ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

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ゲスな⑨ ※注意

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 ざ、と読んだが、ほとんどゲーム内容と一致している。違うのはやはりウィンティアはローザ伯爵夫妻の実子だと言うこと。ティアラ・ローザという人は存在するが、ウィンティアが生まれるずいぶん前に亡くなっていた。病死だった。婚約者はいた、ただし名前はレオナルド・キーファーだった。そして、特別ルートなんてないこと。
 言えるのはキャサリンは『魅了』の力を持ち、ローザ伯爵夫妻や使用人達を先導して、レオナルドを奪った。そして、レオナルドも『魅了』状態だった事。王子の護衛騎士として『魅了耐性』の訓練を受けていたはずであるレオナルドでさえ、支配下に置いたキャサリンの『魅了』は強かった。
 何より違うのは結婚式だ。
 由緒正しき教会で式、そしてウーヴァ公爵家の庭でガーデンパーティーの予定だったが、トラブル発生。
 何処からか、喪服の集団が現れた。教会だから、当然お墓もあるが、その集団は純白のウェディングドレスとタキシードで身を包んだキャサリンとレオナルドに、一斉にトマトを投擲。

 人殺し、恥知らず、神よ許したまえ、ウィンティアを返せ、この結婚に、

 不幸を。

 喪服の集団はウィンティアの友人達、そして最後の時を過ごした修道院のシスター達だった。
 投擲されたトマトはほとんど届かなかったが、いくつかは命中して、純白の衣装を赤く染めた。まるで、血のように。

「それはウィンティアが流した血の涙よっ。この恥知らずっ、人殺しっ」

 人殺し、人殺し、人殺し。
 
 繰り返される、叫ぶ、呪いを込めた様な言葉。
 それで、レオナルド、軽度の魅力状態だった結婚式の参列者は目を覚ました。
 やっとそこで、キャサリンの『魅了』が発覚した。
 ローザ伯爵家は、次女ウィンティアに対するネグレクト。そしてキャサリンの為に抱えているセーレ商会の資金を長年に渡って横領していたことが明るみになり、爵位返上断絶。ローザ伯爵夫妻は長く『魅了』状態にあったために、その反動が厳しく、数年間苦しみそう抜いて死亡。持っていた伯爵時代の資金は、全てキャサリンの借金で飛んでいき、まともな治療環境になかったこともある。下層の貧民街で輝くような貴族夫妻の惨めな姿の末路を迎えた、と。
 前ローザ伯爵、ジェフリー・ローザは尋問が終わった次の日に、服毒自殺した、と。
 レオナルドは、護衛騎士を辞した後は行方不明。
 クラーラ元伯爵夫人の実家も影響を受けて、社交界から追放された。この実家、ランダ子爵は、ルルディ王国の辺境伯の元で要職についていたが、追われたと。ランダ子爵もキャサリンの『魅了』の影響で、ウィンティアに対して、存在を無視していたからだ。
 じつは被害者はウィンティアだけではなかった。キャサリンのせいで、いくつかの婚約が破綻。死者はこそでなかったが、令嬢達は悲惨な目に会っていた。修道院に行けるのはまだましだが、無一文で放り出され賊に襲われ、なぶりものにされて、奴隷として売り飛ばされている女性が数人。国が探しだしたが、すでに精神崩壊を起こして、保護したと。

 で、キャサリンだが、教会が強力な『魅了封じ』を行い、顔を薬品で半分焼かれた。喉は潰され、見事な金髪は根本から切られ、治療の為に髪が抜け落ちた子供達のために、かつらが作成された。そして、騎士団の『魅了耐性』訓練に使用される道具として扱われ、人として扱われることなく十六年後、寝床となっていた地下室で冷たくなっているのを発見される。遺体は森に捨てられ、森で獰猛な熊が出ていたので、腹に毒物を仕込んで放置した。
 これ程厳しい処置をされたのは、キャサリンが自分の『魅了』の力を十分理解し、それを使用してから事を起こしたからだ。それだけ『魅了』とは、分かっていて使用するのは悪質だとされた。
 もし、キャサリンが『魅了』の力に気付き、自ら適宜『魅了封じ』を受けていたら、処罰はずいぶん変わっただろう、と。

