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ゲスな①
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ナタリアに続き、マルカさんと回る。ベランダからは庭が一望できる。わあ、綺麗な庭。中央スペースが空いている。なんでだろ? いいや、後で時間あったら庭回ろう。
次はお風呂とトイレ。貴族って自分の部屋にお風呂とトイレあるの? お金持ち。でもお風呂は助かる、洗濯できる。
「次は衣装部屋になります」
衣装部屋って、ウォークインクローゼットだね。
貴族のお家って、個室はみんなこんなの? 優雅だ。
ぞろぞろと移動していると、廊下が賑やかになる。
小さな子供でもいるのかな? そうな風に思ってしまった。そうだわな、あのローザ伯爵夫妻はまだ若そうだし、ウィンティアがコクーン修道院にいる間に、一人二人子供増えてもおかしくはないか。
バタバタ、バタンッ
えっ、いきなり、ドアが開いたよ。勿論自動ドアなわけない。マルカさんが、さ、と私の前に立つ。
「やっと鍵が開いたわっ」
「お嬢様っ、いけませんっ」
………………ノックもないけど、これ、貴族の常識なわけ?
ずかずかと入って来たのは、ふわふわと靡くウェーブのかかった金糸の糸のような見事な金髪。白い肌、輝くような緑の目、まだ子供くらいだけど、手足が長く均整の取れた身体。水色の可憐なドレスを完璧に着こなした等身大の動くお人形。
あのローザ伯爵夫妻の良いところだけを抽出したような美少女。歳はナタリアと同じくらいだ。
見覚えがある。まさにあのまま成長した感じだ。
ローザ伯爵家長女のキャサリン。
見事な美貌だけど、あの頃となにも変わらない、纏う空気が我が儘さと、傲慢さを滲み出している。
マルカさんの眉間が寄る。ナタリアは戸惑いの表情。キャサリンの後ろにいるメイド達は慌てている。
「あら、何にもない部屋なのね」
不思議そう言いながら、ずかずか入って来る。私達を視界にいれたが、置物を見るような目。なぜいるのか、深く考えもせず、辺りを見渡す。
私は日本の一般人だけど、これってマナー的にどうなのよ? 凄く失礼じゃない?
「キャサリンお嬢様っ、こちらのお部屋はっ」
やっぱりキャサリンだった。
追いかけてきたメイドが止めようしているが、キャサリンは、ぱぁっ、と表情を明るくさせる。
端から見たら、美少女の愛らしい表情だけど、周囲はそうではない。
そして、まっしぐらに向かうのは、まだ案内されていてないドア。衣装部屋のドアを開ける。
「キャサリンお嬢様っ、いけませんっ」
必死に止めるメイドを完全無視。そのまま当たり前のように衣装部屋に入っていく。
………………………はあ? あそこ、ウィンティアの衣装部屋よね? つまり、クローゼットよね? あいつ、勝手に入っていったよ。
マルカさんが呆然というか、呆れた顔。
「あのキャサリンお嬢様、おやめくださいっ」
ナタリアが慌てて、止めるメイド達に加わる。
衣装部屋から、しゃ、しゃ、と音がする。服が吊るされたハンガーを動かしている音。
本当に、失礼過ぎない? 勝手に衣装部屋に入って服漁るなんて、失礼過ぎない? いくら姉妹でも失礼過ぎない?
「やだ、サイズ、ちょっと小さいわ。みんな地味ね、部屋着にもできないじゃない」
ぷんぷん、とかわいい筈のキャサリンの声が、神経を逆撫でる。
「キャサリンお嬢様っ、こちらのお洋服はっ」
「いいこと、普段着からも細やかな華やかさを持つ事が真の令嬢のマナーよ」
かちん。
あんたが、マナーとか言うの?
