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伯爵家での生活⑤

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「お嬢様、お風呂の準備が出来ました」

 私はナタリアに連れられて部屋に戻っていた。ぼんやりとソファーに座った。
 しばらくしてかなりお年の女医さんが来て、色々聞かれたり、お腹を触って確認していった。
 ナタリアがお見送りしている。少し丸くなった背中を私も見送る。
 やっぱり、靄をかけたくてならない事が、ウィンティアの身の上にあったんだ。
 ローザ伯爵家に戻って来たのは、間違いだったか? ウーヴァ公爵家の話を受けていた方が良かったか?
 ぐるぐると頭が回る。
 あの赤い本には、ウーヴァ公爵家にしては、ウィンティアの価値は、共同特許だけだった。
 だが、ウィンティアの祖母が違う動きをしたため、少し流れが変わり始めている。
 もしかしたら、ウーヴァ公爵家も違うのかな? 分からない、どうしたらいい?
 これから、どうしたらいい? ウィンティアを守れるのかな?

「お嬢様?」

 ナタリアが心配そうに声をかけてくる。
 ワンピースが汚れたままだ。流石に着替えないと、トランクにパジャマがある。出さないと。口元はいつの間にかナタリアが拭いてくれていた。
 まずは、着替えないと、まずは清潔第一だね。
 立ち上がろうとすると、再びフラッシュバック。

 浴槽に、無理やり沈められるウィンティア。

 本当に、このローザ伯爵家、録な連中じゃない。
 コクーン修道院では、なんの問題もなく、子供達と大浴場で入っていたはずなのに。
 なんで、ここに来た途端に思い出すんだろう。やっぱり、ここに帰って来たのは間違いだったのかな。

「お嬢様」
 
 そっと、私の肩に触れたのは、ナタリアだ。

「さあ、私がお側におります」
 
 すごく優しい声が染み込んでいく。

「お着替えして、ゆっくりお湯に浸かりましょう。コクーン修道院からの移動でお疲れでしょう? さ、今日はもうお休みにしましょう」

 不思議。
 ウィンティアの身体が、ナタリアの言葉に素直に従う。
 ああ、ウィンティアって、とっても素直な子なんだ。
 言われるがまま、私はお風呂に。髪くらい自分でするのに、洗ってくれた。微かに花の香りがするシャンプーやコンディショナーで、ウィンティアの髪が輝く。
 ふわふわのタオルで拭いてもらい、差し出されたのは、着心地のよさそうなふわふわのパジャマ。コクーン修道院から持ってきたものではない。

「それ、大丈夫?」

 ふわふわのパジャマは、ローザ伯爵家が準備したものなら、正直着るのが不安。
 私の顔を見て、ナタリアは素早くパジャマを広げて隅々までチェック。

「大丈夫ですっ」

 どやっ。
 年相応の顔で、どやっ。
 一生懸命が、伝わってくる。
 ………………ナタリアは信じていいかも。ね、ウィンティア。
 そこでローザ伯爵家で初めて反応が来た。「うん」だ。
 あの赤い本の中で、ナタリアはウィンティアとは関わりはなかった。おそらく、ウィンティアの祖母が動いた結果が、こうやって違う流れになってきているんだ。
 ナタリアが甲斐甲斐しく世話をしてくれるのが、心地いい。
 髪を丁寧に櫛でとかしてくれる。
 ふわあ、とウィンティアの髪が輝く。

「ふふっ、お嬢様の髪って、ミルクティーみたいですね。甘い匂いがしそうです」

 えっ?
 ドキリ、と内側のウィンティアが反応。

「ミルクティー?」

「はいっ」

 腐ったどぶのようだ、何度言われたことか。
 何度も何度も言われた。
 髪は、ウィンティアのコンプレックスだった。
 それなのに。
 ナタリアは丁寧にウィンティアの髪に櫛をとおす。
 内側に籠ったウィンティアが、反応に困っている様子だけど、いやがってはいない。
 髪が整い、ベッドに、と言うときに思い出す。

「服、洗わないと」

 汚れたワンピース、そのままだ。洗濯機ないから、手洗いしないと。

「あ、マルカ夫人が調べるから、流さないようにと言われましたのでそのままで大丈夫ですよ」

「調べる?」

「はい」

 何を? 理由は次の日にマルカさんから聞くことになる。
 ベッドも隅々までナタリアチェックが入る。

「大丈夫ですっ」

 どやっ。
 私は素直にベッドに潜り込む。やっぱり疲れていたのかもしれない。ウィンティアはまだ十二歳だもんね。休ませよう。
 はあ、ふわふわのベッドだ。
 ナタリアが優しく布団をかけてくれる。
 そして、ぽんぽん、と肩を優しくぽんぽん。
 ………………………凄く、眠くなって来た。
 何、なんだか、凄く小さな子供の扱いじゃない? 凄く慣れてない?
 あ、眠気が来た。何、このぽんぽん、魔法? まさか、魔法?
 そう言えば。

「ナタリア……………」

 あのナタリアと並んだ被害者の名前、ヴァレリーってあった。名字が一緒だし、年齢的に弟の可能性がある。もしかしたら、ヴァレリーってのが弟で、小さな頃にお世話したんじゃないかな? それならこの慣れた感の理由はわかる。
 どう行った経緯で被害者の名前に連なったか、分からない。まず、一つ確認。
 眠気に耐える。

「はい」

「小さな兄弟でも、いるの?」

「はい。まだしたの弟が、幼いので」

「そう……………」

 名前を聞きたいけど、眠気が勝ってしまった。
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