銀の鬼神とかわいいお嫁さん

鐘ケ江 しのぶ

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自分の仕事⑧

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 モーリスが持ってきた食料を全部食い尽くす。エミリアがお手伝いしたレーズンバターサンドを大事に食べた。帰ったら、美味しかったと言わないと。
 後ろで、ドラゴンの解体作業が始まっている。ある程度解体しないと運べないからだ。ズタズタになった皮鎧を脱ぐ。

「立てますか?」

「辺境伯様、どうぞ」

 モーリスとガッズの手を借りて、立ち上がる。
 前回もぐらぐらしたが、やはり今回も足がぐらぐらだ。なんとか手を借りて、ファランに乗る。

「先に離脱する、後は頼むぞ」

 と、解体に走り回る面々に伝えると、ゴーグル、マスクと手袋を装着し、血塗れの手を振ってくる。絵面はかなり、えぐい事になっているけどな。
 悪いが先に離脱する。正直くたくただ、腹もまだ食物をほっしている。賢いファランは体に響かない様に闊歩する。
 ゆっくり進み、到着したのは夕方だ。
 村には新しい人員が派遣されていて、次々に物資が運び込まれてくる。しばらく、ヒズ村は騒がしくなるはずだ。森の奥で解体されたドラゴンは、更にここで処理されて運び出される。しばらくドラゴンの素材欲しさに、各地から様々な人間が集まり、フォン辺境伯は賑わう。

「辺境伯様っ」

 ヒズ村の代表マイスが走ってくる。他の村人は、まだ家の中だ。

「ドラゴンは無事に討伐した。しばらくヒズ村は騒がしくなるが、しばらくだ。時期に収まる」

「はっ、はいっ」

 すると、家の中から歓声が上がる。

「何か不満がある場合、こちらも代表者を立てる」

「はいっ」

「それから、ドラゴンを発見した狩人を呼べ」

「は、はいっ」

 マイスが慌てて走り去り、直ぐにあの狩人を連れて帰って来た。狩人の顔に緊張の色が浮かぶ。

「名は?」

「ハンス、と申します」

 頭を下げて、やや強ばった声を出すハンス。

「ならばハンス。そなたに今回は褒美を与えよう」

「え?」

 と、下げていた顔をあげる。戸惑いの顔だ。

「ドラゴンを前にしての咄嗟の判断は見事だ。今、ヒズ村が無事であるのは、そなたの功績である。いずれフォン辺境伯より、ふさわしい褒賞を与えよう」

 自分の言葉に、震えるハンス。

「あ、あ、ありがとう、ございます」

 さて、そろそろ限界だ、自分が。

「私は休む、ガッズ、後の指揮を任せる」

「お任せを」

 ファランは慣れた騎士が連れていく。
 自分用のテントに入るとまずズタズタになった服を脱ぎ、軽く身体を拭き上げて、着なれたラフな格好になる。

「ご主人様、さあ、どうぞ、お召し上がりください」

 と、パンの籠と、葉野菜と肉の鍋ごときた。おそらく成人男性の五人分の食事を平らげる。ああ、落ち着いてきた。すると次は眠気がくる。

「モーリス」

「はい、ご主人様」

「休む」

「はい」

 そのまま横に倒れると、意識を飛ばした。
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