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帰る為に①

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「ウィンティア、体調はどうですか?」

「問題ありません院長先生。ご心配をおかけしました」

 あのウィンティアが内側に引きこもり、私、山岸まどかが表に出た院長室。
 ソファーで対面しているのは、あの話を持ってきた院長先生だ。近くにはシスタースロウが控えている。

「ウィンティア、今回の話、お断りしてもいいのですよ」

 気遣うように院長先生が言ってくれる。前回、あの話をして、ウィンティアが気絶したのを気にしての発現だろう。

「院長先生、私、この数日考えたんです。やっぱりローザ伯爵家に戻ろうって」

 見守っていたシスタースロウの表情が、いつもに増して固くなる。

「理由は?」

「学園に通いたいんです」

 学園。ルルディ王国国立学園。中高一貫の学園で、貴族であれば義務として通わなくてはならないが、優秀であれば平民も試験さえパスしたら通う事が出きる。

「学園に通って、友達を作りたい。たくさん勉強して自活できるようになりたいんです」

「ウィンティア……………」

 固い決意をしました、そんな顔をしてみせると、院長先生は感動したような顔だ。

「院長先生、よろしいですか? ウィンティア、酷なことを貴方に言います」

 黙っていたシスタースロウが、院長先生に断り話に加わる。

「ウィンティア。よく聞きなさい。貴女は少し特殊な立ち位置にいます。五歳で保護され、八歳で再び保護が必要となった貴女は好奇の目に晒されるでしょう。そして、ごめんなさい、触れてほしくないでしょうが、その額の傷が、避けられる要因になるはず」

 女性の場合の顔の傷は、忌避される。特に貴族女性であれば恥以外の何者でもない。中には傷が出来たからと、家から放逐したり、人知れず売り払ったりするのが後を絶たない。こういった修道院にいれるのは、まだまともな方だそうだ。ルルディ王国はコクーン修道院以外にも、さまざまな主要目的がある修道院がある。
 特に今、力を付けている第一側室が、傷のある貴族夫人や令嬢をことのほか嫌い、排除しようとする動きがあるそうだ、と、ウィンティアは立ち話をしていたシスター達の会話を聞いた。

(自分で望んだ傷じゃないのに。でもあくまで噂だから、参考までにしないと)

「はい。シスタースロウ。五歳の時は『魅了』による二次被害から守るためだったと知っています。傷に関してはどうしようもない事だと思っています。しかし、シスタースロウ、私、八歳の頃の記憶がひどく曖昧なんです」

 院長先生とシスタースロウの表情が強ばる。

「思い出そうとすると、靄がかかって」

「ウィンティア」

 珍しく院長先生が話を遮る。

「それは貴女が無意識に自分を守ろうとしているだけです。その靄はきっと貴女の心を守ろうとしているのです。いつかその靄が晴れるまでは、無理をしてはいけませんよ」

 どうやら、ウィンティアが曖昧に思い出せない、空白の記憶を院長先生は知っているが、話す気はないようだ。
 きっと守秘義務もあるし、ウィンティアの為なんだろう。

「では、私をローザ伯爵家に返す判断となさった理由をお聞かせください」

 私の問いに、院長先生は少し思考の海に沈んだ。
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