祖母が動いた結果が、こうやって違う流れになってきているんだ。
ナタリアが甲斐甲斐しく世話をしてくれるのが、心地いい。
髪を丁寧に櫛でとかしてくれる。
ふわあ、とウィンティアの髪が輝く。
「ふふっ、お嬢様の髪って、ミルクティーみたいですね。甘い匂いがしそうです」
えっ?
ドキリ、と内側のウィンティアが反応。
「ミルクティー?」
「はいっ」
腐ったどぶのようだ、何度言われたことか。
何度も何度も言われた。
髪は、ウィンティアのコンプレックスだった。
それなのに。
ナタリアは丁寧にウィンティアの髪に櫛をとおす。
内側に籠ったウィンティアが、反応に困っている様子だけど、いやがってはいない。
髪が整い、ベッドに、と言うときに思い出す。
「服、洗わないと」
汚れたワンピース、そのままだ。洗濯機ないから、手洗いしないと。
「あ、マルカ夫人が調べるから、流さないようにと言われましたのでそのままで大丈夫ですよ」
「調べる?」
「はい」
何を? 理由は次の日にマルカさんから聞くことになる。
ベッドも隅々までナタリアチェックが入る。
「大丈夫ですっ」
どやっ。
私は素直にベッドに潜り込む。やっぱり疲れていたのかもしれない。ウィンティアはまだ十二歳だもんね。休ませよう。
はあ、ふわふわのベッドだ。
ナタリアが優しく布団をかけてくれる。
そして、ぽんぽん、と肩を優しくぽんぽん。
………………………凄く、眠くなって来た。
何、なんだか、凄く小さな子供の扱いじゃない? 凄く慣れてない?
あ、眠気が来た。何、このぽんぽん、魔法? まさか、魔法?
そう言えば。
「ナタリア……………」
あのナタリアと並んだ被害者の名前、ヴァレリーってあった。名字が一緒だし、年齢的に弟の可能性がある。もしかしたら、ヴァレリーってのが弟で、小さな頃にお世話したんじゃないかな? それならこの慣れた感の理由はわかる。
どう行った経緯で被害者の名前に連なったか、分からない。まず、一つ確認。
眠気に耐える。
「はい」
「小さな兄弟でも、いるの?」
「はい。まだしたの弟が、幼いので」
「そう……………」
名前を聞きたいけど、眠気が勝ってしまった。
86
お気に入りに追加
551
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる