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ゲスな②

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 思い出す度に胸が苦しくなるのは、あのウィンティアの最後の姿。
 だけど、本当にこの世界はあの『七色のお姫様 ゲスな恋をあなたと』なんだろうか? そんなにやり込んだゲームではなかったが、現在のウィンティアと、ゲームのウィンティアが違う。
 考え込んでいる間もギャラリーは大騒ぎだ。

「キャサリンお嬢様っ、ここはウィンティアお嬢様のお部屋ですっ」

 ナタリアが必死に言ってる。

「だあれそれ? ここは私の部屋なのよ。それなのにお母様が鍵なんかかけちゃって」

 んんん?
 いま、聞き捨てならないセリフがあった。
 制止していたメイド達が絶句しているのが、空気として伝わってくる。
 ちょっと待って、妹の名前、知らないの?
 え? ふざけてるの? もしかして、ナタリアを試してるの? ふざけてるの? 本当に知らないの?
 遮っていたマルカさんの背中が、怒気を纏うのを感じる。

「や、止めてくださいっ」

 ナタリアが止めている声が響く。
 衣装部屋からやっとキャサリンが出てきた。その細い腕には何着かの服、おそらくワンピースがかけられている。
 
「これは仕立て直しすから、ミセス・ヘスラのお店に連絡してちょうだい。後で帽子と靴はみるから。あ、手前にあるのは着ないから、教会のバザーに出してちょうだい」
 
 今まで制止していたメイド達が、ナタリアを含めて呆れ返る。
 何を言ってんの、こいつ?
 綺麗に揃ってそんな顔。
 そして、やっと、私とマルカさんの存在に意識が向く。

「あら、新しい使用人かしら? まあ、なんてみっともない格好なの? うちはルルディ王国ではまだ新興貴族だけど、シャンプーでは国内トップシェアのセーメ商会を持つローザ伯爵家よ。うちは商会職員も使用人も美意識を高く持つのがモットーなのよ」

 偉そうに。
 私の服は、コクーン修道院からの簡素なワンピースだ。ローザ伯爵家に帰るにあたり、色々送ってきてあったが、未開封のまま木箱に眠っている。ローザ伯爵家からの郵便物はすべて木箱の中にあり、一応持ち帰っている。玄関先に放置してあるけどね。
 びきびき、マルカさんの怒りに、効果音が付きだした。
 私はと言うと、嫌悪感がマックスだ。
 おそらく、顔に出ていたんだろう。偉そうにぺっちゃくってるキャサリンが、むうっ、と頬を膨らませる。見た目は可憐な美少女の、むうっ、は事情を知らない誰かが見たら、目を奪われるだろうが。この場には、誰もそんなことにはならない。

「もう、そんなに可愛くない顔したら、もっと可愛くないわよ。セーメ商会は女性が美しくなるお手伝いする為に、皆、美しくならなくてはならないの。大した顔でもなくても、せめて笑顔を浮かべなさい。多少はましになるわよ」

 ふふっ、と笑うキャサリン。

「私って、やっぱり優しいわ。こんな新しい使用人にも丁寧に説明してあげるって。私をまだ知らないわね。私はキャサリン・ローザ、このローザ伯爵家の一人娘よ」

 んんんっ? んんんっ? んんんっ?
 一気に、キャサリンを見る目が、珍獣になる。

「キャサリンッ、あなた、何をしているのっ」

 そこにやって来たのは、母親、クラーラ・ローザ。

「あ、お母様。鍵がやっと開いたから、中を確認していましたの。あのベッドと机は撤去してくださいな。それから、ガラスのテーブルを」

「ここはウィンティアの部屋よっ。あなた、何を、その服は」

「だって袖を通していませんから、仕立て直しせば、と思って」

「それはウィンティアのために用意したものよっ」

「もうっ、ウィンティア、ウィンティアってさっきから、誰ですのそれ? 親戚類にそんな名前の子いませんでしょう」

 本当にこいつ、何? 何? 何?
 さっきから、メイドの制止は聞かない、勝手にウィンティアに用意された衣服を漁り、一人娘だと言い放った。
 聞いた、クラーラ・ローザが目眩でも起こしそうだ。
 私はそのやり取りを、完全に他人の会話のように聞いていた。聞いていたが、情報の擦り合わせをしたい。
 このバカ騒ぎ、他所でやってもらいたい。
 なら、簡単だ。

「マルカさん」

「はい、どうしましたウィンティアさん。まぁ、顔色が悪いわ」

「少し静かに、一人になりたいんです」

「そうよね」

 マルカさんはため息を出したがら、嫌悪の視線をキャサリンとクラーラ夫人に投げ掛ける。
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