ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

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帰る為に⑧

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 馬車が止まる。
 私は息を整える。
 ウィンティア、行くよ。
 返事はないが、それでいいかもしれない。今は眠っていてね。

「ウィンティアさん?」

「大丈夫です」

 私は腹を括ると、マルカさんが合図を送り、馬車の扉が開く。
 さあ、警戒の衣を着よう。
 向こうは僅か年齢一桁のウィンティアに、虐待をしていた連中なんだから。
 馬車の扉の向こうですでにローザ伯爵夫妻と、数人の使用人が待機していた。記憶のローザ伯爵夫妻から老け込んだ印象があるが、まだ、しっかり美しい夫妻。
 内側のウィンティアが、殻を纒だした。幾重にも、幾重にも。閉じ籠っていく。これが、ウィンティアの本当の気持ちなんだ。
 殻を纏い、自分を守ろうとしている。
 大丈夫よ、ウィンティア、私がいるからね。
 
「お帰りウィンティア」

 と、父親が言うが、何も響かない。母親もそわそわしている。

「ウィンティアさん」

 先に馬車を降りて、待ってくれるマルカさんが心配そうだ。
 息を再び整える。
 誰かが、手を差し出している。馬車を降りる介助してくれるのだろうが、見覚えがある。ローザ伯爵家の執事だ。幼いウィンティアをあの感謝祭の時に、馬車の荷物入れに押し込んだ執事だ。
 当然、そんな手を掴むわけない。私は一人で降りる。
 降りて、私は生物学上のウィンティアの両親と向き合う。
 絶対に、こいつらを、信頼しない。その意味を込めて睨み付け、無言を貫く。
 すると僅かに母親の方は動揺している。何を動揺しているんだ? 散々、ウィンティアに酷いことしたくせに。

「ウィンティア、長旅で疲れたろう? お茶とお菓子の準備もしてあるから」

 父親が言うが、全く信用できない。そのお茶とお菓子、前に並べた瞬間、奪うんじゃないか?
 御者がトランクを下ろしてくれた。長く御者をしてくれた御者さん。

「ありがとうございました」

「いえいえ」

 と、帽子を取って返事してくれる。

「お荷物お持ちします」

 そう言って、古いトランクを手にしようとしたのは、執事だった。

「触らないでっ」

 執事がトランクの取ってに触れる前に、取り返す。また、奪われる。散々、そうやって、ウィンティアは泣いて救いを求めても、誰も助けてくれなかった。僅かに緊張が走るが、知ったことじゃない。
 私はトランクに触れようとした執事を睨み付ける。

「失礼しました」

 執事は胸に手を宛てて、下がる。ふうっ、荷物は守れた。このトランクには日用品がびっしり詰まっている。これからここで学園で過ごす中で必要な日用品。

「ウィンティア、重いだろう、運んでもらいなさい」

「あんたに私を指図する資格はない」

 反射的に言葉が出た。僅かに、父親の顔が動いた。ハラハラと見守る使用人達、そして母親。

「ウィンティアさん。私が運びましょう」

「いいえマルカさん。これくらいの荷物、自分で運べます」

 これでもウィンティアはカーナを始め小さな子供達を、だっこやおんぶをしていた。これくらいの荷物運べる。
 息を整え、トランクの取ってを持ち、開いた扉の向こうに足を踏み入れた。
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