ノックはしない、取り上げず生物学上妹が、数年振りに帰って来るのに気付きもしない。しかも、普通、出迎えとかしないの? 玄関にいなかった。これだけ目立つから見逃すわけない。
呆れの感情から、一気に怒りに向かう。
我が儘ではない、あまりにもの無神経さが拍車がかかる。
お姉ちゃんなら、絶対にしない。山岸まどかの姉、山岸みどりは絶対にあんな礼儀知らずな事はしない。
最後に蟠りを残したまま、私は事故死。言いたい事が、たくさんありすぎるが、今はこいつだ。
「まったく、キャサリン・ローザの教育は……………」
マルカさんの呟きが、鼓膜に響いた瞬間。
脳裏に、色んな映像が流れ込む。
山岸まどかの記憶の欠片が、溢れ出す。
思い出した。思い出した。思い出した。
ウィンティア・ローザ。
山岸まどかがスマートフォンを自力で購入し、寝ぼけてダウンロードしてしまった恋愛ゲームのキャラクターだ。
何処かで、聞いた名前だと思った。
しかも、主役ではない。主役が次のルートに進むために必要なキーパーソン、踏み台、生け贄、そんな立ち位置のキャラクターだ。
掲示板では、可哀想、報われ過ぎない、不憫、薄幸そんな書き込みばかりのキャラクター。
私もあまりの結末にプレイを止めた。ダウンロードした手前、最後までするか、と言う変な義務感でプレイしていただけ。
七色のお姫様 ゲスな恋をあなたと
タイトルからして、私のプレイスタイルのものではなかったが、義務感でプレイ。七色をメインにしたそれぞれのヒロインを操作する。画像や動画が綺麗だったし、衣装も課金しなくてもログインボーナスや無料ガチャで、好きにカスタマイズできたので、ちまちまやっていた。
ウィンティア・ローザの役割。
キャサリン・ローザをヒロインに選んだ場合に出てくるキャラクター。ウィンティアはキャサリンに婚約者を奪われ、挙げ句の果てに自殺に追いやられる。
それをきっかけにしなければ次のルート、特別ルートに進めない。
そんな立ち位置のキャラクターだった。
次はお風呂とトイレ。貴族って自分の部屋にお風呂とトイレあるの? お金持ち。でもお風呂は助かる、洗濯できる。
「次は衣装部屋になります」
衣装部屋って、ウォークインクローゼットだね。
貴族のお家って、個室はみんなこんなの? 優雅だ。
ぞろぞろと移動していると、廊下が賑やかになる。
小さな子供でもいるのかな? そうな風に思ってしまった。そうだわな、あのローザ伯爵夫妻はまだ若そうだし、ウィンティアがコクーン修道院にいる間に、一人二人子供増えてもおかしくはないか。
バタバタ、バタンッ
えっ、いきなり、ドアが開いたよ。勿論自動ドアなわけない。マルカさんが、さ、と私の前に立つ。
「やっと鍵が開いたわっ」
「お嬢様っ、いけませんっ」
………………ノックもないけど、これ、貴族の常識なわけ?
ずかずかと入って来たのは、ふわふわと靡くウェーブのかかった金糸の糸のような見事な金髪。白い肌、輝くような緑の目、まだ子供くらいだけど、手足が長く均整の取れた身体。水色の可憐なドレスを完璧に着こなした等身大の動くお人形。
あのローザ伯爵夫妻の良いところだけを抽出したような美少女。歳はナタリアと同じくらいだ。
見覚えがある。まさにあのまま成長した感じだ。
ローザ伯爵家長女のキャサリン。
見事な美貌だけど、あの頃となにも変わらない、纏う空気が我が儘さと、傲慢さを滲み出している。
マルカさんの眉間が寄る。ナタリアは戸惑いの表情。キャサリンの後ろにいるメイド達は慌てている。
「あら、何にもない部屋なのね」
不思議そう言いながら、ずかずか入って来る。私達を視界にいれたが、置物を見るような目。なぜいるのか、深く考えもせず、辺りを見渡す。
私は日本の一般人だけど、これってマナー的にどうなのよ? 凄く失礼じゃない?
