上 下
23 / 338

ゲスな③

しおりを挟む
「キャサリンッ、そもそも今日は時間に遅れないようにってあれだけ言ってあったでしょうっ」

「だって、マルク様がもっとお話しましょうって、離して下さらないんですもの」

 ぽ、と頬を赤くするキャサリン。見た目がいいから、緩い男なら落ちそうだ。

「マルク? あなた、まさか」

「クラーラ夫人」

 底冷えのするマルカさんの声に、ローザ伯爵夫人が、青ざめた顔で振り替える。

「後退室願えませんか? そちらの方もね」

 マルカさんがキャサリンを視線で示す。

「まぁっ、使用人の身分でお母様に指図するなんてっ」

「キャサリン止めなさいっ。マルカ夫人、お見苦しい所をお見せしました」

「ええ、私もこんな場面に遭遇するなんて、初めてです。後で伯爵当主との面会を要求します」

 まるで最後通告のように、ローザ伯爵夫人が受け取る。

「わ、分かりました。主人と話をしておきますので、あの、ウィンティア、ごめんなさいね」

「何に?」

 今までローザ伯爵夫人に無言を貫き、言葉を放っていなかった私から出たのは、無機質な声だった。その声に僅かに怯む。

「ノックもしなかった事? 勝手に服を漁った事? 大した顔でないこと? ローザ伯爵には、一人娘しかいないって事? ウィンティアなんて知らないって事?」

 母親はぐうの音もない様子だが、ふんだっ。

「まあ、あなた、伯爵夫人であるお母様に対して不敬よっ」

「じゃあ、あんたはどうなのよ」

 反射的に言い返す。
 あれだけメイド達が制止したのに、ノックもせず部屋に入り、勝手に衣装部屋を漁った。

「礼儀って言葉知ってる?」

 思いっきりバカにしたように言ってやる。
 すると、キャサリンは驚いたようだが、何故か母親にすがりつく。

「お母様っ、あの子、怖いわっ。使用人の立場も知らないでっ、お父様に言ってすぐにあの子をっ、きゃっ」

 ローザ伯爵夫人はキャサリンの腕のワンピースを取り上げる。すぐに受け取るのは、ナタリアだ。

「キャサリン、来なさい」
 
 低音の冷たい声を響かせて、ローザ伯爵夫人はキャサリンを引きずるように退室。

「きゃあ、痛いですわ、お母様っ、どうなさったのっ」

 やっと、耳障りな声が聞こえなくなった。

「ウィンティアさん、座りましょうか?」

「はい、マルカさん」

 アイボリーのソファーに座る。ふう、と息をつく。

「すみません、一人になりたいです」

 マルカさんは少し考えて、判断を下す。

「分かりました。私は近くの部屋に控えましょう。何かあれば呼びなさい」

「はい」

「あ、あのウィンティアお嬢様、お茶をっ」

 ナタリアが腕に抱えた服を整えながら、言ってくれるが、断る。

「今は喉を通らないから」

 しゅん、と沈むナタリア。
 申し訳ない思いになるが、ナタリアにも退室してもらった。

 さあ、思い出したゲームの内容と現状を擦り合わせをしないと。
 ゲーム内のウィンティアには、傷なんてなかったのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

処理中です...