「これが真実ですよ。ティーナが動かなかった場合のね」

「ティーナ、ウィンティアのお婆ちゃん」

「そうです」

 神様が頷く。

「何故、ティーナに魅力が効かなかったか、分かります?」

「いいえ」

「ティーナには神官となる素質があり、生まれつき魅力のような精神に作用する力に対して、耐性を持っていました」

 それで、ティーナ夫人だけは、キャサリンの『魅力』から逃れて、ウィンティアを救いだしたのか。

「そして、この本の存在を予見した。ごく一部ですけどね。この予見の力はこの時にしか作動しなかった」

 私は赤い表紙に視線を落とす。

「ティーナには断片的にしか分からなかったけど、ウィンティアを守ろうとこれとは異なる行動を起こした。それがあの別荘での五年です」

 あの森に囲まれた、赤い屋根の屋敷での生活は、ウィンティアの幸せな記憶。

「ただ、予想外な事が起きて、ティーナは死に直面した。最後の力を振り絞り、ウィンティアに守りの力を付けた。未来がどうなるか分からなかったからです」

 神様はため息。
 予想外な事。毒の事だよね。

「この守りの力が必要ないことを願いながら、ティーナは私の元に来ました。だけど、守りの力が必要となってしまった。ウィンティアは身体ではなく、精神的な死に直面してしまったのです」

 まさか、私がウィンティアの中に同居を始めた頃?

「そうです。ウィンティアの心の崩壊を防ぐために守りの力が発動しました。肉体を失い、漂っていた貴女、山岸まどかの心を掴まえて、ウィンティアの中に入れた。それにより、ウィンティアは心を繋ぎ止め、延命したのです」

 なんだか、私の存在も役に立ったのかな。それならいいけど。
 コクーン修道院では、穏やかにウィンティアは生きていた。
 しかし、僅か八歳の女の子が心の崩壊って、何があったの? もし何もなければ、私はウィンティアの中で、温かく揺蕩っていた。何も考えずに、ね。

「今回、ローザ伯爵家に戻るという事は、ウィンティアの古傷を抉り出す結果となり、内側にいた貴女が出てくる事になりました」

「これって、良くある事ですか?」

「いいえ」

 首を横に振る神様。

「これは奇跡なんですよ。ティーナに神官の素質があること、そして、貴女とウィンティアの心の波長が合わないと不可能なんですよ」

 そうなんだ。

「いつ、内側のウィンティアが出てきます?」

「ノーコメント」

 何故にっ。

「では、この本はいつ発行されます?」

「半世紀後ですね」

 大分先っ。なら、未来の話だけど、話が異なってきているはず。

「そうです。既にこの本の内容とは、異なる様相になってきています。貴女の行動次第で変わる未来があります」

「私が自殺しなければいい話ですよね?」

「そう簡単ではないのですよ」

 神様は指先で示した、被害者の名前が変わっている。リリーナ・エヴァエニス、毒杯、享年二十三。
 ちょっと待った、被害者出るのっ。ど、毒杯って何よ。

「この被害者は変わり続けます」

 そんな。
 このリリーナって子をどうにか出来ても、別の女性が被害者の名前に上がるの? どうにか出来ないかな? もしかしたら、あのキャサリンってのを。私に? まさか、まさか。
 まさか。

「貴女に人は殺せない」

 ギクッ。

「ウィンティアも誰も望んではいません」

 なら、どうしろって言うんだ、私に。

「私に何をしろと?」

「貴女とウィンティアが立てた七つの願い」

 あ、コクーン修道院で立てた。

「まずはそれを叶えるように動きなさい。何かしらの分岐点に差し掛かれば、また、会いましょう。この事例七が消えた時、私は貴女の望みを叶えましょう。私が出来る範囲でね」
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