「キャサリンお嬢様っ、こちらのお部屋はっ」
やっぱりキャサリンだった。
追いかけてきたメイドが止めようしているが、キャサリンは、ぱぁっ、と表情を明るくさせる。
端から見たら、美少女の愛らしい表情だけど、周囲はそうではない。
そして、まっしぐらに向かうのは、まだ案内されていてないドア。衣装部屋のドアを開ける。
「キャサリンお嬢様っ、いけませんっ」
必死に止めるメイドを完全無視。そのまま当たり前のように衣装部屋に入っていく。
………………………はあ? あそこ、ウィンティアの衣装部屋よね? つまり、クローゼットよね? あいつ、勝手に入っていったよ。
マルカさんが呆然というか、呆れた顔。
「あのキャサリンお嬢様、おやめくださいっ」
ナタリアが慌てて、止めるメイド達に加わる。
衣装部屋から、しゃ、しゃ、と音がする。服が吊るされたハンガーを動かしている音。
本当に、失礼過ぎない? 勝手に衣装部屋に入って服漁るなんて、失礼過ぎない? いくら姉妹でも失礼過ぎない?
「やだ、サイズ、ちょっと小さいわ。みんな地味ね、部屋着にもできないじゃない」
ぷんぷん、とかわいい筈のキャサリンの声が、神経を逆撫でる。
「キャサリンお嬢様っ、こちらのお洋服はっ」
「いいこと、普段着からも細やかな華やかさを持つ事が真の令嬢のマナーよ」
かちん。
あんたが、マナーとか言うの?
ノックはしない、取り上げず生物学上妹が、数年振りに帰って来るのに気付きもしない。しかも、普通、出迎えとかしないの? 玄関にいなかった。これだけ目立つから見逃すわけない。
呆れの感情から、一気に怒りに向かう。
我が儘ではない、あまりにもの無神経さが拍車がかかる。
お姉ちゃんなら、絶対にしない。山岸まどかの姉、山岸みどりは絶対にあんな礼儀知らずな事はしない。
最後に蟠りを残したまま、私は事故死。言いたい事が、たくさんありすぎるが、今はこいつだ。
「まったく、キャサリン・ローザの教育は……………」
マルカさんの呟きが、鼓膜に響いた瞬間。
脳裏に、色んな映像が流れ込む。
山岸まどかの記憶の欠片が、溢れ出す。
思い出した。思い出した。思い出した。
ウィンティア・ローザ。
山岸まどかがスマートフォンを自力で購入し、寝ぼけてダウンロードしてしまった恋愛ゲームのキャラクターだ。
何処かで、聞いた名前だと思った。
しかも、主役ではない。主役が次のルートに進むために必要なキーパーソン、踏み台、生け贄、そんな立ち位置のキャラクターだ。
掲示板では、可哀想、報われ過ぎない、不憫、薄幸そんな書き込みばかりのキャラクター。
私もあまりの結末にプレイを止めた。ダウンロードした手前、最後までするか、と言う変な義務感でプレイしていただけ。
七色のお姫様 ゲスな恋をあなたと
タイトルからして、私のプレイスタイルのものではなかったが、義務感でプレイ。七色をメインにしたそれぞれのヒロインを操作する。画像や動画が綺麗だったし、衣装も課金しなくてもログインボーナスや無料ガチャで、好きにカスタマイズできたので、ちまちまやっていた。
ウィンティア・ローザの役割。
キャサリン・ローザをヒロインに選んだ場合に出てくるキャラクター。ウィンティアはキャサリンに婚約者を奪われ、挙げ句の果てに自殺に追いやられる。
それをきっかけにしなければ次のルート、特別ルートに進めない。
そんな立ち位置のキャラクターだった。
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